107 / 322
52 カミングアウト
病室に戻った榛名は、とりあえず看護師として父と母に説教した。
なぜインスリン注射になるまで放っておいたのか、食べ物はどうしてるのか、このままだと最終的にはどうなるのか……などなど。
父は神妙な顔で黙って聞いていた。
そして、病気のことを黙っていたことを謝った。
「……暁哉に黙っちょって悪かった」
「お母さんもなんで教えてくれんかったと? 普通息子が看護師やったら父親の病気のことくらい話すやろ! 居もしない俺の嫁やら孫の心配する暇があったら、まずお父さんの身体を心配せんね!」
これはずっと言いたかったことで、さすがの母もしゅんとした顔をしていた。
この分野においては、さすがに専門の息子には逆らえないらしい。
「じゃあ、お父さんは入院ついでに生活指導もしてもらおう……って、言わなくてもしてもらえるかな」
榛名は父を病室に残し、母と共に家に帰るべく駐車場へ向かった。
軽自動車の助手席に乗り込んで母と二人きりになると、何故か少しだけ緊張した。
しょっちゅう電話で話しているとはいえ、実際に顔を合わすのは久しぶりだからだ。
車を走らせながら、母が口を開いた。
「暁哉、まだ怒っちょる?」
「いや……それより腹が減った、かな」
もう暗くなっているが、窓の外を流れる懐かしい景色を横目で見ながら、榛名は少しぶっきらぼうに答えた。
思い返せば、朝に朝食をほんの少し食べて以来まともな食事を摂っていない。
一昨日の夜からずっとそうだ。
ちゃんと食べたのは、昨日二宮と食べた焼きそばくらいで……。
しかし、考えることが多すぎてあまり本格的な食欲は沸いてこない。
基本三大欲求とは何だったのか。
そういえば、霧咲とセックスをしている時もあまり空腹は感じないと思った。
性欲と食欲は同居しないものなのだろうか。
都会の空気がよく似合うあの人を思い浮かべながら、榛名は真逆の景色をぼんやりと見つめ続けた。
「……じゃあ今夜はアンタの好きなおかずでも作ろうかね」
「え、ラーメン?」
「それはおかずじゃないやろ!」
少しだけ、車内の空気が和やかになった。
その後、姉と姉の夫の高志が榛名家に来て、四人でなごやかな雰囲気で夕食を食べた。
姉達が帰ったあと、すっかりいつもの調子を取り戻した母に榛名は嫌な予感がしたのだが……
「暁哉、お母さんの知り合いでまだ結婚してない娘さんがいるっちゃけど、明日の昼間に会ってみらんね!?」
「うわぁ、来たよ」
その予感は、見事に当たった。
母はキラキラした目を榛名に向けながら、嬉々としてお見合い話を持ちかけてきたのだった。
「なんねその反応は! 結構可愛い子とよ? アンタが東京で暮らしてるって言ったら都会で暮らしちょるなんて素敵、憧れます~て言うちょったわ。期待してたらガッカリするよ~って言ったけど」
「それは余計なお世話やし」
いや、別にいいか。会う気はないけれど、会ってガッカリされるなら……いや、何故わざわざガッカリされるために会わないといけないのだろう。
そんなの絶対にごめんだ。
「あのさーお母さん、俺はまだ結婚とかする気ないし、宮崎に帰る気もないから余計なことせんでくれる?」
はっきりと断った。
しかし、そんな簡単に諦める母ではない。(現に榛名は、いつもはっきりと断っているのだ)
「そんなこと言わんと、一回会ってみてーん! 知り合いなんやからお母さんの顔を立てると思ってさぁ。アンタ明日クリスマスイブなのに一人で過ごすとか、独身の若い男がそれでいいと思っちょっと~!?」
「そんなのお母さんが心配することじゃないやろ……大体、普通に夜勤の予定やったとに今更……」
たとえ世間がクリスマスイヴであろうと、初めて会う顔も知らない女と過ごすよりは仕事をしていた方がよっぽどいい、と榛名は思う。
「クリスマスイブまで仕事すると~!?」
「普通に平日の夜なんやから誰かが仕事せんといかんやろ。休みは恋人や家族のいる人に譲ってあげたと。なのにこんなことになってさぁ……ほんとに職場の人に申し訳ないわ~……」
誰が榛名の代わりに夜勤をするのだろう。
お土産は透析室全体宛に買っていくつもりだが、変わってくれた人には個人的にあげてもいいかもしれない。
それか、明日の夜勤までに間に合うように東京に帰るか……。
でも、せっかく師長がくれた休暇を無駄にしたくもなかった。
「とにかく、会う気ないからね、俺」
もし気に入られたとしても、それは相手が可哀想だ。
わざわざ紹介されて気に入った相手が実はゲイでしたなんて、そんなの訴えられるだけでは済まないのではないだろうか。
なぜインスリン注射になるまで放っておいたのか、食べ物はどうしてるのか、このままだと最終的にはどうなるのか……などなど。
父は神妙な顔で黙って聞いていた。
そして、病気のことを黙っていたことを謝った。
「……暁哉に黙っちょって悪かった」
「お母さんもなんで教えてくれんかったと? 普通息子が看護師やったら父親の病気のことくらい話すやろ! 居もしない俺の嫁やら孫の心配する暇があったら、まずお父さんの身体を心配せんね!」
これはずっと言いたかったことで、さすがの母もしゅんとした顔をしていた。
この分野においては、さすがに専門の息子には逆らえないらしい。
「じゃあ、お父さんは入院ついでに生活指導もしてもらおう……って、言わなくてもしてもらえるかな」
榛名は父を病室に残し、母と共に家に帰るべく駐車場へ向かった。
軽自動車の助手席に乗り込んで母と二人きりになると、何故か少しだけ緊張した。
しょっちゅう電話で話しているとはいえ、実際に顔を合わすのは久しぶりだからだ。
車を走らせながら、母が口を開いた。
「暁哉、まだ怒っちょる?」
「いや……それより腹が減った、かな」
もう暗くなっているが、窓の外を流れる懐かしい景色を横目で見ながら、榛名は少しぶっきらぼうに答えた。
思い返せば、朝に朝食をほんの少し食べて以来まともな食事を摂っていない。
一昨日の夜からずっとそうだ。
ちゃんと食べたのは、昨日二宮と食べた焼きそばくらいで……。
しかし、考えることが多すぎてあまり本格的な食欲は沸いてこない。
基本三大欲求とは何だったのか。
そういえば、霧咲とセックスをしている時もあまり空腹は感じないと思った。
性欲と食欲は同居しないものなのだろうか。
都会の空気がよく似合うあの人を思い浮かべながら、榛名は真逆の景色をぼんやりと見つめ続けた。
「……じゃあ今夜はアンタの好きなおかずでも作ろうかね」
「え、ラーメン?」
「それはおかずじゃないやろ!」
少しだけ、車内の空気が和やかになった。
その後、姉と姉の夫の高志が榛名家に来て、四人でなごやかな雰囲気で夕食を食べた。
姉達が帰ったあと、すっかりいつもの調子を取り戻した母に榛名は嫌な予感がしたのだが……
「暁哉、お母さんの知り合いでまだ結婚してない娘さんがいるっちゃけど、明日の昼間に会ってみらんね!?」
「うわぁ、来たよ」
その予感は、見事に当たった。
母はキラキラした目を榛名に向けながら、嬉々としてお見合い話を持ちかけてきたのだった。
「なんねその反応は! 結構可愛い子とよ? アンタが東京で暮らしてるって言ったら都会で暮らしちょるなんて素敵、憧れます~て言うちょったわ。期待してたらガッカリするよ~って言ったけど」
「それは余計なお世話やし」
いや、別にいいか。会う気はないけれど、会ってガッカリされるなら……いや、何故わざわざガッカリされるために会わないといけないのだろう。
そんなの絶対にごめんだ。
「あのさーお母さん、俺はまだ結婚とかする気ないし、宮崎に帰る気もないから余計なことせんでくれる?」
はっきりと断った。
しかし、そんな簡単に諦める母ではない。(現に榛名は、いつもはっきりと断っているのだ)
「そんなこと言わんと、一回会ってみてーん! 知り合いなんやからお母さんの顔を立てると思ってさぁ。アンタ明日クリスマスイブなのに一人で過ごすとか、独身の若い男がそれでいいと思っちょっと~!?」
「そんなのお母さんが心配することじゃないやろ……大体、普通に夜勤の予定やったとに今更……」
たとえ世間がクリスマスイヴであろうと、初めて会う顔も知らない女と過ごすよりは仕事をしていた方がよっぽどいい、と榛名は思う。
「クリスマスイブまで仕事すると~!?」
「普通に平日の夜なんやから誰かが仕事せんといかんやろ。休みは恋人や家族のいる人に譲ってあげたと。なのにこんなことになってさぁ……ほんとに職場の人に申し訳ないわ~……」
誰が榛名の代わりに夜勤をするのだろう。
お土産は透析室全体宛に買っていくつもりだが、変わってくれた人には個人的にあげてもいいかもしれない。
それか、明日の夜勤までに間に合うように東京に帰るか……。
でも、せっかく師長がくれた休暇を無駄にしたくもなかった。
「とにかく、会う気ないからね、俺」
もし気に入られたとしても、それは相手が可哀想だ。
わざわざ紹介されて気に入った相手が実はゲイでしたなんて、そんなの訴えられるだけでは済まないのではないだろうか。
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕