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79 霧咲のかつての恋人について
気付けば、時計の針は12時を回っていた。
榛名は『もうそんなに経っていたのか』と、時間の速さに少し驚く。
「とりあえず、昼は出前でも取ろうか? 亜衣乃はその後は昼寝だ。俺と暁哉は大人どうしの大事な話があるからお前は寝なさい」
「えー! 亜衣乃、別に眠くないもん」
「腹が膨れたら眠くなるさ。それに、少し疲れただろう?」
「……じゃあ亜衣乃、お寿司がいい」
「分かった」
榛名はお昼に簡単なものでも作ろうと思っていたのだが、肝心の食材が冷蔵庫に全く入って無かったので、結局霧咲の出前案に賛成した。
亜衣乃の希望で寿司を取ることにしたのだが、昼間から贅沢だな、と榛名は思った。
しかし淡々としている霧咲と亜衣乃を見ていると、霧咲家では昼に出前の寿司を食べることは特に珍しいことではないのかもしれない。
なんとなく教育に悪そうなので、一緒に暮らし始めたらまずは亜衣乃に普通の金銭感覚から身につけてもらうべきかな、と思った。
霧咲が頼んだ30分後に出前は到着して、3人は無言で黙々と食べた。
それぞれ何かを考えてはいるのだが、しかしそれを口に出す者はいなかった。
「……亜衣乃、もう眠そうだな?」
霧咲の言った通り、亜衣乃はうつらうつらと舟を漕ぎ始めて始めている。
もしかすると、昨夜は寝不足だったのかもしれない。
「眠くないもん……」
「嘘を吐きなさい、瞼がくっつきそうだぞ」
「うー……」
「誠人さん、俺が寝かせてきますよ。さ、ベッド行こう? 亜衣乃ちゃん」
榛名はさっと立ち上がって亜衣乃の手を握り、寝室まで連れて行った。
霧咲はそんな2人の様子を目を細めて眺めた。
榛名は亜衣乃を霧咲のベッドに寝かせると、暫くそこにいた。
「アキちゃん……」
「なあに?」
「ママは、ずっと一人で……ううん、なんでもない」
知りたいこと、聞きたいことは山のようにあるのだろう。
けれど榛名は亜衣乃にどこまで伝えていいのか分からないし、自分もそこまで事情に詳しくは無い。
きっと霧咲は今から榛名に話してくれるのだと思うが、それを聞くのが少しだけ恐い自分もいる。
榛名は、亜衣乃の手をぎゅっと握った。
「さみしくなったら、いつでも呼んでね。さっきみたいに、たくさんぎゅってしてあげるから」
榛名は亜衣乃にそう言ってあげることしかできない。
霧咲と同様、傍にいてあげることしかできないのだ。
「うん、……ありがとアキちゃん」
「おやすみ」
「おやすみなさい……」
小さな寝息が聞こえてきて、亜衣乃が完全に寝てしまうのを待って榛名は寝室を出た。
音を立てないように、そっとドアを閉める。
リビングでは、霧咲が食後のコーヒーを淹れて待っていた。
「ありがとうございます、少し冷めちゃいましたか?」
「だいぶ飲みやすくなってると思うよ。熱いのがよかったら淹れ直すけど」
「このままでいいですよ。……おいしい」
榛名はダイニングテーブルに座っていた霧咲の前に座ると、コーヒーを一口飲んでニッコリと笑いかけた。
霧咲は何か言いたげな顔で榛名を見ている。
きっと自分から切り出すのは少し嫌な話題に違いない。
そう思ったので、榛名の方から問いかけた。
「誠人さん、あの、中原さん……は、どういう人だったんですか?」
「……聞きたいの?」
霧咲が、ちらりと上目遣いで榛名を伺う。
「少し。さっき蓉子さんに部外者じゃないって啖呵切っちゃったし、亜衣乃ちゃんの父親だし。聞いたらヘコむかもしれませんけど、そうなったら誠人さんが慰めてくださいね」
少し冗談めかして言う。
全然冗談ではないのだが、少しでも霧咲が話しやすいように、だ。
「分かったよ。まあ、君は強いからヘコんだりしないだろう」
「俺、別に強くないですよ?」
全然強くなんかない。
それはこの間、自分の弱さと対面した榛名にはよく分かっていることだ。
霧咲に妻子がいると勘違いした時、それでもなお、霧咲の狡さに縋って関係を続けようと決心した。
現実から逃げようとしたのだ。
今考えても、弱すぎると思う。
しかし、それ以外の選択肢は未だにない。
榛名は『もうそんなに経っていたのか』と、時間の速さに少し驚く。
「とりあえず、昼は出前でも取ろうか? 亜衣乃はその後は昼寝だ。俺と暁哉は大人どうしの大事な話があるからお前は寝なさい」
「えー! 亜衣乃、別に眠くないもん」
「腹が膨れたら眠くなるさ。それに、少し疲れただろう?」
「……じゃあ亜衣乃、お寿司がいい」
「分かった」
榛名はお昼に簡単なものでも作ろうと思っていたのだが、肝心の食材が冷蔵庫に全く入って無かったので、結局霧咲の出前案に賛成した。
亜衣乃の希望で寿司を取ることにしたのだが、昼間から贅沢だな、と榛名は思った。
しかし淡々としている霧咲と亜衣乃を見ていると、霧咲家では昼に出前の寿司を食べることは特に珍しいことではないのかもしれない。
なんとなく教育に悪そうなので、一緒に暮らし始めたらまずは亜衣乃に普通の金銭感覚から身につけてもらうべきかな、と思った。
霧咲が頼んだ30分後に出前は到着して、3人は無言で黙々と食べた。
それぞれ何かを考えてはいるのだが、しかしそれを口に出す者はいなかった。
「……亜衣乃、もう眠そうだな?」
霧咲の言った通り、亜衣乃はうつらうつらと舟を漕ぎ始めて始めている。
もしかすると、昨夜は寝不足だったのかもしれない。
「眠くないもん……」
「嘘を吐きなさい、瞼がくっつきそうだぞ」
「うー……」
「誠人さん、俺が寝かせてきますよ。さ、ベッド行こう? 亜衣乃ちゃん」
榛名はさっと立ち上がって亜衣乃の手を握り、寝室まで連れて行った。
霧咲はそんな2人の様子を目を細めて眺めた。
榛名は亜衣乃を霧咲のベッドに寝かせると、暫くそこにいた。
「アキちゃん……」
「なあに?」
「ママは、ずっと一人で……ううん、なんでもない」
知りたいこと、聞きたいことは山のようにあるのだろう。
けれど榛名は亜衣乃にどこまで伝えていいのか分からないし、自分もそこまで事情に詳しくは無い。
きっと霧咲は今から榛名に話してくれるのだと思うが、それを聞くのが少しだけ恐い自分もいる。
榛名は、亜衣乃の手をぎゅっと握った。
「さみしくなったら、いつでも呼んでね。さっきみたいに、たくさんぎゅってしてあげるから」
榛名は亜衣乃にそう言ってあげることしかできない。
霧咲と同様、傍にいてあげることしかできないのだ。
「うん、……ありがとアキちゃん」
「おやすみ」
「おやすみなさい……」
小さな寝息が聞こえてきて、亜衣乃が完全に寝てしまうのを待って榛名は寝室を出た。
音を立てないように、そっとドアを閉める。
リビングでは、霧咲が食後のコーヒーを淹れて待っていた。
「ありがとうございます、少し冷めちゃいましたか?」
「だいぶ飲みやすくなってると思うよ。熱いのがよかったら淹れ直すけど」
「このままでいいですよ。……おいしい」
榛名はダイニングテーブルに座っていた霧咲の前に座ると、コーヒーを一口飲んでニッコリと笑いかけた。
霧咲は何か言いたげな顔で榛名を見ている。
きっと自分から切り出すのは少し嫌な話題に違いない。
そう思ったので、榛名の方から問いかけた。
「誠人さん、あの、中原さん……は、どういう人だったんですか?」
「……聞きたいの?」
霧咲が、ちらりと上目遣いで榛名を伺う。
「少し。さっき蓉子さんに部外者じゃないって啖呵切っちゃったし、亜衣乃ちゃんの父親だし。聞いたらヘコむかもしれませんけど、そうなったら誠人さんが慰めてくださいね」
少し冗談めかして言う。
全然冗談ではないのだが、少しでも霧咲が話しやすいように、だ。
「分かったよ。まあ、君は強いからヘコんだりしないだろう」
「俺、別に強くないですよ?」
全然強くなんかない。
それはこの間、自分の弱さと対面した榛名にはよく分かっていることだ。
霧咲に妻子がいると勘違いした時、それでもなお、霧咲の狡さに縋って関係を続けようと決心した。
現実から逃げようとしたのだ。
今考えても、弱すぎると思う。
しかし、それ以外の選択肢は未だにない。
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