雨宮卯月は腐男子である

すずなりたま

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33 南條志信の独白


 俺と雨宮のラブラブランチタイムに、突然そいつはやってきた。2年A組出席番号33番、吉村彰吾。まさにヌケヌケと……いや、ノコノコと。

    なんだこの野郎、俺と雨宮……いや、卯月とのラブラブランチタイムの邪魔してんじゃねーよぉ!! せっかく卯月の恥ずかしそうな可愛い顔がもっと見れるところだったのによォォォ!!!

 ――と言いたいのをグッと堪えて、ポーカーフェイスで対応した。

「吉村、俺に何か用か?」
「あ。あの……授業で分からないところがあるので教えてほしくて来ました」

 吉村がそう言った途端、ガタッと派手な音を立てて卯月が立ち上がった。

「あ、あの! 俺もう行きますから!! 吉村君、ここの席空くから使って!?」
「え、でも雨宮まだ弁当食べてる途中じゃないの?」
「いいから! ふたりの邪魔をする気は一切ないからね俺! じゃあ南條先生さよーならっ!!」
「雨宮ぁぁ!!」

 なんと、卯月が出て行ってしまった! あああ俺の天使がぁ……!!
 しかし悲しいかな、俺も一応教師のはしくれ。質問に来た生徒に『教科書百万回読んでろッッ!!』などと言って追い返すわけにはいかないんだ。大学で質問に来た後輩にはそうして来たけど。――すると。

「南條先生! 俺はどうしても雨宮みたいに化学が得意になりたいんです! かなり切実なんです!! なのですみませんが、これから毎日昼休みと放課後、俺に化学を教えてもらえませんか!?」

 吉村はそう言い、俺に頭を下げた。
   
 はぁああああ!? 毎日だとぉぉ!?!? こいつ頭のネジ飛んでんのか!? 嫌に決まってるだろ、ンなもん!!

「俺、どうしても化学ができるようになりたいんです。次の化学のテストではどうしても雨宮に勝ちたいんです、いや、勝たなきゃダメなんです!!」

   なんでだよ、無理だろ……。惚れた欲目ってわけじゃないけど、雨宮卯月は特別な生徒だ。授業中、ひたすら俺を見つめるだけでなんッッッにも聞いてないような惚けた顔してるのに、当てたらほぼ正解を答える奴だぞ。だから俺は卯月のことをある種天才だと思っている。

 そんな天才化学少年雨宮卯月に、毎回化学赤点の吉村が勝ちたいだと? ……うーん、寝言は寝て言えって感じだな。それでも俺は、しつこいが一応教師としてそんな冷たいことを言うわけにはいかなくて……

 あぁぁマジで教師って面倒くせぇなぁ!! 進学校でもあるまいし、化学なんて適当にやってろよぉぉ!! 自分の担当教科だろうがそう思うぜ。

「なんでいきなりその、雨宮に張り合ってまでできるようになりたいって思ったんだ? ていうかほぼ暗記教科だぞ、化学は」

 理由くらいは聞かせてもらおう。その内容にまったく興味はないが、そのくらい言わせないと割に合わん!! 言わせたところで別に割に合わないけどな!!

「俺がバカだから、好きな子にふられてしまって……」

 ――ん?

「付き合って貰える自信あったんですけど……顔だけの男に興味ないって言われちゃって」

 吉村の好きな子って……ああ、卯月と仲のいい池田律か。授業中すげぇ熱心に見つめてるもんな。ありゃ気付いてるクラスメイトも何人かいるだろう。卯月は前の席だから気付いてないだろうが……なるほど。池田に振られたから、池田と仲のいい卯月に勝ちたいのか。ははぁ……

 ザ・単純だな!! さっすが男子高校生!! そんなあさっての方向の努力で女が落ちるかバ――カ!! バカかわいいけどめんどくせーっっ!!

「だから俺、彼女に教えてあげられるくらいに化学が得意になりたいんです! 南條先生お願いします、協力してください!!」
「あーそうか。で? 今日の授業のどこがわからないんだって?」

 そんなくだらねぇことに毎日付き合ってられるか!! 昼休みに放課後も? ふざけんな、じゃあ俺は卯月といつ会えばいいんだよ!!
 家に連れ込むのもあの様子じゃまだまだハードルが高いだろうし……Rhine交換すらまだしてねーし、あーあ……。

「ぜ、全部です」
「はあ?」

 そのふざけた答えに、俺の切れやすい血管がついプチンと切れてしまった。

「ふざけんじゃねーぞ吉村ァ!! 分からないところがわかりませんってそんな漠然としすぎたことを言う奴に教えられるか!! 俺はカテキョでも塾講師でもねーんだよ!   たしかに高校は無料じゃねーが普段から授業をマジメに聞いてればよかったんだろーが、ふざけんな!! せめて自分で勉強して、どーっっしてもわからなかったところだけをピンポイントで質問しにこい!! 一人の生徒に最初っから手取り足とりの個人授業やれるほど暇じゃねぇんだよ俺は――!!」

 吉村は猫のように大きな目を更に大きく見開き、声も出ないくらい驚いている。俺は今まで授業中に一度も怒鳴ったことがないからな。生徒がオシャベリしてよーが寝てよーが内職してよーが別に知ったこっちゃねぇ。卯月が俺の授業を一生懸命聞いてくれている、それだけで十分満足しているからだ。

 つーか吉村コイツ、よく見るとすげぇ美少年だな……ノンケだし好みじゃねぇけど。でもアレだ、残念な美少年ってやつだな。

「す、すみません……そうですよね、本当にすみませんでした」
「分かればいいんだよ、分かれば」

 長々と説教するつもりはない。あと、暇じゃねぇってのは嘘だけど。俺はクラス担任も受け持ってないし、部活の顧問でもないから。スポーツ部の顧問なんてたとえ校長命令だろうと死んでもやらんッッ!!←運動苦手

「……でもまぁ、自分から教わりに来たことだけは褒めてやるよ。俺は高校の時はそんなにマジメじゃなかったからな」

 別にわざわざ教師に聞きに行かなくても優秀だったんだけど、これは言わないでおいてやろう。

「南條先生……」
「でも、雨宮よりできるようになりたいってんなら俺は超スパルタだぞ。とりあえず元素記号くらいは全部暗記しとけよな。あと教科書全部読め。最低30回は読め。話はそれからだ」
「は……はい!!」

 ――こうして俺の吉村に対する個人授業(?)は始まった。ああ、マジで面倒くせぇ。これが卯月だったら喜んで個人授業するのに……!! でも内容は化学じゃなくて保健体育な。
 ああ、卯月……もう少し一緒に居たかったぜ……。
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