運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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52 カミングアウト

 病室に戻った榛名は、とりあえず看護師として父と母に説教した。
 なぜインスリン注射になるまで放っておいたのか、食べ物はどうしてるのか、このままだと最終的にはどうなるのか……などなど。
 父は神妙な顔で黙って聞いていた。
 そして、病気のことを黙っていたことを謝った。

「……暁哉に黙っちょって悪かった」
「お母さんもなんで教えてくれんかったと? 普通息子が看護師やったら父親の病気のことくらい話すやろ! 居もしない俺の嫁やら孫の心配する暇があったら、まずお父さんの身体を心配せんね!」

 これはずっと言いたかったことで、さすがの母もしゅんとした顔をしていた。
 この分野においては、さすがに専門の息子には逆らえないらしい。

「じゃあ、お父さんは入院ついでに生活指導もしてもらおう……って、言わなくてもしてもらえるかな」

 榛名は父を病室に残し、母と共に家に帰るべく駐車場へ向かった。
 軽自動車の助手席に乗り込んで母と二人きりになると、何故か少しだけ緊張した。
 しょっちゅう電話で話しているとはいえ、実際に顔を合わすのは久しぶりだからだ。
 車を走らせながら、母が口を開いた。

「暁哉、まだ怒っちょる?」
「いや……それより腹が減った、かな」

 もう暗くなっているが、窓の外を流れる懐かしい景色を横目で見ながら、榛名は少しぶっきらぼうに答えた。
 思い返せば、朝に朝食をほんの少し食べて以来まともな食事を摂っていない。
 一昨日の夜からずっとそうだ。
 ちゃんと食べたのは、昨日二宮と食べた焼きそばくらいで……。
 しかし、考えることが多すぎてあまり本格的な食欲は沸いてこない。
 基本三大欲求とは何だったのか。
 そういえば、霧咲とセックスをしている時もあまり空腹は感じないと思った。
 性欲と食欲は同居しないものなのだろうか。
 都会の空気がよく似合うあの人を思い浮かべながら、榛名は真逆の景色をぼんやりと見つめ続けた。

「……じゃあ今夜はアンタの好きなおかずでも作ろうかね」
「え、ラーメン?」
「それはおかずじゃないやろ!」

 少しだけ、車内の空気が和やかになった。
 その後、姉と姉の夫の高志が榛名家に来て、四人でなごやかな雰囲気で夕食を食べた。
 姉達が帰ったあと、すっかりいつもの調子を取り戻した母に榛名は嫌な予感がしたのだが……

「暁哉、お母さんの知り合いでまだ結婚してない娘さんがいるっちゃけど、明日の昼間に会ってみらんね!?」
「うわぁ、来たよ」

 その予感は、見事に当たった。
 母はキラキラした目を榛名に向けながら、嬉々としてお見合い話を持ちかけてきたのだった。

「なんねその反応は! 結構可愛い子とよ? アンタが東京で暮らしてるって言ったら都会で暮らしちょるなんて素敵、憧れます~て言うちょったわ。期待してたらガッカリするよ~って言ったけど」
「それは余計なお世話やし」

 いや、別にいいか。会う気はないけれど、会ってガッカリされるなら……いや、何故わざわざガッカリされるために会わないといけないのだろう。
 そんなの絶対にごめんだ。

「あのさーお母さん、俺はまだ結婚とかする気ないし、宮崎に帰る気もないから余計なことせんでくれる?」

 はっきりと断った。
 しかし、そんな簡単に諦める母ではない。(現に榛名は、いつもはっきりと断っているのだ)

「そんなこと言わんと、一回会ってみてーん! 知り合いなんやからお母さんの顔を立てると思ってさぁ。アンタ明日クリスマスイブなのに一人で過ごすとか、独身の若い男がそれでいいと思っちょっと~!?」
「そんなのお母さんが心配することじゃないやろ……大体、普通に夜勤の予定やったとに今更……」

 たとえ世間がクリスマスイヴであろうと、初めて会う顔も知らない女と過ごすよりは仕事をしていた方がよっぽどいい、と榛名は思う。

「クリスマスイブまで仕事すると~!?」
「普通に平日の夜なんやから誰かが仕事せんといかんやろ。休みは恋人や家族のいる人に譲ってあげたと。なのにこんなことになってさぁ……ほんとに職場の人に申し訳ないわ~……」

   誰が榛名の代わりに夜勤をするのだろう。
 お土産は透析室全体宛に買っていくつもりだが、変わってくれた人には個人的にあげてもいいかもしれない。
 それか、明日の夜勤までに間に合うように東京に帰るか……。
   でも、せっかく師長がくれた休暇を無駄にしたくもなかった。

「とにかく、会う気ないからね、俺」

   もし気に入られたとしても、それは相手が可哀想だ。
 わざわざ紹介されて気に入った相手が実はゲイでしたなんて、そんなの訴えられるだけでは済まないのではないだろうか。
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