運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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74 嬉しいこと、不安なこと


 透析室には年末年始は関係ない。
 たまに『お正月の間は透析はお休みですか?』と聞いてくる患者もいるが、そのたびに榛名達透析室のスタッフは笑顔で答える。
 『休みじゃありませんよ。休みなのは日曜日だけです』と。
 そのたびにガッカリした患者の顔を見るのは、もう風物詩のようなものだ。

「はあ~、全然お正月らしいことしてないですぅ」

 1月3日火曜日、16時30分。
 患者は全員帰り、片付けも明日の準備も粗方終わった。
 あとは定時になるのを待つだけで、榛名と有坂はパソコンの前で談笑していた。

「有坂さん、彼氏と元旦に初詣行ったんじゃなかったの?」
「その予定だったんですけど。彼、急に代打で夜勤が入っちゃってぇ……なんかもう何もする気が起きなくて、結局一日中寝てましたよぉ。主任はどっか行きましたぁ?」
「そうなんだ、それは残念だったね。まあ、俺も同じかな。今の時期に外出したら人が多くて嫌だしね……テレビ見て寝てたよ」

 榛名は先月いきなり休暇を取ったので、大晦日から今日までずっと日勤だった。
 元日は日曜日だったので仕事は休みだったのだが、その日霧咲は用事があったため会えなかった。
 つまり27日以降会ってないことになるのだが、それでも榛名は平気だった。
 何故かというと。 





「……ン……」

 12月27日の朝。
 昨日は世間から少し遅れたクリスマスを二人で祝って、夜から早朝にかけて散々愛し合って、榛名が目覚めたのは8時過ぎだった。
 隣に寝ているはずの霧咲はおらず、リビングからテレビの音がした。
 まだ半開きの目を擦って起きようとした途端、左手の薬指に違和感を感じたため、榛名は自分の左手を見た。
 するとそこには、プラチナのシンプルなリングが嵌められていたのだ。

「き……っきりさ、いや、誠人さん!?」

 榛名は一気に覚醒して、思わず大声で霧咲を呼んだ。
 すると霧咲が、笑いを隠せないといった顔で寝室へとやってきた。

「おはよう。なんだい? 朝から大声出して……懲りないな君は」
「あの、これっ! これは一体!?」
「あ、気付いた? クリスマスプレゼントだよ」

 どう見ても気付いているだろうに、霧咲はわざとらしく言った。
 榛名のリアクションが面白くて仕方ないらしく、その後くつくつと笑った。

「プレゼントって! だってプレゼントは昨日、」
「結婚の約束をした恋人との最初のクリスマスプレゼントが、ローターとバイブとコックリングだけだとでも? 俺はとんだ変態と思われているようだな」

(とんだ変態だと思ってたよ!!)

 しかしそれは口には出さず、榛名はもう一度指に嵌まっているリングを見つめた。
 よく見たら細かいダイヤも付いている。
    これはいわゆる婚約指輪……いや、結婚指輪だろうか? どちらでもいい。
    とにかく驚いた反面、嬉しくて仕方がなかった。特に装飾品が好きなわけではないのに。

「それで、気に入って貰えたのかな?」
「ハイ……! とっても嬉しいです、有難うございます誠人さん!」
「……うん」

  普段あまり見ることのない、とびきりの笑顔でそう言った榛名を見て、霧咲も嬉しそうに微笑む。
 そしてベッドに座ったままの榛名の方へ歩いてくると、頬に手を添えてチュッと軽いキスを落とした。

「ン、」
「それで、どうなの。返事は」
「え? 何の返事ですか?」

 榛名はキョトンとしてそう言う。
 礼なら今しがた言ったはずなのに、霧咲は一体何のことを言っているのだろうか?と。

「いや……指輪と言えばプロポーズの意だろう、その、いつも最中に無理矢理イエスと言わせてるようだったからね」
「いまさらぁ!?」

 榛名は素っ頓狂な声を上げて、呆れてそう言った。
 さっき自分が結婚の約束をしたと言ってた癖に、何故そう何度も確認したがるのだろう。

「……俺だってね、気にしてることくらいあるんだよ?」
「信じられない……今日の天気は雨ですか、もしかして雪ですか?」
「君ね……」

 榛名の態度は、言うなれば昨夜のお返しのようなものだ。
 少し照れたような霧咲の表情を見てプッと吹き出し、耐えきれずに笑った。

「あはは! もう……あんなことしといて何今さら不安がってるんだか。じゃあ俺から言ってあげますよ。霧咲誠人さん、貴方のことを世界一愛してます、どうか俺と結婚してください」

 榛名はすらすらと、自分からプロポーズした。

「素面のときにそうもハキハキ言われると、ますます俺の情けなさが際立つものだね」
「情けないっていうか、可愛いです」

 榛名はニコニコと幸せそうに笑いながら言う。

「10歳も年上の男捕まえて可愛いとか」
「だって、可愛いですもん」

 照れた顔も、拗ねた顔も。
 年上なのに、霧咲は時々大きなこどものようだ。
   でもそれが自分の前でだけなのかと思うと、愛しくてたまらない。

「誠人さん、返事は?」
「……もちろん、よろしくお願いします、だよ」
「ふふっ」

 よく見ると、霧咲の左の薬指には同じリングが嵌まっている。
 榛名の指のサイズをいつ測ったのか、いつ指輪を買いに行ったのか、どんな顔をして買ったのか分からない。
 けど、そんな些細なことはどうでもいい。
 どうせ教えてくれないだろうし、気にするだけ無駄だと榛名も分かっている。

「じゃあ今度は、君の可愛い顔も見せてもらおうかな」

 ぎし、と音を立てて霧咲もベッドに乗って榛名を押し倒してきた。

「え。またするんですか?」

 そう言いながらも、榛名の腕は自然と霧咲の背中へと回っている。

「するよ? 明日からまたしばらく会えないしね」
「なんていうか、元気ですね……」
「君のせいだから」
「ン……」

 霧咲のキスを受け入れながら、榛名は再び目を閉じた。
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