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51 父の病気
宮崎空港に着くなり、榛名はタクシーを捕まえて急いでM病院に駆け込んだ。
受付で父親の入院した病棟を聞いて、更にその階のナースステーションで病室を聞いて、個室に飛び込んだところ……。
「……」
倒れたと聞いた父は頭に包帯は巻いているものの、ケロっとした顔でベッドに座り、ケーキを食べていた。
傍には母と姉も座って、同じくケーキを食べている。
最初に反応したのは、姉の桜だった。
「あーくん!? ウソォ、帰ってきたとぉ!?」
榛名の顔を見るなり、榛名が今ここにいるのが信じられないとでもいうような表情だ。
父も同じく吃驚した顔をしており、母は少し気まずそうな顔をしていた。
「帰ってこいって言われたから無理矢理仕事抜けて帰ってきたっちゃけど……お母さんが、お父さんが死ぬかもって勢いで電話してきたかいさ……つーかマジでどういうこと? 何で呑気にケーキ食っちょっと? 何があったか詳しく説明してくれん?」
「お母さん、あーくんに何も説明しとらんとや!?」
詳しいことが分かったら電話をしてくれ、と東京での電話で母に言った。
なのに今の今まで母からの着信は一度もなかった。飛行機から降りたあとも。
「だって言ったら暁哉、羽田で引き返すやろうと思って……」
「はぁ?」
「もぉぉ、あーくんは東京で大事な仕事しちょっとよ!? 低血糖くらいで呼び戻すとか迷惑すぎるが――!」
「は? ……低血糖?」
「あ」
父が一瞬『やばい』という表情をしたのを榛名は見逃さなかった。
「お父さん、いつから糖尿病やったと? ていうかそれならケーキとかちょっとさあ……もう勘弁してよ……」
姉から聞いた話はこうだった。
なんと父は数年前――榛名が家を出てから数年後に糖尿病を患い、現在は悪化してインスリン注射(血糖を下げる注射)までしていたのだ。
そして会社で昼食を食べる前にインスリンの自己注射をしたのだが、突然緊急会議に呼び出されて昼食を食べ損ねた。
インスリンを打った後に食事を食べなかったのだから当然低血糖になり、父は会議室でぶっ倒れて頭を打って怪我をして病院に運ばれた……ということだった。
頭を怪我すると血が出やすい。
それで周りの人間もパニックになり、過剰な言い方で母に電話をしたのだろう。
頭なので大したことがないというわけでもないが、とりあえず命に別状はなかった。
すぐには来れずとも、休日にゆっくり見舞いに来たらいいぐらいのレベルだった。
現に、父は今はピンピンとしている。
頭にぐるぐると巻かれている包帯だけは痛々しいが……。
「それで……俺に糖尿病のこと黙ってたのはなんで? 一応俺の専門と言えば専門やっちゃけど」
「あーくんに怒られるのが嫌やったとよねー、お父さん」
「……」
姉の言葉に、父はバツが悪そうな顔でそっぽを向いた。
子どもか。
「なんやそれ……もう、ほんといい加減にして……」
しかし、年に一度は帰省しているというのに全然気付かなかった自分にも多少の問題はあるのかもしれない。
大したことがなくて良かったという安心感と、怒られたくなかったという父に呆れて、榛名は肩を落として脱力した。
「だって暁哉、全っ然帰ってこんから! お母さんはアンタの顔が見たかっただけやとよぉ!」
「いや、それは俺もごめんやけどさ……」
母が見たかったのは榛名よりも嫁の顔と孫の顔だろう、残念ながら見え見えである。
母は続けてここぞとばかりに言った。
「暁哉、アンタいつになったらこっちに帰ってくると!? 長男のくせに結婚もせずにいつまでも都会でフラフラしちょったらダメやって何回も言ってんのにもう、アンタは……! お母さんが電話で言っても全然言うこと聞かんから、呼び戻して直接説教しようと思っちょったとよ!」
「とりあえずその話は家でいい? ここ病院やし迷惑やろ。ところでなんでお父さんは入院まですることになっちょると? すぐ帰れるやろ」
榛名の質問に答えたのは、やはり姉だった。
「打ったのが頭やから、とりあえず精密検査しときましょうってお医者さん言っちょったよ」
「まじかぁ」
でもこの際、きちんと調べてもらってた方がいいかと思った。硬膜下血腫などは後に症状が出てくるので怖い。
もし父がこの歳で半身麻痺などになったら、自分も東京から戻って来ざるを得ないだろう。
受付で父親の入院した病棟を聞いて、更にその階のナースステーションで病室を聞いて、個室に飛び込んだところ……。
「……」
倒れたと聞いた父は頭に包帯は巻いているものの、ケロっとした顔でベッドに座り、ケーキを食べていた。
傍には母と姉も座って、同じくケーキを食べている。
最初に反応したのは、姉の桜だった。
「あーくん!? ウソォ、帰ってきたとぉ!?」
榛名の顔を見るなり、榛名が今ここにいるのが信じられないとでもいうような表情だ。
父も同じく吃驚した顔をしており、母は少し気まずそうな顔をしていた。
「帰ってこいって言われたから無理矢理仕事抜けて帰ってきたっちゃけど……お母さんが、お父さんが死ぬかもって勢いで電話してきたかいさ……つーかマジでどういうこと? 何で呑気にケーキ食っちょっと? 何があったか詳しく説明してくれん?」
「お母さん、あーくんに何も説明しとらんとや!?」
詳しいことが分かったら電話をしてくれ、と東京での電話で母に言った。
なのに今の今まで母からの着信は一度もなかった。飛行機から降りたあとも。
「だって言ったら暁哉、羽田で引き返すやろうと思って……」
「はぁ?」
「もぉぉ、あーくんは東京で大事な仕事しちょっとよ!? 低血糖くらいで呼び戻すとか迷惑すぎるが――!」
「は? ……低血糖?」
「あ」
父が一瞬『やばい』という表情をしたのを榛名は見逃さなかった。
「お父さん、いつから糖尿病やったと? ていうかそれならケーキとかちょっとさあ……もう勘弁してよ……」
姉から聞いた話はこうだった。
なんと父は数年前――榛名が家を出てから数年後に糖尿病を患い、現在は悪化してインスリン注射(血糖を下げる注射)までしていたのだ。
そして会社で昼食を食べる前にインスリンの自己注射をしたのだが、突然緊急会議に呼び出されて昼食を食べ損ねた。
インスリンを打った後に食事を食べなかったのだから当然低血糖になり、父は会議室でぶっ倒れて頭を打って怪我をして病院に運ばれた……ということだった。
頭を怪我すると血が出やすい。
それで周りの人間もパニックになり、過剰な言い方で母に電話をしたのだろう。
頭なので大したことがないというわけでもないが、とりあえず命に別状はなかった。
すぐには来れずとも、休日にゆっくり見舞いに来たらいいぐらいのレベルだった。
現に、父は今はピンピンとしている。
頭にぐるぐると巻かれている包帯だけは痛々しいが……。
「それで……俺に糖尿病のこと黙ってたのはなんで? 一応俺の専門と言えば専門やっちゃけど」
「あーくんに怒られるのが嫌やったとよねー、お父さん」
「……」
姉の言葉に、父はバツが悪そうな顔でそっぽを向いた。
子どもか。
「なんやそれ……もう、ほんといい加減にして……」
しかし、年に一度は帰省しているというのに全然気付かなかった自分にも多少の問題はあるのかもしれない。
大したことがなくて良かったという安心感と、怒られたくなかったという父に呆れて、榛名は肩を落として脱力した。
「だって暁哉、全っ然帰ってこんから! お母さんはアンタの顔が見たかっただけやとよぉ!」
「いや、それは俺もごめんやけどさ……」
母が見たかったのは榛名よりも嫁の顔と孫の顔だろう、残念ながら見え見えである。
母は続けてここぞとばかりに言った。
「暁哉、アンタいつになったらこっちに帰ってくると!? 長男のくせに結婚もせずにいつまでも都会でフラフラしちょったらダメやって何回も言ってんのにもう、アンタは……! お母さんが電話で言っても全然言うこと聞かんから、呼び戻して直接説教しようと思っちょったとよ!」
「とりあえずその話は家でいい? ここ病院やし迷惑やろ。ところでなんでお父さんは入院まですることになっちょると? すぐ帰れるやろ」
榛名の質問に答えたのは、やはり姉だった。
「打ったのが頭やから、とりあえず精密検査しときましょうってお医者さん言っちょったよ」
「まじかぁ」
でもこの際、きちんと調べてもらってた方がいいかと思った。硬膜下血腫などは後に症状が出てくるので怖い。
もし父がこの歳で半身麻痺などになったら、自分も東京から戻って来ざるを得ないだろう。
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