運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

文字の大きさ
115 / 322

56 ひとまず大阪へ

 5分ほど経過したあと、霧咲が聞いてきた。

「ところで暁哉、きみもう東京行きのチケットは買った?」
「あ、いえまだです、お土産先に買おうとしてて……」
「それなら好都合だな、悪いけどこれから俺と一緒に大阪まで来てくれないか? チケット代は勿論俺が出すから」
「えっ?」

 霧咲はいきなり個室のドアを開けると、榛名の腕を掴んで普通にそこから出た。
 個室の外ではサラリーマンが二名ほど用を足す姿勢で立っていて――ただしもう用は足し終ったあとのようだった――出てきた榛名たちを顔を赤くして見ていた。
 その反応から、二人の会話はずっと聞かれていたに違いなくて、榛名は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして俯き、早足で霧咲について行った。
 霧咲はどこ吹く風と言った感じで、平然とした顔をしていたが。

「思いっきり聞かれてたみたいですけど、霧咲さんは恥ずかしくないんですか!?」
「え、別に? もう会うことのない人間に聞かれていたってどうとも思わないかな」
「すごいですね……知り合いだったらどうするんですか」
「君は俺のものだって牽制できる」

 霧咲はニッコリと笑いながらそう言う。
 榛名は顔を赤くして俯いたが、繋がれた手を振り払うことはもうしなかった。
 男同士で手を繋いでいて思い切り注目は浴びているものの、確かに知り合いなど一人もいない……はずだ。
 いたとしても、どうでもいい。自分は霧咲と共に東京に帰るのだから。

「あ、そういえば大阪って……仕事に戻るんですか?」

 搭乗券販売所まで歩きながら、榛名は霧咲に聞いた。

「うん、学会は16時までやってるからとりあえず数時間でも参加したってポーズを取っておこうかと思って。あと挨拶しないといけない先生もいるしね。出張扱いだから、大阪から東京に帰るチケットも病院から出して貰ってるし」
「俺が行っても大丈夫なんですか? 医者じゃないし、参加表明もしてないんですけど……」
「別に構わないさ。看護師だって興味がある人は来てるし、弁当を希望する以外で参加表明なんていらなかったはずだよ。なんなら医学生のフリをしてついておいで。私服だし、君なら十分大学生で通じるだろう」

 勿論、榛名が童顔であることを指して言っている。

「それ、あんまり嬉しくないですね……」
「いいじゃないか、いつまでも若く見られて。それに俺は君の顔が好きだよ」

 さらりと恥ずかしいことを言う。
 もしかしたら霧咲はいつもよりテンションが上がっているのかもしれない。

「……若く見られるのは、霧咲さんも一緒だと思います」
「そうだね。……君は俺の顔、好きかい?」

 もしかすると、これを言わせたかっただけなのだろうか。

「……好きです」

 早口で小さな声でそう言うと、霧咲は嬉しそうに笑った。
 宮崎から大阪行きの飛行機は、東京行きの飛行機よりも時間が早い便がいくつもあった。
 榛名たちは急いで搭乗券を買い、搭乗ゲートへと走った。
 しかし無事に飛行機に乗れたところで、榛名はスタッフへのお土産を買ってないことを思い出した。

「あっ!! 宮崎のお土産買い忘れた!!」
「え、お土産?」
「そうですよ! せっかく休暇貰えたのにお土産も買ってないとか……ああー! お母さんに電話して送ってもらおうかな……って俺、充電器もまだ買ってないし!!」

 最初は買うつもりはなかったのだが、さすがにそろそろ不便なので買おうと思っていたのだがすっかり忘れていた。

「でも君、お父さんのお見舞いで急遽帰省させてもらったんだろう? スタッフはお土産とか期待してないと思うけど……まあ、後日に母君に送ってもらうのが一番だろうね。大阪の土産じゃダメなんだろう?」
「そりゃみんな、なんで大阪? ってなりますよ」
「違いないね」

 霧咲はふふっと笑って、握っていた榛名の手を軽く離すと今度は指を絡ませた。恋人繋ぎというやつだ。
 二人はさっきからずっと手を繋いでおり、他の客にも客室乗務員にもヒソヒソ噂されている気がしたが、榛名はもう構わないでいた。
 この飛行機には霧咲以外知り合いなど一人もいないし、霧咲が客室乗務員に色目を使われても不快だ。
 さっき霧咲が言った『牽制』は、自分の方がよっぽどしていると榛名は思った。
 そして、飛行機が滑走路を動き出した。

「あの、霧咲さ……」

 榛名はさっき霧咲が言った事情とやらを聞こうとしたのだが、霧咲は眠っていた。
 自分が昨夜あんなことを言ったせいで、もしかしたら一睡もしていないのかもしれない。
 出張で疲れているだろうに、こんなところまで来させて……。

(でも、俺がもし空港にいなかったらどうするつもりだったんだろう)

 榛名は霧咲に自分の家の住所など教えたことはない。
 お見合いをするとは言ったが、それがどこで行われる予定だったのかも当然知らない。
 もしかして霧咲は、何ひとつ手がかりのない状態のまま、自分を探そうとしていたのだろうか。

「……貴方も俺と同じで、十分馬鹿だと思いますよ」

 霧咲の寝顔を見ながら、榛名は小さな声でそう言った。
 そして絡まれた手をギュッと握り返して、自分も霧咲の肩にもたれて目を閉じた。
感想 7

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕