運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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 二宮は榛名にスッとティッシュ箱を差し出した。
 榛名はそれを受け取り、涙を拭いて鼻をかむ。

「ありがとうございます。今からこんなに泣いちゃって、実際にフラれたときどうなるんでしょうね、俺……」

 榛名は少し笑って言ったが、二宮は全く笑わなかった。

「主任のことだから無いとは思いますけど、思い詰めて手首を切ったりしないでくださいよ」
「はは、そこまで繊細じゃないですよ」
 
 真冬に水はかぶったが、手首を切るなんて思春期の少女のような周囲に心配をかけるだけの行為はしない。
 自ら死のうだなんて……考えたこともない。 
 これは職業が多いに関係していると思う。
 どれだけ本人があがいたって、どんなにこちらが手を尽くしたって、人間死ぬときはあっさりと死ぬのだ。
 そんな場面を何度も見てきたので、榛名は自分が自死するイメージはない。
 しかし、それは今まで死にたいと考えるほど自分に辛い経験がなかったからなのかもしれない。

「本気で心配ですよ。あの、俺結構いつも暇してるんで、いつでも呼んで下さい。一人でいたら辛いと思いますんで……えーと、酒とか付き合いますし、愚痴でも泣き言でもなんでも聞きます」
「どうして二宮さん、俺にそんなに優しくしてくれるんですか?」

 音を立てて鼻をかみながら、榛名は二宮に聞いた。
 すると二宮はどこか神妙な顔をして黙った。

「……」
「二宮さん?」

 何気なく聞いた質問だったのに、なんだか二宮の様子がおかしい。

「……どうしてでしょうね。俺にもよくわかりません。けど、なんかほっとけないんですよ、主任って」
「え……」

 榛名が目を大きくして二宮を見つめると、二宮は困ったように笑った。

「理由はそれだけです」

 榛名が返事をする前に、二宮はすっと立ち上がった。

「じゃあ、俺はそろそろ帰りますね。長いことお邪魔してすみませんでした。……あと主任、少し無防備すぎです。俺は女が好きですけど、二人きりになるときはどんな男であろうと少しは警戒した方がいいですよ。男はみんな狼なんですから」
「俺も一応男なんですけど……」
「主任は羊の側ですよ、間違いなく」
「えぇ……?」

 二宮が見送りは玄関まででいいというので、榛名は玄関で二宮を見送ることにした。
 そして二宮が部屋を出る前に、先ほど言いそびれたことを言った。

「あの、二宮さん」
「なんですか?」

 二宮は座って靴紐を結びながら返事をする。
 榛名はそんな二宮の後頭部を見下ろしながら言った。

「俺……別に男が好きなわけじゃないですよ。霧咲さんだから、好きなんです」

 二宮は少し驚いた顔で榛名を振り向いたが、ふっと笑って「なんだか、霧咲先生が羨ましいです」と言った。
 その言葉は二宮の本心から出たもので、何か深い意味があるわけではない。
 榛名は返事はせずに二宮を見送った。
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