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77 榛名、逆上する
しかし次の瞬間、また蓉子の顔は先程同様の冷めた目つきに戻った。
榛名は一連の蓉子を見て、まるでお芝居でも見ているような感じがした。
「でもあの人、あたしが子どもができたって言った時は凄く喜んでくれたのに、それからはどんどん素っ気なくなっていって……もしかしたら浮気してるんじゃないかって疑ったわ。止めときゃよかったのに、わざわざ浮気専門の探偵を雇った」
「……」
「そんな余計なことしなけりゃ、あの人と兄さんが大学生の時からずっと付き合ってたなんて事実、知ることはなかったのにね。それに……」
『俺はおまえに女にされたから、もう自分が女を抱くなんて無理だと思ってた。けどおまえが女になったと想像したら、割と自然に抱くことができたよ。すぐに子どもも出来て良かった……できたとはいえ、何回もできることじゃあないからね。女なんて、たとえお前の妹でも気持ち悪い。子供も男の子だったらいいなぁ……』
「探偵にあいつと兄さんの会話の録音を聞かされて……あたしなんて、最初からあいつに一人の人間とすら思われてなかったんだってことを知ることもなかった」
いつの間にか、蓉子の中原への呼び方が『敏也さん』から『あいつ』に変わっている。
「蓉子、もうやめろ……」
「それまではお腹の子供が愛おしくてたまらなかったのに、それを聞いてからはエイリアンでも身ごもってるような気分になってねぇ……あたしは何度もお腹の赤ん坊を殺そうとしたわ。ことごとく失敗したけど。両親と兄さんに邪魔されてね!」
そう言った蓉子の目を見て、榛名は背筋に寒いものが走った。
夫と兄の関係がショックだったとはいえ、自分の中に生まれた新しい命を自ら殺そうとするなんて……。
榛名は男だし、妊娠したこともないからえらそうなことは言えないが、到底信じられない。
しかし、望まない妊娠で堕胎をする女性は多いのだと産婦人科に勤めている同級生に聞いたことがある。
蓉子のようなケースも、彼女に言わせればよくあることなのだろうか?
それでも、よくあることだとは思いたくない。
「蓉子、もうやめるんだ。傷付くのはお前なんだぞ」
蓉子は狂気に満ちた顔で話を続けようとする。
霧咲の制止などまるで聞こえていないようだ。
「臨月だったあたしを精神病院に無理矢理入院させたのよね! それで拘束して、薬を使って予定日よりも早く産ませて……頼むから腹ん中で死んでてくれって願ってたけど、あたしのことなんか生まれる前から聞きゃしないのよねぇあの子。本当に可愛くないんだから」
蓉子はチッと激しく舌打ちをした。
榛名は我慢できずに立ち上がり、蓉子に言った。
「あ……あなたは今まで亜衣乃ちゃんと一緒に暮らしていたんでしょう!? なのにそんな、全然可愛くないなんてそんなの嘘だ! 現にあなたはクリスマスに靴を買ってあげたって、亜衣乃ちゃんはすごく喜んでましたよ!?」
「は? 靴? ……何よそれ、あたしが亜衣乃になんか買ってあげたことなんてないわよ」
「え……?」
『ねぇこの靴可愛い? 買ってもらったの! ママからのクリスマスプレゼントだって!』
嬉しそうにそう言っていた亜衣乃の姿は、まだ記憶に新しい。
榛名が初めて空港で亜衣乃と会ったときのことだ。
「言っとくけどあたし、あの子の世話なんかまともにしたことないから。お乳なんて出ないからあげたこともないし、5歳までは親が面倒見てたし。両親が死んでからはベビーシッターと兄さんが面倒みてた。ま、金のムダだからベビーシッターは数年で解雇したけど……。あたし、あの子にはお金しか渡したことないの。だからいつも服も靴も食べるもんも、全部自分でなんとかしてるんでしょ」
「な……ッ!!」
(それじゃあ、亜衣乃ちゃんは今まで……!?)
「何よあの子、勝手なウソついて! あたしがあの子にモノなんか買ってあげるわけないでしょ! オトコじゃあるまいし」
あまりにもネグレクトな蓉子の発言に、榛名は自然と握った拳に力が入っていた。
榛名は一連の蓉子を見て、まるでお芝居でも見ているような感じがした。
「でもあの人、あたしが子どもができたって言った時は凄く喜んでくれたのに、それからはどんどん素っ気なくなっていって……もしかしたら浮気してるんじゃないかって疑ったわ。止めときゃよかったのに、わざわざ浮気専門の探偵を雇った」
「……」
「そんな余計なことしなけりゃ、あの人と兄さんが大学生の時からずっと付き合ってたなんて事実、知ることはなかったのにね。それに……」
『俺はおまえに女にされたから、もう自分が女を抱くなんて無理だと思ってた。けどおまえが女になったと想像したら、割と自然に抱くことができたよ。すぐに子どもも出来て良かった……できたとはいえ、何回もできることじゃあないからね。女なんて、たとえお前の妹でも気持ち悪い。子供も男の子だったらいいなぁ……』
「探偵にあいつと兄さんの会話の録音を聞かされて……あたしなんて、最初からあいつに一人の人間とすら思われてなかったんだってことを知ることもなかった」
いつの間にか、蓉子の中原への呼び方が『敏也さん』から『あいつ』に変わっている。
「蓉子、もうやめろ……」
「それまではお腹の子供が愛おしくてたまらなかったのに、それを聞いてからはエイリアンでも身ごもってるような気分になってねぇ……あたしは何度もお腹の赤ん坊を殺そうとしたわ。ことごとく失敗したけど。両親と兄さんに邪魔されてね!」
そう言った蓉子の目を見て、榛名は背筋に寒いものが走った。
夫と兄の関係がショックだったとはいえ、自分の中に生まれた新しい命を自ら殺そうとするなんて……。
榛名は男だし、妊娠したこともないからえらそうなことは言えないが、到底信じられない。
しかし、望まない妊娠で堕胎をする女性は多いのだと産婦人科に勤めている同級生に聞いたことがある。
蓉子のようなケースも、彼女に言わせればよくあることなのだろうか?
それでも、よくあることだとは思いたくない。
「蓉子、もうやめるんだ。傷付くのはお前なんだぞ」
蓉子は狂気に満ちた顔で話を続けようとする。
霧咲の制止などまるで聞こえていないようだ。
「臨月だったあたしを精神病院に無理矢理入院させたのよね! それで拘束して、薬を使って予定日よりも早く産ませて……頼むから腹ん中で死んでてくれって願ってたけど、あたしのことなんか生まれる前から聞きゃしないのよねぇあの子。本当に可愛くないんだから」
蓉子はチッと激しく舌打ちをした。
榛名は我慢できずに立ち上がり、蓉子に言った。
「あ……あなたは今まで亜衣乃ちゃんと一緒に暮らしていたんでしょう!? なのにそんな、全然可愛くないなんてそんなの嘘だ! 現にあなたはクリスマスに靴を買ってあげたって、亜衣乃ちゃんはすごく喜んでましたよ!?」
「は? 靴? ……何よそれ、あたしが亜衣乃になんか買ってあげたことなんてないわよ」
「え……?」
『ねぇこの靴可愛い? 買ってもらったの! ママからのクリスマスプレゼントだって!』
嬉しそうにそう言っていた亜衣乃の姿は、まだ記憶に新しい。
榛名が初めて空港で亜衣乃と会ったときのことだ。
「言っとくけどあたし、あの子の世話なんかまともにしたことないから。お乳なんて出ないからあげたこともないし、5歳までは親が面倒見てたし。両親が死んでからはベビーシッターと兄さんが面倒みてた。ま、金のムダだからベビーシッターは数年で解雇したけど……。あたし、あの子にはお金しか渡したことないの。だからいつも服も靴も食べるもんも、全部自分でなんとかしてるんでしょ」
「な……ッ!!」
(それじゃあ、亜衣乃ちゃんは今まで……!?)
「何よあの子、勝手なウソついて! あたしがあの子にモノなんか買ってあげるわけないでしょ! オトコじゃあるまいし」
あまりにもネグレクトな蓉子の発言に、榛名は自然と握った拳に力が入っていた。
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