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63 久しぶりの出勤
怒涛のような週末が明けて、榛名は三日半ぶりに透析室へと出勤した。
「あ!! 榛名主任、お久しぶりですぅ~お帰りなさい~!!」
休憩室に入ったら、いきなり有坂に会って慌ただしく迎えられた。
「おはよう有坂さん、ただいま。長く休んでてごめんね、迷惑かけました」
「別に迷惑なんかかかってないですよぉー!」
その横にいた若葉からも声をかけられた。
「おはようございます榛名主任! お父様の具合は大丈夫でしたか!? 一応簡単には師長から聞いてましたが」
「おはようございます若葉さん。はい、その……とっても大丈夫でした。若葉さんには特に心配おかけしてすみません」
「いえそんな! でも良かったです! それでその主任、クリスマスは……」
「え?」
「いやっ、何でもないです!」
「?」
若葉は榛名に何かを聞きたそうにしていたが、本人が『何でもない』と言ったので榛名はそれ以上は何も突っ込まなかった。
本当に気になることならば、また改めて聞いてくるだろう。
透析室に入ったら早出の富永がいたので、榛名は急いで駆け寄って富永にも声を掛けた。
「富永さん、おはようございます! あの……24日の準夜勤休んですみませんでした、誰が俺の代わりに入ってくれましたか?」
榛名が霧咲と亜衣乃と過ごしたイヴの夜は、本来ならば榛名と富永、堂島の三人で夜勤の予定だった。
「あら、榛名主任お帰りなさい。お父様は大丈夫でしたか? 夜勤なら玉井さんが入ってくれたので大丈夫でしたよー」
「玉井さんですね、お礼言っておきます」
「彼女今日は休みだから、明日?」
「え、明日は俺が休みなんですけど……」
「あらまー、すれ違いだねぇ」
次に師長の姿を見つけたので、榛名は富永に会釈すると近藤の側へと行った。
イレギュラーな長い休みを貰うと、他スタッフへの挨拶回りが忙しい。
今回は最初から連休を取っていたわけではないので余計にだ。
「師長おはようございます、長いお休みを有難うございました」
「アラ榛名君、おはよう~! 早速だけど今日中に有休届け書いてもらえる? それとお父さんの具合はもう大丈夫そうなの?」
「はい、おかげさまで……」
たかが低血糖ごときでスタッフに本気で心配されるのがかなり心苦しい。
余計に本当のことは言えなくなってしまい、榛名はそのたびに苦笑していた。
そして、次に二宮の姿を探した。
(あれ……?)
もうあと二分ほどで申し送りが始まるのに、透析室に二宮の姿は無い。
「あれっ榛名くん、おはよう久しぶり。今日から出勤だったんだ?」
榛名の後ろから軽い調子で話しかけたきたのは、堂島だった。
「おはよう、堂島君。24日は休んでごめん。今日、二宮さんは?」
「え、二宮先輩? 休みだけど」
「そう……」
二宮にはまだ霧咲とのことを誤解されたままでいる。
コトの顛末を詳しく話すまではいかないが、霧咲が既婚者で子持ちだという誤解だけは早急に解いておかなければならない。霧咲の名誉のためにも。
しかし榛名はまだ二宮と個人的に連絡を取り合う手段は持っていなかった。
そんな関係だと言うのに、一人でクリスマスを過ごすのは淋しいから二宮に甘えてしまおうなどと考えた自分が厚かましくて少し恥ずかしい。
「でも、なんで二宮先輩? 二人ともそんなに仲良かったっけ」
「まあ、ちょっとね」
堂島に詳しく話すつもりは無い。
「なにそれ。榛名君て本当に俺以外の男とはすぐ仲良くするよなぁ……俺が一番話しかけてんのにっ」
「君とも仲良いだろ、それなりに」
「それなりねぇ」
それなり、便利な言葉だ。
榛名はあの飲み会の日のこと、堂島にされたことを決して忘れたワケではない。
堂島は霧咲に対して『自分はホモではない』とキッパリ否定していたが、榛名に『俺と付きあおう』と言ったことや、『マジメな榛名君がどんな顔をするのか見たかった』と言ったことは忘れたくても忘れられなかった。
酔っていたとはいえ、それらは榛名にとってはショックな言葉だったのだ。
堂島がこれから今以上に榛名と仲良くしようとしても、きっと今以上の関係は築けないだろう。
だから、そんな傷ついたような顔をしないで欲しいと思った。
なんだかこっちが意地悪をしているような気分になる。
そんな榛名の気持ちはきっと、堂島には分からないのだろう。
けれど、それは仕方のないことなのだ。
「おはようございます、申し送りを始めます」
申し送りが始まったので、榛名は堂島のことを気にするのはやめて、四日の間にめまぐるしく変わった患者の状態について耳を傾けた。
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