運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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65 霧咲の事情

   食後にケーキを食べながら、霧咲は改めて榛名に「メリークリスマス」と言った。
 久々のふたりきりとは言え、結局は24日も25日も一緒に楽しんで過ごしたので、今更感はある。
 なので榛名は正直にそう言った。

「……なんか、今更ですね」
「まあね。でも、最初の予定通りだ。途中経過は置いといてね」
「うっ……すみません」
「別にいいさ。おかげで君にプロポーズを受けてもらうことができたからね」
「……」
「ん? どうしたの?」

   榛名が黙ったので、霧咲はケーキから顔を上げた。

「もし俺が勘違いしなかったら、亜衣乃ちゃんたちのことはまだ黙っているつもりだったんですか?」

   榛名は責めるような口調ではない。
 けれど、やはりもっと早く伝えておくべきだったと霧咲は思った。

「本当は今日伝える予定だったんだよ。その上で君にプロポーズしようと思っていたんだ。当然、断られることも視野に入れてね」
「どうして俺が断るって思ったんですか? 勘違いはしたけど結局貴方は既婚者じゃなかったし、亜衣乃ちゃんは娘じゃなくて姪だ。多少、家庭のゴタゴタはあるのかもしれないけど……そんなことは俺が貴方を嫌いになる理由にはなりませんよ」

   ワインを飲んでいるせいか、榛名はいつもより饒舌だ。
 ちなみにワインは既に二本目で、今あるストックはあと一本で終わりだ。
   すると霧咲はグラスに入ったワインを一気に煽り、少し俯き気味に言った。

「君に見損なわれる、と思ったんだよ」
「えっ……?」

(俺に、見損なわれる?)

   霧咲は手酌でワインを注ぎ足す。
 榛名はその一連の仕草をぼうっと眺めて、ハッとした。

「あ、すみません気付かなくて!」
「いいから、君もホラ」
「ありがとうございます」

   榛名も同じようにぐいっと残りのワインを煽って、霧咲の方に空のグラスを差し出した。 
   霧咲と付き合いだしてからワインやカクテルを飲む機会が増えたが、特定のモノ以外はまだあまり呑み慣れていないので、酔いが回るのが早いような気がした。
 霧咲はそれを分かって、榛名を酔わせようとしているのかもしれない。
 もしくは自分が酔っぱらいたいだけか。
 いずれにせよ、今夜は誰も邪魔は入らない。
   だから榛名は、霧咲がまだ自分に言えてないことを全て聞き出そうとしていた。
 霧咲が話してくれたら、の話だが。
   いや、霧咲はきっと話す。
 この後に及んで、もう榛名に隠し事はしないはずだ。

    ローテーブルに残り一本のワインとグラス、少しのおつまみを移してから二人はソファーに座りなおした。
 榛名は霧咲の腕に甘えたくなったのだが、このままなし崩しにセックスが始まってしまえばまた機会を逃してしまうので我慢した。
 それに珍しく霧咲はワインを飲むことに没頭している。
 無茶な飲み方をしているわけではないが、その表情は影を落としていた。

(………)

   榛名はそんな霧咲の横顔を見ているだけで胸が痛くて、くっつく代わりに空いている左手をギュッと握った。
 すると、気が付いたように霧咲が榛名の方を見た。

「暁哉?」
「昨日何があったのか、教えてください」

   霧咲は少し間を置いて、答えた。

「想像のとおりさ。俺が亜衣乃を引き取ると言ったら、蓉子にそんなことは許さない、と言われて殴られついでに爪で引っかかれた」
「許さないって……でも蓉子さんは、亜衣乃ちゃんを可愛がっていないんでしょう?」

   昨日亜衣乃は『ママに嫌われている』と言って泣いていた。
 男である自分が抱きしめて『ママになるよ』と言っても、その滑稽さを笑わずに大泣きしてしまうくらい、実母に可愛がられてないのだと思った。
 なのに、娘を手放したくはないのか。
   その理由はやはり、霧咲から金が欲しいからなのだろうか?
 親として娘を手放したくないと思ったのなら、まだ亜衣乃は救われるのに。

「ああ、蓉子は亜衣乃を可愛がってない。一緒に住んでるんだから多少の愛情はあると思うけど……どういう感情であの子に接しているのかは、俺にもよく分からないんだ。でも、許さないというのは亜衣乃のことよりも『俺が幸せになることを許さない』ということだろうね」
「どうして……」
「俺が悪いんだから、当然といえば当然だな」

   そう言って、霧咲は苦笑した。
 榛名には、その苦笑の意味すら分からない。耐えられなくなり、霧咲の身体をグイッと自分の方に向かせて怒鳴るように言った。

「どうして霧咲さんが悪いんですか? 悪いのは全部、貴方の元恋人でしょう!? その人が貴方を騙して蓉子さんに子どもを産ませたからって、貴方に何の責任があるんですか! むしろ傷付けられたのはこっちじゃないですか! なんで……なんでそんなに蓉子さんに対して悪いと思うんですか? 自分を責めるんですか? 貴方が背負う業なんて何もない筈ですよ!」

   榛名は今まで思っていた違和感を吐き出した。
 が、それでも霧咲の表情は変わらず、じっと榛名を見つめていた。
   すると、霧咲はふいっと榛名から目を逸らした。
 初めてそんなことをされて少し衝撃を受けたが、霧咲はそんな榛名に気付いて『違うんだ』と言い訳した。

「君の顔を見たくないわけじゃない。ただ、君があんまり真っ直ぐな目で俺を見つめてくるから……」

   そう言って、霧咲は両手で頭を抱えた。

「俺が見ないほうが良いんですか?」
「違う、そうじゃない。そうじゃなくて……暁哉、君は俺を誤解している。本当に俺は、弱くて卑怯な人間なんだよ」
「……」

   イラついたわけじゃない。こんな霧咲を見たくないわけでもない。
 ただ、楽にしてあげたかった。だから、榛名は淡々と言った。

「そんなの知ってます。貴方が怖がりだってことも、本当は弱いってことも。自分で俺に言ったじゃないですか! 安心させてほしいって」
「っ……」

 霧咲は、驚いたような顔で榛名を見た。

「でも、そんな貴方でも俺は……いえ、そんな貴方だから俺は愛してるんです。だから俺に教えてください。何がそんなに貴方を苦しめているのかを。烏滸がましいけど、俺は貴方を助けたいんです……」
「暁哉……」

 縋るように、言う。

「霧咲さん、お願い……」

(俺に全部話して。俺は絶対に貴方を嫌わないから。いまさら嫌いになんか、もうなれないから)

    暫くして、ようやく霧咲はポツリと口を開いた。
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