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〃
「ちなみに、どうやってひっくり返すんだ?」
「ひょいって手首を返して? でもサ〇エさんは勢い余って天井に貼りつけたりするよね……」
亜衣乃はアニメで見た通りの、手首のスナップをきかせたホットケーキを裏返す仕草を霧咲にやってみせた。
しかしその動作を見た霧咲は眉間に皺を寄せて考え込んだ。
「そんなに勢いをつけて吹っ飛ばすとか危険極まりないな。火傷をしたら危ないじゃないか。――よし、ここは安全に箸でひっくり返そう」
「お箸で? そんなことができるの?」
「他にひっくり返す道具は無いだろう」
普段料理を全くしない霧咲や亜衣乃には、フライ返しという便利な道具の存在は微塵も思い浮かばなかった。
勿論、皿やフライパンの蓋を使ってひっくり返すという方法も。
「「……………」」
無言。二人の間に会話はなく、硬直している。
二人の目の前のホットケーキは、パタンと2枚に折り畳まれていた。
しかもその片面は真っ黒に焦げ付いている。
「亜衣乃、丸いケーキがいい……半月型はやだ」
「い、今から戻すから安心しなさい!」
霧咲はフライパンを傾けながら、なんとか火傷しないように元の形に戻そうと奮闘する。
その様子を亜衣乃はハラハラした様子で見つめており、思わず「アキちゃんがいればなー」と口にしてしまった。
「い、今のはウソだよ! まこおじさん!」
慌てて口を手で抑えるが、時既に遅し。
しかし霧咲は暗に『役立たず』と言われたことを気にする様子はなく、最もだという表情で言った。
「亜衣乃……ここで一旦作業を中断して、暁哉が来るのを待っててもいいんだぞ。液は半分残ってるし。そうするか?」
榛名は料理が得意なわけではないが、わりと自炊をするのでこの2人に比べれば余程手慣れている。
一人暮らしの男のレベルではあるが。
「だめっ! それじゃプレゼントにならないもん。亜衣乃、アキちゃんにケーキ作ってあげたいから、2枚ともちゃんと焼くよ!」
「そうか、分かった。……じゃ、続けるぞ」
「うん!」
そうは言ったものの、裏返した方の面も黒く焦がしてしまった霧咲だった。
2枚目は、最初の失敗を踏まえて慎重に弱火で焼いた。
フライパンに引いたのは同じく胡麻油だったが。
そしてまたしても大量に液を投入したせいで、ひっくり返すのに失敗した。
しかし今度は焦がさなかったので、とりあえず2人はふう、と安堵のため息をついた。
中が生焼けなことには勿論気付いていない。焦げた方のケーキを下にして、その上に生焼けのケーキを重ねた。
「よし、とりあえず二枚は焼けたな!それでこれからどうするんだったか?」
「生クリームで周りをコーティングして、イチゴをたくさん乗っけるの!」
「よし。生クリームは冷蔵庫だな」
生クリームは既に亜衣乃が持ってきていた。
既にクリーム状になっており、後は絞り出すだけの便利なタイプだ。
「まこおじさん、フタが固いからあけてー」
「はいはい」
空けた瞬間にクリームが飛び出してしまわないようにそっと開ける。
しかし自分じゃなくて、もしコレが榛名の顔に掛かったら……と想像するとなかなかに楽しい。
霧咲は思わずニヤけそうになったが、隣で姪がわくわくした顔で見ているため、妄想を自重した。
「ほら、開いたぞ」
「じゃあ、かけまーす! ぶちゅーっ」
亜衣乃は勢いよく、ケーキの形に添って生クリームを絞り出した。
しかし、ここでまたもや問題が発生した。
「おい……生クリーム、溶けてないか?」
「そんな感じがするわね」
まだ熱が冷めていないケーキの上に絞り出したものだから、ケーキの熱で生クリームが溶かされていったのだ。
二人がじっと見つめていると生クリームは更に溶けて広がり、汚く皿の上にぽたぽたと流れていく。そして霧咲は、何かを思いついた、という顔で亜衣乃に言った。
「なあこれ、冷やしたらまた固まるんじゃないか? そしてそのあとで綺麗に塗り直せば……」
「亜衣乃もそう思う。じゃ、アキちゃんがくるまで冷蔵庫で冷やしたらオッケーだよね」
「ああ! オッケーだ!」
全然オッケーではない。
しかし二人はクリームがだんだん溶けていくにも関わらず、気にせずに更に上から絞り出していき、スプーンで表面に伸ばしていった。
そしてクリームを塗り終ったあと、季節外れで高かったイチゴを均等に並べていく。
とりあえずこのケーキの中で唯一まともに食べれるのは、このイチゴだけだろう。
「できたあ!」
「お世辞にも綺麗とは言えないが……ま、冷やして出したらなんとかなる……かもしれないし、ならないかもしれない」
「アキちゃん、喜んでくれるかな?」
「それはどうだろうな……」
ピンポーン
「「!?」」
マンションのエントランスのチャイムが鳴り、二人は同時に時計を見た。
現在、17時50分。
律儀な榛名は、来ると言った時間の10分前に霧咲宅に訪れたのだった。
「ひょいって手首を返して? でもサ〇エさんは勢い余って天井に貼りつけたりするよね……」
亜衣乃はアニメで見た通りの、手首のスナップをきかせたホットケーキを裏返す仕草を霧咲にやってみせた。
しかしその動作を見た霧咲は眉間に皺を寄せて考え込んだ。
「そんなに勢いをつけて吹っ飛ばすとか危険極まりないな。火傷をしたら危ないじゃないか。――よし、ここは安全に箸でひっくり返そう」
「お箸で? そんなことができるの?」
「他にひっくり返す道具は無いだろう」
普段料理を全くしない霧咲や亜衣乃には、フライ返しという便利な道具の存在は微塵も思い浮かばなかった。
勿論、皿やフライパンの蓋を使ってひっくり返すという方法も。
「「……………」」
無言。二人の間に会話はなく、硬直している。
二人の目の前のホットケーキは、パタンと2枚に折り畳まれていた。
しかもその片面は真っ黒に焦げ付いている。
「亜衣乃、丸いケーキがいい……半月型はやだ」
「い、今から戻すから安心しなさい!」
霧咲はフライパンを傾けながら、なんとか火傷しないように元の形に戻そうと奮闘する。
その様子を亜衣乃はハラハラした様子で見つめており、思わず「アキちゃんがいればなー」と口にしてしまった。
「い、今のはウソだよ! まこおじさん!」
慌てて口を手で抑えるが、時既に遅し。
しかし霧咲は暗に『役立たず』と言われたことを気にする様子はなく、最もだという表情で言った。
「亜衣乃……ここで一旦作業を中断して、暁哉が来るのを待っててもいいんだぞ。液は半分残ってるし。そうするか?」
榛名は料理が得意なわけではないが、わりと自炊をするのでこの2人に比べれば余程手慣れている。
一人暮らしの男のレベルではあるが。
「だめっ! それじゃプレゼントにならないもん。亜衣乃、アキちゃんにケーキ作ってあげたいから、2枚ともちゃんと焼くよ!」
「そうか、分かった。……じゃ、続けるぞ」
「うん!」
そうは言ったものの、裏返した方の面も黒く焦がしてしまった霧咲だった。
2枚目は、最初の失敗を踏まえて慎重に弱火で焼いた。
フライパンに引いたのは同じく胡麻油だったが。
そしてまたしても大量に液を投入したせいで、ひっくり返すのに失敗した。
しかし今度は焦がさなかったので、とりあえず2人はふう、と安堵のため息をついた。
中が生焼けなことには勿論気付いていない。焦げた方のケーキを下にして、その上に生焼けのケーキを重ねた。
「よし、とりあえず二枚は焼けたな!それでこれからどうするんだったか?」
「生クリームで周りをコーティングして、イチゴをたくさん乗っけるの!」
「よし。生クリームは冷蔵庫だな」
生クリームは既に亜衣乃が持ってきていた。
既にクリーム状になっており、後は絞り出すだけの便利なタイプだ。
「まこおじさん、フタが固いからあけてー」
「はいはい」
空けた瞬間にクリームが飛び出してしまわないようにそっと開ける。
しかし自分じゃなくて、もしコレが榛名の顔に掛かったら……と想像するとなかなかに楽しい。
霧咲は思わずニヤけそうになったが、隣で姪がわくわくした顔で見ているため、妄想を自重した。
「ほら、開いたぞ」
「じゃあ、かけまーす! ぶちゅーっ」
亜衣乃は勢いよく、ケーキの形に添って生クリームを絞り出した。
しかし、ここでまたもや問題が発生した。
「おい……生クリーム、溶けてないか?」
「そんな感じがするわね」
まだ熱が冷めていないケーキの上に絞り出したものだから、ケーキの熱で生クリームが溶かされていったのだ。
二人がじっと見つめていると生クリームは更に溶けて広がり、汚く皿の上にぽたぽたと流れていく。そして霧咲は、何かを思いついた、という顔で亜衣乃に言った。
「なあこれ、冷やしたらまた固まるんじゃないか? そしてそのあとで綺麗に塗り直せば……」
「亜衣乃もそう思う。じゃ、アキちゃんがくるまで冷蔵庫で冷やしたらオッケーだよね」
「ああ! オッケーだ!」
全然オッケーではない。
しかし二人はクリームがだんだん溶けていくにも関わらず、気にせずに更に上から絞り出していき、スプーンで表面に伸ばしていった。
そしてクリームを塗り終ったあと、季節外れで高かったイチゴを均等に並べていく。
とりあえずこのケーキの中で唯一まともに食べれるのは、このイチゴだけだろう。
「できたあ!」
「お世辞にも綺麗とは言えないが……ま、冷やして出したらなんとかなる……かもしれないし、ならないかもしれない」
「アキちゃん、喜んでくれるかな?」
「それはどうだろうな……」
ピンポーン
「「!?」」
マンションのエントランスのチャイムが鳴り、二人は同時に時計を見た。
現在、17時50分。
律儀な榛名は、来ると言った時間の10分前に霧咲宅に訪れたのだった。
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