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〃
「うっわ、すっげぇピカピカ!! さすがクルマが恋人だと豪語してるだけありますね、二宮先輩!」
「別に豪語してねぇよ」
だが、確かに恋人並に手を掛けていると言ってもあながち間違いではない。
いや、恋人以上に手を掛けていると言った方が正しいかもしれない。
二宮は女性が苦手というわけではないのだが、どうも女性の心理を読み取るのが苦手らしく、いつも無神経な発言をして相手を怒らせてしまうのだ。そして振られる。
けれど、後から自分の何が悪かったのかをいくら考えても、絶対に思いつかない。
女性関係が得意な友人に話してみると自分の悪かったところを指摘されて、『ああそうなのか』とやっと納得できるレベルだ。
しかし、彼女が怒る理由のほとんどが『言わなくても察してよ』というようなもので、これは経験値を積まないと絶対に会得することのできない技術だと思い、毎回あまり反省はしてない。
そんな二宮にとって恋愛とは面倒くさいもの代表で、ここ2年ほどはずっとフリーだった。
親が不倫の末離婚しているため、甘ったるい結婚願望もないし、そういう気持ちが自然と態度に滲み出ているのかもしれない。
それで、彼女たちは二宮に嫌気がさすのかもしれない。
それはそれで、自分にはどうすることもできないのだった。
「二宮先輩? クルマ乗ってもいいっすかー?」
「あ、ああ……どうぞ」
「へへ。じゃあ遠慮なく、お邪魔しまーす!」
堂島が助手席に乗り込んだあとに自分も運転席に乗り込み、エンジンを掛けた。
すぐには走り出さず、暫くエンジンを暖める。
「二宮先輩、オートマじゃないんですね、やっぱりこだわってますねぇ」
「まあ、マニュアル車の方が運転してるって気になるからな」
両手両足を同時に動かすのが好きなのだ。別にカッコよさを追求しているわけではない。
「俺、免許はオートマ限定っす。だからクラッチとか全然わかんねーっす」
「別にいいんじゃないか? そっちの方が世の中の主流なんだから」
「でもやっぱマニュアル車、憧れますよね~、ま、俺には無理だって思ってやめましたけど」
「勿体ねぇな」
他愛のない会話を交わしながら、二宮は海に向かって車を走らせはじめた。
仕事の話やプライベートの話など、とにかく堂島がずっと喋っているので車内に沈黙が訪れることは一瞬もなかった。
海と言ってもこの近くで思い浮かぶ海は東京湾しかなかったため、二宮は東京湾に向かっている。
堂島は彼女でもないし、ただ海が見れればいいのだろうと思ったので、到着したのは砂浜なんかもない埠頭だった。
「……なんか、ヤクザが夜中に死体を簀巻きにして捨てにきそうッスねぇ」
「海は海だろ」
「二宮先輩、付き合ったらすぐフラれるタイプっしょ」
「まあな」
何故分かるのだろうか。堂島も友人と同じ、その手のことが得意なのだろう。
さすがチャラ男を豪語しているだけのことはある。(別に聞いたことはないが)
「まあいっか! 海には違いないですし。じゃ、俺暫く海眺めていいっすか?」
「ああ。俺はコーヒーでも買ってくる。お前も飲むか?」
「あざーっす。俺微糖でお願いしゃっす」
「おう」
車に乗せて行きたいところに連れて行った挙句、パシリまでしている。
全て自分で言いだしたことなのだが、一応こっちが先輩なのに……と二宮はなんとなく微妙な気持ちになった。
でも今の堂島は元気がないので、まあいいか。と思いなおす。
仕事で精一杯パシってやろう、とも。
堂島の元気があるだの無いだのなんて、ただの職場の先輩である自分にはどうでもいいことなのだが、なんとなく。
なんとなく……このたった一人の後輩を、突然構いたくなったのだ。
ただの気まぐれだ。
「堂島お前、失恋でもしたのか?」
「え?」
「突然海行きたいとかって、そういう類のこととしか思えねぇんだけど」
「あー」
なんとなく元気がなくて、海に行きたいと言う。
それだけで恋愛に結び付けるのは短絡的だと思うが、それしか思い浮かばないので仕方ない。
そして堂島は、二宮のその言葉があながち間違いじゃない、というような表情をした。
「そうなのか?」
「失恋っつーか……自分でもよくわかんないんすよね。自分のことなのに、なんか」
「……?」
なんとなく煮え切らない言い方だ。
こういう態度の堂島は珍しい、と思った。
自分との付き合いが浅すぎるだけで、元々こういう人間なのかもしれないが。
けれど二宮は、そんな堂島の態度にイラつくでもなく、逆に好感を持った。そして無意識で、こんなことを言っていた。
「お前、土曜日暇か?」
「え?」
「飲むか。俺の奢りで」
「え、まじっすか先輩!? コーヒーのお返しに奢れって言われるのかと思いましたけど!?」
「俺はそんなせこい男じゃねえよ」
本当に、堂島の中での自分のイメ―ジはどうなっているのだろう。
勿論それらは本心ではなく、冗談だということは分かっているものの。
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