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75 榛名、蓉子と相まみえる
そして、1月4日。午前8時30分。
「おはよう、暁哉。電話でも言ったけど明けましておめでとう、今年もよろしくね」
「おはようございます、誠人さん。明けましておめでとうございます、こちらこそ今年もよろしくお願いします」
朝から榛名のマンションに霧咲が来て、玄関で新年の挨拶をした。
これから一緒に榛名の用意した朝食を食べて、少しゆっくりした後に霧咲の部屋へ向かう予定だ。
「お正月は仕事忙しかったですか?」
「まあ、それなりに……でも君のところの方が大変だったんじゃない? お正月はスタッフが少ないしね」
「どこも似たようなものですね」
朝食を食べたあと、ソファに並んでコーヒーを飲みつつ談笑していたが、霧咲の顔はいつになく強張っているように見えた。そしてそれは、榛名の思い込みではないようだ。
「ごめんね、新年早々迷惑かけて。蓉子が会いたいなんて言ってること自体、君に伝えるべきじゃなかったのかもしれない」
そんなことを、沈んだ顔で言うのだ。
いつも厚顔不遜な態度の人間がたまにこうなると、二倍増しで可愛さがアップするのは少しずるいな、と榛名は呑気に思った。
愛しくて、つい抱きしめたくなる。
「……緊張してないって言ったらウソになりますけど、どっちにしろいつかはどこかで会うことになったでしょうし。それに向こうが会いたいって言ってるのを聞かなかったら、蓉子さんは俺が逃げたって思うわけでしょう? それが変な風に亜衣乃ちゃんに伝わっても嫌ですから、俺の方も会っておきたいです。だから誠人さんが気にする必要は全然ないですよ」
「そう言ってもらえると、気が楽になるよ。本当に君は出来た恋人だな……あ、俺の奥さんだった」
「あはは」
霧咲がわざと言い間違えたように訂正するのを、榛名は嫌いではない。
少しくすぐったいし、自分は女性でもないのだけど……例え結婚してなくても『奥さん』と呼ばれるのは単純に嬉しかった。
「蓉子さんと亜衣乃ちゃんは何時ごろに来るんですか?」
「そうだね……昼前、かな? また蓉子が逆上したらいけないと思って場所を俺のマンションにしたけど、よくよく考えれば外の方が冷静な話し合いはできたかもしれないな」
「でも内容が内容ですし。誠人さんの部屋でいいですよ」
「そう?」
世間一般的に、こういう話は一体どこでするものなのだろう。
高級ホテルのレストランか、もしくは料亭か。
何にせよ他人のいるところで男の榛名が大きな声で母親宣言をするのは、覚悟を決めたと言ってもやはり少し恥ずかしい。
亜衣乃だって嫌だろうと思う。
突然、霧咲のプライベート用のスマホが鳴った。
霧咲は画面を見て眉をしかめたあと、電話に出た。
「もしもし、なんだ蓉子。……は? 今から来るって? 早すぎるだろう、約束の時間はまだ……ああもういい、分かった。今家にいないから、すぐ帰る。そっちが先に着いてもロビーで待ってろよ」
投げやりな口調で通話を終わらせた霧咲は、大きなため息をついた。
「はぁ~……」
「今から、ですか? 随分と早いですね」
「昼から用事ができたと。どうせまた男のところに行くんだろう。ったく、君と話すついでに亜衣乃を俺に預けたいんだろうな」
「……」
(あの子は、ついでの用事なのか……)
当然のように言う霧咲に、亜衣乃がいつもそんな扱いをされているのを実感する。
自分のこともついでなのだろうが、それについてはどうでもいい。
けど、亜衣乃は蓉子の実の娘なのだ。
たとえ亜衣乃が母親のことを好きだろうと、もう関係ない。
自分があの子を守らなければと闘志のようなものが湧いてきて、榛名はぎゅっと拳を握りしめた。
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