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56 ひとまず大阪へ
5分ほど経過したあと、霧咲が聞いてきた。
「ところで暁哉、きみもう東京行きのチケットは買った?」
「あ、いえまだです、お土産先に買おうとしてて……」
「それなら好都合だな、悪いけどこれから俺と一緒に大阪まで来てくれないか? チケット代は勿論俺が出すから」
「えっ?」
霧咲はいきなり個室のドアを開けると、榛名の腕を掴んで普通にそこから出た。
個室の外ではサラリーマンが二名ほど用を足す姿勢で立っていて――ただしもう用は足し終ったあとのようだった――出てきた榛名たちを顔を赤くして見ていた。
その反応から、二人の会話はずっと聞かれていたに違いなくて、榛名は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして俯き、早足で霧咲について行った。
霧咲はどこ吹く風と言った感じで、平然とした顔をしていたが。
「思いっきり聞かれてたみたいですけど、霧咲さんは恥ずかしくないんですか!?」
「え、別に? もう会うことのない人間に聞かれていたってどうとも思わないかな」
「すごいですね……知り合いだったらどうするんですか」
「君は俺のものだって牽制できる」
霧咲はニッコリと笑いながらそう言う。
榛名は顔を赤くして俯いたが、繋がれた手を振り払うことはもうしなかった。
男同士で手を繋いでいて思い切り注目は浴びているものの、確かに知り合いなど一人もいない……はずだ。
いたとしても、どうでもいい。自分は霧咲と共に東京に帰るのだから。
「あ、そういえば大阪って……仕事に戻るんですか?」
搭乗券販売所まで歩きながら、榛名は霧咲に聞いた。
「うん、学会は16時までやってるからとりあえず数時間でも参加したってポーズを取っておこうかと思って。あと挨拶しないといけない先生もいるしね。出張扱いだから、大阪から東京に帰るチケットも病院から出して貰ってるし」
「俺が行っても大丈夫なんですか? 医者じゃないし、参加表明もしてないんですけど……」
「別に構わないさ。看護師だって興味がある人は来てるし、弁当を希望する以外で参加表明なんていらなかったはずだよ。なんなら医学生のフリをしてついておいで。私服だし、君なら十分大学生で通じるだろう」
勿論、榛名が童顔であることを指して言っている。
「それ、あんまり嬉しくないですね……」
「いいじゃないか、いつまでも若く見られて。それに俺は君の顔が好きだよ」
さらりと恥ずかしいことを言う。
もしかしたら霧咲はいつもよりテンションが上がっているのかもしれない。
「……若く見られるのは、霧咲さんも一緒だと思います」
「そうだね。……君は俺の顔、好きかい?」
もしかすると、これを言わせたかっただけなのだろうか。
「……好きです」
早口で小さな声でそう言うと、霧咲は嬉しそうに笑った。
宮崎から大阪行きの飛行機は、東京行きの飛行機よりも時間が早い便がいくつもあった。
榛名たちは急いで搭乗券を買い、搭乗ゲートへと走った。
しかし無事に飛行機に乗れたところで、榛名はスタッフへのお土産を買ってないことを思い出した。
「あっ!! 宮崎のお土産買い忘れた!!」
「え、お土産?」
「そうですよ! せっかく休暇貰えたのにお土産も買ってないとか……ああー! お母さんに電話して送ってもらおうかな……って俺、充電器もまだ買ってないし!!」
最初は買うつもりはなかったのだが、さすがにそろそろ不便なので買おうと思っていたのだがすっかり忘れていた。
「でも君、お父さんのお見舞いで急遽帰省させてもらったんだろう? スタッフはお土産とか期待してないと思うけど……まあ、後日に母君に送ってもらうのが一番だろうね。大阪の土産じゃダメなんだろう?」
「そりゃみんな、なんで大阪? ってなりますよ」
「違いないね」
霧咲はふふっと笑って、握っていた榛名の手を軽く離すと今度は指を絡ませた。恋人繋ぎというやつだ。
二人はさっきからずっと手を繋いでおり、他の客にも客室乗務員にもヒソヒソ噂されている気がしたが、榛名はもう構わないでいた。
この飛行機には霧咲以外知り合いなど一人もいないし、霧咲が客室乗務員に色目を使われても不快だ。
さっき霧咲が言った『牽制』は、自分の方がよっぽどしていると榛名は思った。
そして、飛行機が滑走路を動き出した。
「あの、霧咲さ……」
榛名はさっき霧咲が言った事情とやらを聞こうとしたのだが、霧咲は眠っていた。
自分が昨夜あんなことを言ったせいで、もしかしたら一睡もしていないのかもしれない。
出張で疲れているだろうに、こんなところまで来させて……。
(でも、俺がもし空港にいなかったらどうするつもりだったんだろう)
榛名は霧咲に自分の家の住所など教えたことはない。
お見合いをするとは言ったが、それがどこで行われる予定だったのかも当然知らない。
もしかして霧咲は、何ひとつ手がかりのない状態のまま、自分を探そうとしていたのだろうか。
「……貴方も俺と同じで、十分馬鹿だと思いますよ」
霧咲の寝顔を見ながら、榛名は小さな声でそう言った。
そして絡まれた手をギュッと握り返して、自分も霧咲の肩にもたれて目を閉じた。
「ところで暁哉、きみもう東京行きのチケットは買った?」
「あ、いえまだです、お土産先に買おうとしてて……」
「それなら好都合だな、悪いけどこれから俺と一緒に大阪まで来てくれないか? チケット代は勿論俺が出すから」
「えっ?」
霧咲はいきなり個室のドアを開けると、榛名の腕を掴んで普通にそこから出た。
個室の外ではサラリーマンが二名ほど用を足す姿勢で立っていて――ただしもう用は足し終ったあとのようだった――出てきた榛名たちを顔を赤くして見ていた。
その反応から、二人の会話はずっと聞かれていたに違いなくて、榛名は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして俯き、早足で霧咲について行った。
霧咲はどこ吹く風と言った感じで、平然とした顔をしていたが。
「思いっきり聞かれてたみたいですけど、霧咲さんは恥ずかしくないんですか!?」
「え、別に? もう会うことのない人間に聞かれていたってどうとも思わないかな」
「すごいですね……知り合いだったらどうするんですか」
「君は俺のものだって牽制できる」
霧咲はニッコリと笑いながらそう言う。
榛名は顔を赤くして俯いたが、繋がれた手を振り払うことはもうしなかった。
男同士で手を繋いでいて思い切り注目は浴びているものの、確かに知り合いなど一人もいない……はずだ。
いたとしても、どうでもいい。自分は霧咲と共に東京に帰るのだから。
「あ、そういえば大阪って……仕事に戻るんですか?」
搭乗券販売所まで歩きながら、榛名は霧咲に聞いた。
「うん、学会は16時までやってるからとりあえず数時間でも参加したってポーズを取っておこうかと思って。あと挨拶しないといけない先生もいるしね。出張扱いだから、大阪から東京に帰るチケットも病院から出して貰ってるし」
「俺が行っても大丈夫なんですか? 医者じゃないし、参加表明もしてないんですけど……」
「別に構わないさ。看護師だって興味がある人は来てるし、弁当を希望する以外で参加表明なんていらなかったはずだよ。なんなら医学生のフリをしてついておいで。私服だし、君なら十分大学生で通じるだろう」
勿論、榛名が童顔であることを指して言っている。
「それ、あんまり嬉しくないですね……」
「いいじゃないか、いつまでも若く見られて。それに俺は君の顔が好きだよ」
さらりと恥ずかしいことを言う。
もしかしたら霧咲はいつもよりテンションが上がっているのかもしれない。
「……若く見られるのは、霧咲さんも一緒だと思います」
「そうだね。……君は俺の顔、好きかい?」
もしかすると、これを言わせたかっただけなのだろうか。
「……好きです」
早口で小さな声でそう言うと、霧咲は嬉しそうに笑った。
宮崎から大阪行きの飛行機は、東京行きの飛行機よりも時間が早い便がいくつもあった。
榛名たちは急いで搭乗券を買い、搭乗ゲートへと走った。
しかし無事に飛行機に乗れたところで、榛名はスタッフへのお土産を買ってないことを思い出した。
「あっ!! 宮崎のお土産買い忘れた!!」
「え、お土産?」
「そうですよ! せっかく休暇貰えたのにお土産も買ってないとか……ああー! お母さんに電話して送ってもらおうかな……って俺、充電器もまだ買ってないし!!」
最初は買うつもりはなかったのだが、さすがにそろそろ不便なので買おうと思っていたのだがすっかり忘れていた。
「でも君、お父さんのお見舞いで急遽帰省させてもらったんだろう? スタッフはお土産とか期待してないと思うけど……まあ、後日に母君に送ってもらうのが一番だろうね。大阪の土産じゃダメなんだろう?」
「そりゃみんな、なんで大阪? ってなりますよ」
「違いないね」
霧咲はふふっと笑って、握っていた榛名の手を軽く離すと今度は指を絡ませた。恋人繋ぎというやつだ。
二人はさっきからずっと手を繋いでおり、他の客にも客室乗務員にもヒソヒソ噂されている気がしたが、榛名はもう構わないでいた。
この飛行機には霧咲以外知り合いなど一人もいないし、霧咲が客室乗務員に色目を使われても不快だ。
さっき霧咲が言った『牽制』は、自分の方がよっぽどしていると榛名は思った。
そして、飛行機が滑走路を動き出した。
「あの、霧咲さ……」
榛名はさっき霧咲が言った事情とやらを聞こうとしたのだが、霧咲は眠っていた。
自分が昨夜あんなことを言ったせいで、もしかしたら一睡もしていないのかもしれない。
出張で疲れているだろうに、こんなところまで来させて……。
(でも、俺がもし空港にいなかったらどうするつもりだったんだろう)
榛名は霧咲に自分の家の住所など教えたことはない。
お見合いをするとは言ったが、それがどこで行われる予定だったのかも当然知らない。
もしかして霧咲は、何ひとつ手がかりのない状態のまま、自分を探そうとしていたのだろうか。
「……貴方も俺と同じで、十分馬鹿だと思いますよ」
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そして絡まれた手をギュッと握り返して、自分も霧咲の肩にもたれて目を閉じた。
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