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榛名はいきなり霧咲に両腕を頭の上で拘束されて、壁に押し付けられた。
「霧咲さん! 待っ……!」
「何を待つの? 待ってるのは俺の方だけど」
ひとまとめにされた手首が痛い。
自分だって男でそんなに手首は細くないはずなのに、霧咲は片手だけでそれをやってのけていた。
しかも、全く外れない。
「やっ、ちょっと、本気で!?」
「だから、何が?」
それはまたしても失言だった。
霧咲を本格的に怒らせるには十分すぎる。
「本気で怒ってるんですか?」
でも、もう遅い。
霧咲の綺麗な目の奥で、炎が燃え滾っているような赤が見えた。
「本気で怒ってないと思ってるの?」
「……っ」
「ねえ、どうして君には俺が本気で心配しているのが伝わらないのかな? 前にも何度か嫉妬したところは見せただろう? 勘違いしていたとはいえ、不用意に他の男を家に上げて、しかもそんな弱った状態だと誰かに縋りたくもなるよね? 下着や裸を見せたって……二宮さんから何もしてこなかったってことは、君から二宮さんを誘ったのか?」
「違う!!」
「違うなら、正直に詳細を言えばいい!」
霧咲がここまで榛名に怒ったことは今まで一度も無い。
あったとしても、それは霧咲の言うただの『プレイ』で。
でも今は、霧咲は本当に榛名に怒っている。榛名が霧咲に裏切られたと思ったショックで、自ら二宮を誘ったのだと勘違いしている。
なんだか理不尽な気もするが、理不尽ではない。
何故なら霧咲は、実際に榛名に対して疾しいことなど一つもしていなかったのだから。
榛名が勝手に勘違いをしていただけで。
「ご、めんなさい……」
本気で怒っている霧咲が怖くて、思わず目に溜まった涙が溢れる。
けど、いつもみたいに優しくぬぐってくれる手は伸びてこない。
「何で謝るの? まさか、本当にそうなの?」
「違います! その、家に上げたことはごめんなさい。でも本当に二宮さんとは何もしてないです! キスとか、セックスとか」
「とか、ってことは他に何をしたんだ?」
「え……」
ああ、また失敗した。もう何も信じてもらえないかもしれない。
さっき霧咲が笑ってる内に全部言っておくのが正解だったのだ。
榛名は、本当に自分のことを馬鹿だと思った。
そして、少しずつ経緯を語り始めた。
「二宮さんは、俺が霧咲さんと付き合ってること気付いてたみたいで。それを遠回しに指摘されて、驚いてコーヒー服に零して……俺がやけどしないように、勢いでズボンを脱がされたんです」
二宮にバレていたと知って、霧咲はどう思っただろう。
隠しきれていないのは榛名のせいだと、責めてくるだろうか。
「でもすぐシャワー浴びに行きました! 自分が情けなくて、恥ずかしくて、頭からシャワーで水かぶってました。そしたら二宮さんが心配して見に来て、水を止めてくれたんです」
「水?」
「俺、本当に取り乱しちゃってて! そしたら、ば、バスタオルごしに抱きしめられて……水かぶるのやめたら離すって……それで、少し落ち着いたら離してくれました」
「……」
「あとは、ろくに服着ないでリビング通った時に裸見られちゃって。それだけです、本当にそれだけです」
霧咲は何も言ってくれない。
良くできた言い訳とでも思っているのだろうか。
しかし榛名にはもう他に言うことなどない。
言えるとしたら、あの時自分がどれだけ傷付いて自暴自棄になっていたのかということだけだ。
あとは霧咲がどう判断するかを待つしかない。
「本当に、迂闊でごめんなさい」
また、謝ってしまった。
「……俺も、怒鳴って悪かった」
穏やかな声が降ってきて、やっと手首が解放された。
けれどその姿勢で長くいたので、解放されてもなかなか手首同士が離れていかない。
じんじんとして、霧咲の指の痕が少しついていた。
「俺のせいで君がそういう状況になったと頭では分かってるのに、嫉妬心を止められないんだ。すまない」
「霧咲さん……」
(俺の言葉を信じてくれるの?)
そんな霧咲の態度に安堵して、再び榛名の目からは涙が零れた。
「でも、もう二度と他の男を部屋に上がらせるな。というか君、早くウチに引っ越してきなさい。いつ越してくるの? もうすぐ年が明けるけど」
「ら、来年なのは確実かと」
今日は12月26日なのだから、今年中はさすがに無理があるだろう。
「引っ越し屋が忙しくなるシーズン前には来なさい。いや引っ越し屋はいらないな、不要な家具は全部売って必要なモノだけを持って来ればいい。多かったら俺も手伝うし。それなら今年中に来れる?」
「無理ですよ。俺、大晦日からお正月まで全部仕事入ってますから」
真面目な顔をして提案する霧咲に少しだけ苦笑して、榛名はその首に無意識に手を伸ばしていた。
キスをしようと思ったのだ。
しかし。
「ダメだよ」
「え?」
拒否されてしまった。
霧咲の首に触れる直前に、両手を掴まれて。
「お仕置中にキスはしないことにしたんだ。情が湧いてしまうからね」
「お仕置きって……俺、許してもらえたんじゃないんですか?」
「許してるよ? けど、また同じことを繰り返さないようにお仕置きは必要だろう?」
霧咲の言い分に、榛名はぽかんとしてしまう。涙は既に止まってしまった。
「ひ、必要ですか?」
「ああ。特に君にはね……なかなか懲りないようだし、それにお仕置きはそんなに嫌いじゃないだろう?」
お仕置が嫌いじゃないなんて、自分はどんな変態だと思われているのだ。
そりゃあ気持ちいいことをされるから、結局最後は気持ちよくなってしまうのだけど。
しかし自分で嫌いじゃないなんて、そんな恥ずかしいことを認めることは絶対にできない。
「霧咲さん! 待っ……!」
「何を待つの? 待ってるのは俺の方だけど」
ひとまとめにされた手首が痛い。
自分だって男でそんなに手首は細くないはずなのに、霧咲は片手だけでそれをやってのけていた。
しかも、全く外れない。
「やっ、ちょっと、本気で!?」
「だから、何が?」
それはまたしても失言だった。
霧咲を本格的に怒らせるには十分すぎる。
「本気で怒ってるんですか?」
でも、もう遅い。
霧咲の綺麗な目の奥で、炎が燃え滾っているような赤が見えた。
「本気で怒ってないと思ってるの?」
「……っ」
「ねえ、どうして君には俺が本気で心配しているのが伝わらないのかな? 前にも何度か嫉妬したところは見せただろう? 勘違いしていたとはいえ、不用意に他の男を家に上げて、しかもそんな弱った状態だと誰かに縋りたくもなるよね? 下着や裸を見せたって……二宮さんから何もしてこなかったってことは、君から二宮さんを誘ったのか?」
「違う!!」
「違うなら、正直に詳細を言えばいい!」
霧咲がここまで榛名に怒ったことは今まで一度も無い。
あったとしても、それは霧咲の言うただの『プレイ』で。
でも今は、霧咲は本当に榛名に怒っている。榛名が霧咲に裏切られたと思ったショックで、自ら二宮を誘ったのだと勘違いしている。
なんだか理不尽な気もするが、理不尽ではない。
何故なら霧咲は、実際に榛名に対して疾しいことなど一つもしていなかったのだから。
榛名が勝手に勘違いをしていただけで。
「ご、めんなさい……」
本気で怒っている霧咲が怖くて、思わず目に溜まった涙が溢れる。
けど、いつもみたいに優しくぬぐってくれる手は伸びてこない。
「何で謝るの? まさか、本当にそうなの?」
「違います! その、家に上げたことはごめんなさい。でも本当に二宮さんとは何もしてないです! キスとか、セックスとか」
「とか、ってことは他に何をしたんだ?」
「え……」
ああ、また失敗した。もう何も信じてもらえないかもしれない。
さっき霧咲が笑ってる内に全部言っておくのが正解だったのだ。
榛名は、本当に自分のことを馬鹿だと思った。
そして、少しずつ経緯を語り始めた。
「二宮さんは、俺が霧咲さんと付き合ってること気付いてたみたいで。それを遠回しに指摘されて、驚いてコーヒー服に零して……俺がやけどしないように、勢いでズボンを脱がされたんです」
二宮にバレていたと知って、霧咲はどう思っただろう。
隠しきれていないのは榛名のせいだと、責めてくるだろうか。
「でもすぐシャワー浴びに行きました! 自分が情けなくて、恥ずかしくて、頭からシャワーで水かぶってました。そしたら二宮さんが心配して見に来て、水を止めてくれたんです」
「水?」
「俺、本当に取り乱しちゃってて! そしたら、ば、バスタオルごしに抱きしめられて……水かぶるのやめたら離すって……それで、少し落ち着いたら離してくれました」
「……」
「あとは、ろくに服着ないでリビング通った時に裸見られちゃって。それだけです、本当にそれだけです」
霧咲は何も言ってくれない。
良くできた言い訳とでも思っているのだろうか。
しかし榛名にはもう他に言うことなどない。
言えるとしたら、あの時自分がどれだけ傷付いて自暴自棄になっていたのかということだけだ。
あとは霧咲がどう判断するかを待つしかない。
「本当に、迂闊でごめんなさい」
また、謝ってしまった。
「……俺も、怒鳴って悪かった」
穏やかな声が降ってきて、やっと手首が解放された。
けれどその姿勢で長くいたので、解放されてもなかなか手首同士が離れていかない。
じんじんとして、霧咲の指の痕が少しついていた。
「俺のせいで君がそういう状況になったと頭では分かってるのに、嫉妬心を止められないんだ。すまない」
「霧咲さん……」
(俺の言葉を信じてくれるの?)
そんな霧咲の態度に安堵して、再び榛名の目からは涙が零れた。
「でも、もう二度と他の男を部屋に上がらせるな。というか君、早くウチに引っ越してきなさい。いつ越してくるの? もうすぐ年が明けるけど」
「ら、来年なのは確実かと」
今日は12月26日なのだから、今年中はさすがに無理があるだろう。
「引っ越し屋が忙しくなるシーズン前には来なさい。いや引っ越し屋はいらないな、不要な家具は全部売って必要なモノだけを持って来ればいい。多かったら俺も手伝うし。それなら今年中に来れる?」
「無理ですよ。俺、大晦日からお正月まで全部仕事入ってますから」
真面目な顔をして提案する霧咲に少しだけ苦笑して、榛名はその首に無意識に手を伸ばしていた。
キスをしようと思ったのだ。
しかし。
「ダメだよ」
「え?」
拒否されてしまった。
霧咲の首に触れる直前に、両手を掴まれて。
「お仕置中にキスはしないことにしたんだ。情が湧いてしまうからね」
「お仕置きって……俺、許してもらえたんじゃないんですか?」
「許してるよ? けど、また同じことを繰り返さないようにお仕置きは必要だろう?」
霧咲の言い分に、榛名はぽかんとしてしまう。涙は既に止まってしまった。
「ひ、必要ですか?」
「ああ。特に君にはね……なかなか懲りないようだし、それにお仕置きはそんなに嫌いじゃないだろう?」
お仕置が嫌いじゃないなんて、自分はどんな変態だと思われているのだ。
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しかし自分で嫌いじゃないなんて、そんな恥ずかしいことを認めることは絶対にできない。
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