運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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109 トラブル発生


「暁哉?」

 霧咲は、神妙な顔をして黙り込んでしまった榛名に声を掛けた。
 この旅行は榛名の誕生祝いなのだから楽しい思いしかさせたくなかったのに、こんな顔をさせてしまうなんて失敗だ。
 不意打ちで抱きしめてみようかと思った、その時。

「まこおじさぁあん!! アキちゃあぁん!!」

 トイレに行った亜衣乃が血相を変えて、らしくもない大声をあげながらこちらに走ってきた。
 その尋常じゃない様子に、霧咲と榛名は亜衣乃に駆け寄った。

「亜衣乃? そんなに慌ててどうしたんだ」

 榛名は一瞬、トイレに変態でも出たのかと思った。

「トッ……トイレでね、人が倒れてたの!! ていうか今も倒れてるのー!!」
「ええっ!?」

 榛名は驚いて思わず素っ頓狂な声をあげたが、霧咲は声を上げる間もなく公衆トイレに全力疾走し始めていた。
 榛名もその後を慌てて追いかける。

「アキちゃん!」
「亜衣乃ちゃん、すぐに119番に電話して救急車を呼んでくれる? できるかな? 俺のスマホを貸すから」
「わ、わかった! できるよ!」

 榛名が霧咲に追いつくと、霧咲は躊躇せずに女子トイレの中に飛び込んでいた。
 榛名もその後に続いて入ると、何やら高齢の女性が手洗い場の辺りで胸を抑えて蹲っていた。

「大丈夫ですか? 胸が苦しいんですか? 持病は?」
「……うぅっ」

 どうやら女性はまだ意識はあるらしいが、胸の辺りが苦しくて霧咲の問いかけに返事が出来ないようだ。
 霧咲はここでは処置がしにくいと判断したのか、榛名と二人でトイレの外へとその女性を抱えて連れだした。
 外には何やら不穏な空気を感じた数人の観光客が集まってきていた。

「アキちゃん、救急車呼んだよ!」
「ありがとう!」

 すると、今度は霧咲が亜衣乃にお使いを頼んだ。

「亜衣乃、悪いが次はAEDを探してきてくれないか? 土産屋かコンビニに置いてあると思うから」
「えっ、AED……!? わ、わかった!」

 亜衣乃は再び駆け出した。
 ざわざわと周りがどよめきだし、だんだんと人が集まってくる。
 すると、わらわらと集まった人垣の中から一人の高齢男性が近寄ってきた。

「お、おまえ! 一体どうしたんだ!?」
「貴方はこの方の旦那様ですか?」
「そ、そうだが……おまえー! しっかりしろ!」

 老婦人はとうに意識を失って軽く痙攣しており、霧咲は既に服を脱がせて一次救命処置である胸骨圧迫を開始していた。
 なので、榛名が代わりに男性に質問をし続けた。

「奥様はトイレで胸を押さえて倒れていました。何か元々持病を持っていらっしゃいますか? 普段お薬とか飲まれてます?」
「い、いやワシは知らない、何も聞いてないぞ! おまえ、しっかりしろ! おまえぇ!」
「落ち着いてください、あの人医者ですから! 俺も看護師ですので!」

 男性が処置中の霧咲を突き飛ばそうとしたので、榛名は慌てて肩を抑えて男性を引き止めた。
 そしてあまり言いたくはなかったが、夫であるその男性を安心させるために自分達は医療関係者であると名乗った。
 案の定、霧咲が医者だと分かった男性は少し落ち着いたのか、無暗に掴みかかることはやめた。
 そして縋るような声で霧咲に問いかける。

「せ、先生! 和子は、家内は助かるんでしょうか!? 助けてください!」
「まだ分かりません、とりあえずAEDと救急車の到着を待ちます。暁哉、気道確保をしてくれないか。人工呼吸はしなくていい」
「ハイ!」

 榛名は自分が巻いていたマフラーを適当に畳んで肩枕を作り、老婦人の肩の下へ置くとぐいっと顎を上げて気道確保をした。そこではっきりと老婦人の顔を見て、あっと声を上げた。

「誠人さん! この人って」
「待合室で、亜衣乃にカイロをくれたご婦人だな」
「ですよね」

 霧咲は既に気付いていたらしいが、それを榛名に言う余裕はなかったらしい。
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