運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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92 伯父と姪、ケーキを焼く

 1月18日の平日。今日は榛名の誕生日である。
 本人が気付いているのかどうかは不明だが、ここ霧咲宅ではやけに張り切っている者が2名……いや、1名いた。

「よぉし! まこおじさん、アキちゃんが来る前に頑張ってケーキを作るよ~!」
「ああ、えーとまずはホットケーキだな……」

 張り切る姪と、疲れきっている伯父だ。
 伯父――霧咲は姪がチョイスした可愛らしいエプロンを着用しているが、恐ろしいほど似合っていない。
 しかしエプロンの柄などにこだわりはないので、嫌で仕方ないということもない。
 ちなみに姪――亜衣乃は、学校の家庭科の授業で作ったという自作のエプロンを着けていた。

 霧咲が疲れている理由は、今日はもともと仕事は午前だけだったのが、緊急オペが入ったため、全ての仕事が終わったのが15時過ぎで、そして一旦家に帰る余裕もなく姪を小学校まで迎えに行き、そのまま今日の買い物を済ませて帰ってきたのだ。
 現在の時刻は16時30分。榛名がここに来るのが18時の予定だ。
 それまでになんとしてでもケーキを完成させなければならない。
 別に嫌ではないが、少しだけでも休ませて欲しいのが本音だった。
 そんな伯父の事情など、張り切る小学生の姪には全く関係ないのだが。

「亜衣乃は昨日のうちにスポンジ焼きたかったのに!」

 亜衣乃がプリプリ怒って霧咲に抗議する。

「ケーキのスポンジは素人が手を出すものじゃないらしいぞ、ほとんど膨らまなくて失敗に終わるらしいからな。それにうちにはオーブンなんてないし……電子レンジじゃ少し不安だろう」
「この機会に買えば良かったじゃない」
「調理機器を買うときは一番料理をする人の意見を聞かないと後で後悔するんだぞ。買うなら暁哉が一緒じゃないと」
「ふうーん?」

 亜衣乃は首を捻って怪訝な顔をしているが、とりあえず納得はしたようだった。

「ほら、早く作らないと暁哉が来るぞ」
「はーい!」

 こうして、伯父と姪の初めての共同作業である、ケーキ作りが始まった。
 透明なボールの中にはホットケーキミックスと、分量通りの牛乳。そして、砕けた殻ごとinしてしまった卵が無残な姿で入っていた。

「……」
「亜衣乃、おまえ……卵も割れなかったのか」
「成功率は50%くらいかしら?」
「それを早く言いなさい」

 あまり悪びれる様子の無い姪に、俺の方がまだうまく割れるぞ、などとブツブツ文句を言いながら菜箸で殻を取り除く。この段階でコレとは、なかなか時間が掛かりそうだ。
 一つ一つ丁寧に取り除いていくが、既に牛乳も入っているため何とも取り出しにくい。
 菜箸ではなく攝子せっしが欲しかった。

「よし……多分全部取り除けたぞ。じゃあ亜衣乃、よくかき混ぜなさい」
「はーい!」

 最初からこういう簡単な作業だけを任せるべきだった。
 卵の殻取りに集中したせいか、目と肩が痛い。年を取ったものだとしみじみ実感した。

「まこおじさん、混ざったよ!」
「ああ……えーと次はどうするんだ、フライパンの準備か。油を引いて火にかけて……」

 霧咲はホットケーキミックスの裏に載っている説明書きを読みつつ、フライパンに火をかけた。
 榛名は何本か種類の違う油を霧咲宅に置いている(サラダ油、オリーブ油、胡麻油)のだが、どれを使うべきかよく分からなかったので、霧咲は適当に胡麻油を手に取ってフライパンに流し入れた。

「あ、ちょっと入れすぎたような……まあいいか。なんか香ばしい匂いがするな」
「亜衣乃が焼く!」

 霧咲が焼こうと思ったのだが、亜衣乃は焼きたくてたまらないらしく騒ぎ出した。

「でも火を使ってるんだから危ないぞ」
「火くらい調理実習で小学生でも使うよ!」
「それもそうか。引っ越し先ではIHにしような」

 卵もろくに割れない姪の言葉に何故か納得して、霧咲は亜衣乃と場所を変わった。
 そして強火にかけたままのフライパンに、直接ボールの中身を2分の1ほど、どぷどぷと流し入れた。
 強火にかけているため、フライパンの底いっぱいに広がっている液の表面はあっという間にぷつぷつと泡を浮かばせ始めた。

「おじさん、これいつまで焼いてたらいいの? ていうかすごい勢いで沸騰してない?」
「焼いてるんだからこんなものじゃないのか?」
「なんかアヤシイ気がする……でもこんなにドロドロじゃまだひっくり返せないよね」
「この液体をひっくり返すだって? それは一体どんな技術が必要なんだ」

 霧咲はもう一度ホットケーキミックスの説明書きを読んで、弱火で焼くという箇所を発見すると慌てて火を弱めた。

「いかん! 焦がすところだった……弱火で三分間焼くみたいだぞ」
「三分も? でももう結構焼けた気がするんだけど……ひっくり返してもいい?」

 亜衣乃がフライパンを持ち上げようとしたが、よろめいたため慌てて阻止した。

「おい、危ないからやっぱりそれは俺がやる! お前にはまだ無理だろう」
「しょうがないなあ。仕方ないからまこおじさんにやらせてあげる」

 口ではそんなことを言っているが、うまくひっくり返す自信がないため安心している亜衣乃だった。
 もちろん霧咲にも、うまくひっくり返せる自信など無いが。
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