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110 榛名、職務質問される
榛名と亜衣乃は、手を繋いでその場を離れた。
ホテルの名前とホテルのある最寄駅は霧咲から聞いていたので、あとは電車かバスに乗ってその駅に行き、タクシーを捕まえればいい。
榛名は方向音痴だが、それくらいならスムーズに出来るだろうと思っているのだった。
早速亜衣乃にガイドブックを借り、地図のページを広げた。
「さてと、どうやって向かおうかな……まずはバスに乗って箱根湯本駅に戻った方が確実かな。それで、電車で宮ノ下温泉に行って……」
「ねえアキちゃん、亜衣乃少し喉が乾いちゃったんだけど」
やや遠慮がちな態度で、亜衣乃が榛名に言った。
榛名はパッとガイドブックから目を離し、亜衣乃の要望を聞いた。
「あ、さっき甘酒しか飲んでなかったもんね。俺も沢山大声出して少し喉が渇いたな……先にお茶でも買おうか」
「うんっ」
近くに自販機を見つけたので、榛名は温かいお茶を二本買うと亜衣乃に一本手渡した。
「あったかいねー」
「ねー」
亜衣乃が笑って言い、榛名も微笑み返す。
そして、霧咲もきっと今頃喉が渇いてるだろうな、と思った。
あの女性は痙攣は一時収まって心臓も動き出していたが、また救急車の中で急変しないとも限らない。
そうなると、医者である霧咲の拘束時間はますます長くなるだろう。
人助けは医者の使命とはいえ、せっかく本来の仕事は振り切ってきたのにな……と、少し残念な気持ちになった。
すると。
「あのーお兄さんすいません。ちょっとお話いいですか?」
「え?」
いきなり声を掛けられて、榛名が後ろを向くとそこには制服姿の警官が二人立っていた。
「? なんでしょうか」
「いやーいきなり声かけてすみませんね。ちょっと2、3個質問いいですか?」
「はい?」
(警察が俺に何の用だろう? もしかして近くで事件でも起こったのかな……)
毎日を至極真面目に生きてる榛名にとって、警官に話しかけられる理由などはそんなことくらいしか浮かばない。
まさかこれが人生初の職務質問だとは、欠片も思いもしなかった。
「この近くで何か事件でもあったんですか?」
「いや、何もないですよ」
「? そうですか」
では何故、自分が声を掛けられたのだろう。
榛名は顔いっぱいに疑問符を浮かべながら、二人の警官を見つめた。
一人は自分よりも年上で、霧咲よりも若いだろうか。もう一人の榛名に声を掛けた方は、まだ20代前半のようだ。
亜衣乃も訝しげな顔で、警官を睨んでいる。
「えーっと、じゃあ名前と歳と職業と……身分証明書みたいなもの、あったら見せてくれます?」
「え!?」
「いや、もちろん任意なんですけどね。でも言うとおりにしていただいた方が早く終わるかなーって思いますよ」
なんだろう、これは。
「榛名暁哉、28歳、看護師です。免許証……で、いいですか?」
キャッチや詐欺に声を掛けられるのは慣れているが、相手は警官だからそれも違う。
まさかこれは、噂に聞く……
「へえ、お兄さん28なんだ。全然見えませんね。それで、その連れている女の子とは一体どういう関係ですか?」
「え?」
「いや~、親子にも兄妹にも見えないので少し気になりまして。あ、別に誘拐とかを疑ってるわけじゃないですよ? ただこのご時世、何があってもおかしくないっていうか、連れ去り事件とかあるじゃないですか。大変なんですよ~こっちも」
「……!!」
職務質問、というやつだった。
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