運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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 土曜日の朝。
 榛名は遠足の前日のように、楽しみで夜眠れなかった――ということは無く、しっかりと寝て6時に目が覚めた。
 そしてまだ隣で寝ている霧咲を揺り動かす。

「誠人さん、起きてください」
「ん……まだアラーム鳴ってないよ……」
「すぐ鳴りますって。ほら、鳴った」

 榛名が言った途端に霧咲の携帯のアラームが鳴りだしたので、霧咲はゆっくりと目を開けてのろのろとアラームを止めた。

「おはよう……暁哉」
「はい、おはようございます誠人さん」
「ん……君は今日も可愛いね、可愛くないときがないな……」
「ちょっとまだ寝てるんですか? 二度寝はダメですよ」

 霧咲は榛名を見て正直に言っただけなのだが、榛名はいちいち取り合わない。
 霧咲がまた寝てしまいそうだったのでさっさと布団を綺麗に整えて、次に亜衣乃を起こしに行った。
 置いて行かれて少し淋しい霧咲だったが、のそりと布団から起きだした。

「亜衣乃ちゃん、起きてる?」
「あ、アキちゃんおはよう! 起きてるよぉー」

 亜衣乃の部屋のドアを開けると、亜衣乃は既に着替えまで済ませていて、髪を自分で結っているところだった。

「え、早っ! 何時に起きたの?」
「五時半! そろそろアキちゃんたち起こそうかなって思ってたの」
「小学生早い……」

 きっと亜衣乃は誰かに朝起こされたことなど無いのだろう。
 それはなんとなく感じていたが、それでも凄いなとまた感心する榛名だった。

 3人は身支度を整えると、朝食は食べずにマンションを出た。
 地下鉄で新宿駅まで行き、そこから特急ロマンスカーで箱根湯本に向かう予定だ。

「天気が良くて良かったな」
「そうですね、雨だったら歩くのちょっと面倒ですもんね」

 今は1月で真冬の最中だが、天気が良いのでほどよく暖かかった。
 ただし箱根は山なのでで寒いだろうと予想されるため、防寒対策もばっちりだ。
 亜衣乃はお気に入りの白いワンピースと赤のダッフルコートを着ているが、足元はタイツだった。
 榛名は家を出る前に寒くないか確認したが、『お洒落は我慢なの!』と言われたので、心配だがとりあえず納得することにした。

「ねえまこおじさん、お腹すいた~」
「ロマンスカーの中で何でも買ってやるから我慢しなさい」
「はぁーい」

 亜衣乃が不服そうだったので、榛名は「それなら先に地下鉄の駅で何か買おうか?」と聞いた。

「え、いいよアキちゃん、気にしないで!」
「そう? 遠慮しなくてもいいのに」

(やっぱりまだ少し遠慮されてるのかな……)

 榛名はそう思ったが、今は自然に手を繋いできてくれるこの距離を受け入れよう、と思った。
 亜衣乃が自分にはあまり積極的に甘えてくれないのは、少し淋しいが。
 地下鉄に乗り、新宿駅に着いたところで霧咲の携帯が震えだした。
 それは仕事用のもので、その着信音を覚えている榛名と亜衣乃は同時にギョッとした顔をした。

「霧咲です。どうしたの? はい……はい……じゃあ足立さんの処方は以前の通りにして。五日分で一錠ずつ分3ね。え、緊急オペ? 悪いけど今都内に居なくてね、代わりに園田君に頼んでもらえるかい? そう、明日の夕方までは居ないからよろしく」

 霧咲は語尾を強めてそう言って、早々と電話を切っていた。

「誠人さん……」
「まこおじさん……病院から呼び出しなの?」
「聞いてたろ、俺は今都内に居ないんだよ」

 そう言って、霧咲はニヤリと笑った。
 新宿は東京じゃなかったのかと一瞬呆れそうになったが、仕事よりも自分たちを優先して貰えたことが嬉しいので、榛名は何も突っ込まなかった。
 榛名の勤めるT病院は腎臓医は奥本一人しか居ないが、K大は別だ。
 他に頼れる医者がいるのなら、わざわざ休暇中の霧咲が対応することはない。
 なのにわざわざ電話が来るなんて、家族に対する嫌がらせじゃないのかと榛名は勘繰ってしまう。
 以前はそんなことは思わなかったが、以前あの派手な化粧の看護師――朝井とかいう――にいじわるをされて以来、どうしてもK大スタッフには敵対心を持ってしまうのだった。

「じゃあさっさと東京出よう、まこおじさん! 追いつかれちゃうっ」
「え? 向こうも暇じゃないだろうし、誰も追ってこないよ。ていうか追ってくるのか?」
「そんなの分かんないじゃない! 早く電車に乗ろうよ!」
「俺も同感です、早く行きましょう! 誠人さん」

 亜衣乃にとっても、休日に伯父を呼び出すK大の医療スタッフは『敵』のようなものらしい。
 『追いかけてくる』という発想が微笑ましくて、でもその気持ちがよく分かる榛名は亜衣乃に加勢した。
 ロマンスカーの指定席に座ると、霧咲はいきなりビールを二つ注文した。

「え、こんな朝っぱらからビールですか!?」
「そりゃ君、だって旅行だよ? 朝から酒を飲まなくてどうするんだ」
「いやいや、でもまだ朝ですから……」
「君にとってもビールは水だろ」
「で、でもですね……!」

 亜衣乃もいるのに、大人としてそれはどうなのだろうか。
 榛名の焦りを感じたのか、亜衣乃はケロッと顔をして言った。

「亜衣乃のことなら気にしないでいいよ、アキちゃん。遊びに行くときにまこおじさんが朝からお酒飲むのなんて見慣れてるもの。亜衣乃だって朝からおやつ食べちゃうし!」
「う、うーん……いいのかなあ……」
「君は固く考えすぎだよ。ホラ、乾杯しよう。亜衣乃はオレンジジュースで良かったな?」
「うん!」

 霧咲の教育方針はよく分からないが、まあ旅行だしいいかという気持ちが勝り、榛名は美味しそうな白くて細かい泡の立ったビールを受け取った。

「「「かんぱーい!」」」

 三人で行く初めての、楽しい旅行の始まりである。
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