運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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 霧咲の両親は、もう鬼籍に入っている。
 元々霧咲が遅くに産まれた子というのもあるのだが、二人とも既に70歳を超える高齢で5年前に心疾患系の病気で立て続けにあっさりと亡くなってしまったのだ。
 年のせいもあるが二人とも古い考えの持ち主だったので、霧咲は自分の性嗜好については一生黙っていようと思っていた。
 大学まで行かせてくれた両親には感謝しているが、孫を抱かせてやることはできないのだし、同性が好きだなんて絶対に理解してくれないだろう。
 けれど、隠し通そうとしていたその秘密は蓉子の離婚騒動であっさりとバレてしまった。
 そして思った通り両親は理解してくれず、霧咲は勘当された。

『誠人、お前は実の妹をなんだと思っているんだ!! お前なんかもう息子でもなんでもない、赤の他人だ!!』
『妹の夫と密通するだなんて、まともな人間がすることじゃないわ! 同性が好きだなんてやっぱり普通じゃないのね! 信じていたのに……二度と私たちの前に姿を現さないでちょうだい!!』

 蓉子は、亜衣乃の世話は殆ど両親にやらせていたらしい。
 二人は亜衣乃を大事に育ててくれていたそうだが、やはり高齢の両親に赤ん坊の世話はきつかったのだろう。
 霧咲が与えた心労も加えて、寿命よりも早死にさせてしまったのだと思っている。
 亜衣乃が5歳になるまで……両親が死ぬまで、霧咲は亜衣乃に会うことはおろか、世話を手伝うこともさせてもらえなかった。
 親不孝な息子で申し訳なかったと思う。
 蓉子の別れた夫は亜衣乃の養育費は一円も払っていないと蓉子に聞いたため、霧咲は毎月実家に仕送りをしていた。
 しかし、両親の死後にその金には一切手を付けられていなかったことが分かった。
 そして財産分与の際、その金は蓉子が『亜衣乃を育てるために必要だから』とそっくりそのまま持って行った。
 養育費として送った金なのだし、亜衣乃のために使うなら特に文句はない。
 しかし実際に蓉子がどこまで亜衣乃のために使っているのかは分からない。
 蓉子は一応働いてはいるが金遣いが荒く、金が無くなればわざわざ亜衣乃を連れてK大までやって来て霧咲に金の無心をしてくるような女だ。
 亜衣乃に身体的な虐待はしていないし、最低限の食事や服、靴などは与えているようだが……。

『兄さんが亜衣乃のためにお金を出すのは当然でしょ? 亜衣乃は兄さんたちがあたしを騙して産ませた子なんだから。父親も同然よ!』

 このままネチネチと亜衣乃の出生について責め立てられ、一生蓉子に金をせびられるくらいならばいっそ霧咲が亜衣乃を引き取って養子にしようかと思ったこともある。
 しかし、真剣にその話をすると蓉子は逃げる。
 亜衣乃が手元からいなくなれば霧咲から金が貰えなくなると分かっているからだろう。
 それに、当の亜衣乃は母親と離れたいとは思ってないようなので、無理矢理引き離すわけにもいかない。
 亜衣乃が蓉子と離れたいと言ったら別だが……しかし今は霧咲も、あっさりと亜衣乃を受け入れてあげられる環境ではなくなっていた。

 10年振りに、恋人ができたのだ。
 その相手は榛名暁哉という男で、今度こそ……一生死ぬまで彼と一緒に居たいと思うほど、真剣な恋だった。
 榛名の言葉を借りるならば、彼は運命の人。奇跡のような、運命の出会いだった。
 榛名に蓉子と亜衣乃のことを話さなければいけないといつも思っている。
 自宅に呼んであげられないのも、いつ蓉子が亜衣乃を連れて来るか分からないからだ。

 榛名が亜衣乃の存在を知ったらどう思うだろう。
 亜衣乃が生まれた経緯を知ったら、繊細な榛名はどう感じるだろう。
 霧咲が亜衣乃を引き取ったとしても、この先榛名と変わらない関係のままでいられるだろうか?
 それに、もしも蓉子が霧咲の知らないところで榛名に接触し、脅して金を揺すろうとしたら?
 そして亜衣乃が年頃になった時に、自分たちの関係をどう説明すればいい?
 子供の前ではただの友人として接してればいいのだが、同じ家に住むようになればバレるのは時間の問題であり、教育に悪いことは確実だ。

 それでもきっと、榛名は全て受け入れてくれるような気がする。
 榛名のことを信じて、全部話してしまいたい。
   けれど、心のどこかで未だに榛名を――他人を信じきれていない自分が存在する。
 何故なら霧咲は当時、あの男のことも同じように信じきっていたからだ。
 でも、裏切られた。あんなひどい形で……。
 亜衣乃の父親は、霧咲が大学生のときから28まで付き合っていた男だった。

「暁哉……」

 霧咲は鳴らないスマホをじっと見つめて、ぽつりと恋人の名を呟いた。
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