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参加者が控えている舞台裏には、当然郁は一緒に行けなかった。
周りにいるのは気合いの入った女子達と、ウケ要員の女装した男子たち。
さすがミスコンに出るだけあって自信があるのか、女子は皆気が強そうな子ばかりだった。
その中で榛名はひとり、涙目になって緊張で震えていた。
「ねえ、あんた看護科?」
中でも一番ギャルっぽい、商業科の女子に声をかけられた。
茶髪もピアスも化粧も一応校則で禁止されているのだが、商業科の女子でそれを守っている生徒は一人も見たことがない。
看護科は少し派手にしただけで先生に怒られるので、それが商業科の女子と仲が悪い原因の一つでもあった。
「初めて見る顔やけど、サクラとかやないと?」
「!!」
ぶんぶんと首を横に振る。
郁から極力喋るな、と言われていたので声は出せなかった。(声で男だとバレるからだ)
「フーン……ま、ダサい看護科の奴らに負ける気はせんけどね」
「……!」
言い返したかったが、グッと我慢した。
そしてその時、初めて商業科のギャルに負けたくないと思った。
「では次エントリーナンバー7、看護科一年のはるなっちょさんです!」
名前はフルネームじゃ無くてもいいようで、他の女子も下の名前だけで出場していた。
榛名は苗字だが、郁が『はるなっちょ』という一部からのあだ名でエントリーしていたようだった。
(負けたくないって思ったけど……やっぱり舞台に立つと緊張する!)
目立つのが嫌いな榛名は、大勢の人間の前に立つことなどほとんどない。
小学校の卒業式の時に、ひとりひとり卒業証書を貰った時以来だった。
震える足でなんとか舞台上に並び、名前を呼ばれてそっと顔を上げたものの、保護者を含めた観客の多さにぱっとまた下を向いてしまった。
「はるなっちょさん、顔が見えませんよー、ちゃんと顔上げてくださいねー?」
(くそ司会者め……!)
司会は司会の仕事をしているだけなのだが、榛名は無理矢理顔をあげさせようとする司会の三年の男を恨み、心の中で悪態をついた。
けれど、やはり負けたくないという思いからゆっくりと顔を上げる。
「お、おおおお!?」
司会が素っ頓狂な声を上げる。
もしかして男だとバレたのだろうか。
「はるなっちょさん、とても清楚で可愛いですね~! こんな子が看護科に居たなんて知らなかったです! 明日からモテモテで大変ですよ! それでエントリーナンバー7のはるなっちょさんのご趣味は!?」
「……」
「では、好きな食べ物はなんでしょうか!?」
「……」
喋るなと言われたのだが、緊張して声が出なかった。
思わず涙目になって上目使いに司会の男を見つめていたら、司会はまたもや心臓を射抜かれたような顔をした。
「はるなっちょさんは緊張のあまりしゃべれないようです! それもまたイイです! では次にまいりましょう、エントリーナンバー8、2年英数科――」
(はぁ……終わった)
投票の時間になり、やっと榛名はミスコンから解放された。
見ていた客の反応は……
「おい、お前ら誰に投票すっとけ?」
「はるなっちょちゃん一択やろ! 他はブスやったじ」
「はるなっちょちゃん、涙目がてっげ可愛かったな……」
「メアド知りてぇ……あとでみんなで看護科の教室行こううや」
「あんな黒髪の可愛い子、入学式の時は見らんかったけどな~、マジで彼女にしたい!」
などなど、謎の美少女はるなっちょの人気は上々だった。
「榛名、お疲れ!」
「郁……ウィッグ取って。メイクも落として」
「はいはい」
榛名は親友の姿を見つけ、その肩に額を付けてもたれかかった。
死ぬほど緊張していたが、その顔を見た途端に緊張の糸が切れた気がした。
「あ、まだダメやわ。順位発表されたときに表彰でまた舞台上がらんといけんし」
「え~!! もう勘弁してよぉ!」
「ダーメ、かなり評判良かったから優勝も期待できるじ!」
「嘘やろ……みんな目が節穴かよ」
「そう思ってんのは榛名だけやって。優勝したらみんなで写真撮ろうやね」
「後に残したくないぃ!!」
しかしそんな榛名の願いは叶わず、その後の校内放送で榛名は見事ダントツで票を獲得し、優勝を告げられたのだった。
そして閉会の体育館で、また一言も喋らない授賞式を終えて、看護科の友達みんなと写真を撮った。
最後はもうほぼヤケクソで、自ら笑ってピースサインを作っていた。
*
「ふふっ」
一枚の懐かしい写真を見て、郁は思わず笑みがこぼれた。
「郁ちゃん、何見てるの?」
「え? 高校の時の写真~」
「何それ、見せて見せて」
半年後に結婚する婚約者にひとりで笑っているところを見られて、郁はその写真を彼に見せた。
「わあ、郁ちゃん若いねえ……すごく可愛い。けど、隣の子も相当可愛いくない? 背が高くてモデルさんみたい」
「そやろ? 私の自慢の親友。これはミスコンで優勝した時の写真で、私がメイクとか髪とか色々してあげたとよー」
「へー、どおりで。もしかして今度会う約束してるのってこの子?」
「そう、榛名っていうの」
苗字しか教えないのは、意図的だ。
「ハルナちゃんかぁ。結婚式にも来てくれるんだろ? すんごい美人になってるだろうなぁ」
「花嫁の横で、鼻の下伸ばさんでよね?」
「の、伸びてないし伸ばさないよ!」
(別に伸ばしたっていいけどね、榛名は男やっちゃから。でも、それは結婚式当日まで教えてあげない)
そう思って、郁はニヤリとほくそ笑んだ。
周りにいるのは気合いの入った女子達と、ウケ要員の女装した男子たち。
さすがミスコンに出るだけあって自信があるのか、女子は皆気が強そうな子ばかりだった。
その中で榛名はひとり、涙目になって緊張で震えていた。
「ねえ、あんた看護科?」
中でも一番ギャルっぽい、商業科の女子に声をかけられた。
茶髪もピアスも化粧も一応校則で禁止されているのだが、商業科の女子でそれを守っている生徒は一人も見たことがない。
看護科は少し派手にしただけで先生に怒られるので、それが商業科の女子と仲が悪い原因の一つでもあった。
「初めて見る顔やけど、サクラとかやないと?」
「!!」
ぶんぶんと首を横に振る。
郁から極力喋るな、と言われていたので声は出せなかった。(声で男だとバレるからだ)
「フーン……ま、ダサい看護科の奴らに負ける気はせんけどね」
「……!」
言い返したかったが、グッと我慢した。
そしてその時、初めて商業科のギャルに負けたくないと思った。
「では次エントリーナンバー7、看護科一年のはるなっちょさんです!」
名前はフルネームじゃ無くてもいいようで、他の女子も下の名前だけで出場していた。
榛名は苗字だが、郁が『はるなっちょ』という一部からのあだ名でエントリーしていたようだった。
(負けたくないって思ったけど……やっぱり舞台に立つと緊張する!)
目立つのが嫌いな榛名は、大勢の人間の前に立つことなどほとんどない。
小学校の卒業式の時に、ひとりひとり卒業証書を貰った時以来だった。
震える足でなんとか舞台上に並び、名前を呼ばれてそっと顔を上げたものの、保護者を含めた観客の多さにぱっとまた下を向いてしまった。
「はるなっちょさん、顔が見えませんよー、ちゃんと顔上げてくださいねー?」
(くそ司会者め……!)
司会は司会の仕事をしているだけなのだが、榛名は無理矢理顔をあげさせようとする司会の三年の男を恨み、心の中で悪態をついた。
けれど、やはり負けたくないという思いからゆっくりと顔を上げる。
「お、おおおお!?」
司会が素っ頓狂な声を上げる。
もしかして男だとバレたのだろうか。
「はるなっちょさん、とても清楚で可愛いですね~! こんな子が看護科に居たなんて知らなかったです! 明日からモテモテで大変ですよ! それでエントリーナンバー7のはるなっちょさんのご趣味は!?」
「……」
「では、好きな食べ物はなんでしょうか!?」
「……」
喋るなと言われたのだが、緊張して声が出なかった。
思わず涙目になって上目使いに司会の男を見つめていたら、司会はまたもや心臓を射抜かれたような顔をした。
「はるなっちょさんは緊張のあまりしゃべれないようです! それもまたイイです! では次にまいりましょう、エントリーナンバー8、2年英数科――」
(はぁ……終わった)
投票の時間になり、やっと榛名はミスコンから解放された。
見ていた客の反応は……
「おい、お前ら誰に投票すっとけ?」
「はるなっちょちゃん一択やろ! 他はブスやったじ」
「はるなっちょちゃん、涙目がてっげ可愛かったな……」
「メアド知りてぇ……あとでみんなで看護科の教室行こううや」
「あんな黒髪の可愛い子、入学式の時は見らんかったけどな~、マジで彼女にしたい!」
などなど、謎の美少女はるなっちょの人気は上々だった。
「榛名、お疲れ!」
「郁……ウィッグ取って。メイクも落として」
「はいはい」
榛名は親友の姿を見つけ、その肩に額を付けてもたれかかった。
死ぬほど緊張していたが、その顔を見た途端に緊張の糸が切れた気がした。
「あ、まだダメやわ。順位発表されたときに表彰でまた舞台上がらんといけんし」
「え~!! もう勘弁してよぉ!」
「ダーメ、かなり評判良かったから優勝も期待できるじ!」
「嘘やろ……みんな目が節穴かよ」
「そう思ってんのは榛名だけやって。優勝したらみんなで写真撮ろうやね」
「後に残したくないぃ!!」
しかしそんな榛名の願いは叶わず、その後の校内放送で榛名は見事ダントツで票を獲得し、優勝を告げられたのだった。
そして閉会の体育館で、また一言も喋らない授賞式を終えて、看護科の友達みんなと写真を撮った。
最後はもうほぼヤケクソで、自ら笑ってピースサインを作っていた。
*
「ふふっ」
一枚の懐かしい写真を見て、郁は思わず笑みがこぼれた。
「郁ちゃん、何見てるの?」
「え? 高校の時の写真~」
「何それ、見せて見せて」
半年後に結婚する婚約者にひとりで笑っているところを見られて、郁はその写真を彼に見せた。
「わあ、郁ちゃん若いねえ……すごく可愛い。けど、隣の子も相当可愛いくない? 背が高くてモデルさんみたい」
「そやろ? 私の自慢の親友。これはミスコンで優勝した時の写真で、私がメイクとか髪とか色々してあげたとよー」
「へー、どおりで。もしかして今度会う約束してるのってこの子?」
「そう、榛名っていうの」
苗字しか教えないのは、意図的だ。
「ハルナちゃんかぁ。結婚式にも来てくれるんだろ? すんごい美人になってるだろうなぁ」
「花嫁の横で、鼻の下伸ばさんでよね?」
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