162 / 322
80 榛名、中原に嫉妬する
学歴のことをこれ以上聞くと益々凹むので、榛名は質問を変えることにした。
「誠人さんは中原さんのどこが好きだったんですか? 彼の何を好きになったんですか?」
蓉子は、中原は少し榛名に似ていると言った。
しかし自分では絶対にそう思わないし、思いたくもない。
けれど霧咲が好きになった男なら、自分と中原には何かしらの共通点があるのだろうか。
……頭の出来以外で。
「どこが好きだったのか、か。改めて聞かれると難しい質問だな。どこが、とかそういうんじゃないんだ。俺がまだ人間的に未熟だったのもあるけど……言うなれば中原は、そういう男だった」
「そういう男?」
そんな抽象的な言葉で言われても、榛名には全然分からない。
そういう男とは、つまりどういう男なのだろう。
「周囲に居る者を全て虜にするって言うのかな。外見もすごく綺麗だったしね。高校の頃はよく女性に間違われていたくらい、柔らかな雰囲気だった。でも、自分の目的のためには手段を選ばない非情で狡猾なところもあった。当時の俺には、そんな中原のギャップがすごく魅力的に見えたんだ」
「……」
「彼の性質に酔っていたっていうかね……そんな中原が何故か俺のことをいつも一番に優先してくれていたから、気分も良かった。彼は自由な男で何度も浮気されたけど、俺に縛られることのない彼が逆に俺の心を捉えて離さなかった」
榛名の胸は、少しズキンと痛くなる。
自分から聞き出したのに、やはり今の恋人が他の誰かに夢中になっていた話を聞くのは辛いものがあった。
霧咲は当時のことをだんだん思い出したのか、すらすらと話をしていく。
「特に学生の頃は、どうしようもないくらい彼に心酔していた。崇拝していた、と言ってもいい。でも、俺が医師免許を取って毎日忙しくて会える時間も少なくなって……それがきっかけなのかは分からないけど、彼はだんだん変わっていった」
「そんな時に、誠人さんが子どもが欲しいっていう発言を?」
そのくだりは前にも聞いていたので、榛名はつい口を挟んだ。
霧咲は榛名をちらりと見て、その顔色を伺った。
大丈夫そうだと判断したのか、更に話を続ける。
「ああ、そうだ。俺があいつの言葉を冗談だと捉えて軽い返事を返してしまったから、中原は蓉子にあんな酷いことを……」
「……」
榛名は無意識に下唇を噛んでいた。
蓉子のことはとても気の毒だと思うが、亜衣乃のことを思うとどうしても親身にはなれない。
中原がいなかったら亜衣乃は存在しないのだと思うと、余計に複雑な気持ちになるのだ。
「そして俺はやっと目が覚めた。妹を、蓉子を傷付けられてやっと分かったんだ。本当に遅かったよ、中原がそういう人間だってことは最初から薄々と感じていたのにな……」
「そういう人間?」
榛名は首を傾げて、霧咲を見つめた。
「自分のエゴのためなら、周りの人間……たとえ自分の家族だろうと、不幸にしても胸が痛まないタイプの人間だ」
「……っ」
背中がゾッとした。
そんな人間がもしも榛名のそばにいたら、自分は一体どうなっていただろう。
「俺は、ずっと彼のことが怖かった。今思えば、それを認めたくなくてその気持ちを愛だと思い込んでいたように思うんだ」
「思い込んでいた?」
「うん。俺の中原への気持ちは恋や愛なんかじゃなくて、ただ彼を自分の思うとおりにしたい執着心と、無意識に植えつけられた恐怖心だったのかもしれないと、今は思うよ……」
霧咲がそこまで言い終わると、2人の間には沈黙が流れた。
霧咲はすっかり冷めたコーヒーをぐいっと飲み、榛名はその喉仏が上下し終わるのを待って、言った。
「それ、俺を慰めるために言ってるんじゃないですか? 愛の形はさまざまだから、きっと俺とは違う形で誠人さんは中原さんを真剣に愛していたんだと思います。でなきゃ、そんなに苦しまないでしょう……? 10年間も」
何故か言いたくもない言葉が、勝手に口をついて出てくる。
自分から聞きたがったくせに、何を拗ねているんだろう。
こんな面倒な恋人、霧咲は嫌になるんじゃないだろうか。
そう思うのに。
「……暁哉、ソファに移動しようか」
「え?」
何故か霧咲は晴れやかな顔で、そう言ってきた。
「今度は俺が、君を抱っこしてあげるから」
それは、さっき榛名が亜衣乃にしていたことを言っているのだろうか。
霧咲がソファに移動したので、榛名も立ち上がってすっかり冷めたコーヒーをダイニングテーブルに残したまま、霧咲の隣へと座った。
「抱っこだって言っただろう。俺の膝の上に座りなさい」
「いや、だって俺重いですし!」
「知ってるよそんなの。散々おうまさんごっこしたんだから」
「……!」
思い出したくない恥ずかしい言い訳の言葉を言われて、榛名の顔が赤く染まる。
霧咲はそんな可愛い恋人の変化に我慢できず、横から抱きしめるとゆっくりとソファに押し倒した。
「な! ちょっと! 昼間からヤバいですって! 亜衣乃ちゃんすぐ起きちゃいますって!」
「別にセックスしようなんて言ってないだろ。でもキスくらいはさせてくれよ」
「なんでそんな、いきなりッ……ン……」
霧咲に軽く口づけられて、離される。
榛名が黙ったのを確認すると、またそっと口づける。
「あ……まことさ、チュ……チュクッ、」
「チュ、チュッ……君の一番可愛い顔は泣き顔よりも、嫉妬してる顔だってことが改めて分かった」
「は? ……ふっ……」
どういうことか聞きたかったが、再び唇を奪われて言葉が出せない。
それでも執拗なキスが嬉しくて、いつの間にか榛名は霧咲の背中に手を回してしっかりと抱きついていた。
「あー……セックスしたいなぁ」
「ダメですよ、絶対」
「しないよ」
霧咲は少し苦笑して答えた。
もしも亜衣乃が寝室で寝ていなかったら、昼間だろうとコトに及んでいたと思う。
今が夜中じゃないのが残念だ。
「それに今セックスしたら……誠人さん、中原さんのことを思い出しそうだから嫌です」
「え?」
霧咲の可愛い恋人は、何故か今にも泣きだしそうな顔でそっぽを向いている。
「最後にこれだけ聞かせてください。彼とどうやって別れたんですか? 今までの話を聞いてたら、中原さんが簡単に誠人さんのことを手放すとは思えないんですけど……」
それでもなお、元恋人の話を聞きたがっている。
霧咲は困った風に笑うと、榛名を抱き起して自分の膝の上に移動させた。
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕