16 / 19
16 初夜勤
しおりを挟む
それからしばらくは、大谷が光のことを『光さん』と呼ぶようになった以外に変わったことは何もなかった。光と大谷は表面上は普通に接しており、二人きりになると少しソワソワしたが、どちらかがあの日のことを蒸し返して話すこともなかった。
「三澄君、申し送りのあとちょっといい?」
師長がまた光に話があると声を掛けてきたのは、十二月の半ばだった。
「な、なんでしょう?」
「24日の夜勤なんだけど、小泉さんが急な用事が出来て入るのが難しいってことだから、代わりに入って欲しいの」
「えっ?」
夜勤。もういつ頼まれても出来るだろうと思っていたが、実際に頼まれると一気に胸に不安が暗雲のように押し寄せてくる。
「それとその日は大谷君も夜勤に付けるから、よろしくね」
「えっ!?」
「大谷君の同期の子達はもうみんな夜勤業務に入ってるから、大谷君もそろそろ付けなきゃって思ってたのよ」
「あの、ちなみに介護士さんはどなたが?」
「青木君と大森さんよ」
青木は新人ではないがまだ若く、少しいい加減で不安なところがある。大森はベテランの介護士なので、光はあからさまにホッとした。
「もちろん、この病棟での夜勤経験のない貴方にいきなり24日に大谷君と入ってもらうのは無理だから、練習として明日小泉さんと夜勤に入ってくれる? 全体の流れを教えてもらってちょうだい」
「ちょ、ちょっと待ってください。つまり俺は明日小泉さんと夜勤に入ったあと、24日の夜勤で大谷さんと入る……ってことですか?」
「ええそうよ。うちは療養だし、貴方は4年生だからそんなに難しいことでもないかな~と思って。日勤業務は完璧だしね」
「……」
そんなふうに言われたら、光は絶対に断れない。大谷のプリセプターを頼まれた時もそうだが、師長はつくづく自分をその気にさせるのが上手い。
(いや、信頼されているんだ。こんな俺でも)
光はぐっと拳を握りしめて、師長の目を真っ直ぐに見て返事をした。
「分かりました」
「あ、二十四日は私も夜間当直でいるから、何かあったらすぐ連絡してくれていいわよ」
「……それを先に言ってください」
「うふっ」
*
小泉と一緒に入った初夜勤は、結果として何も起こらなかった。患者のことも勿論だが、光が過呼吸を起こして小泉や他のスタッフに迷惑を掛けることはなかった。
普段は三人体制だが、この日は光を入れて四人だったので人手も十分すぎるほどあり、軽くお喋りなどをしつつ、楽しい夜勤だった。
そんなふうに穏やかな気持ちで夜勤が出来たのは、信頼している元プリセプターの小泉と一緒だったからというのも大きいだろう。
そして今日は光にとっては二度目、大谷にとっては初めての夜勤だ。夕方、ロッカー室で会った大谷は緊張で少し顔がこわばっていた。
「大谷さん、俺が言うのもアレですけどそんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。今日も四人だから、ちょっと余裕あると思います」
「は、はい。よろしくお願いします、光さん」
大谷は今日光と夜勤に入ったあと、もう一度近いうちに他の先輩看護師と一緒に入り、それ以降は一人夜勤になる予定だ。それは光も同様で、今日大谷と入った以降は看護師一人になる。
「……そういえば今日、クリスマスイブですよね。小泉さんはデートか何かでしょうか」
「さあ……俺もこないだの夜勤で聞いてみたけど、誤魔化されちゃいました」
「光さんも知らないんですか?」
「はい」
大谷は相変わらず、あの日から光のことを『光さん』と呼ぶ。最初はドキドキしておおいに戸惑ったが、今ではすっかり慣れてしまった。
(俺ともっと仲良くなりたいからって言ってたけど、あれから何も変わってない、よな。距離感とか……)
大谷の真意はいまだに分からないが、光は相変わらず大谷をオカズに自慰を続けている。あの日の快感が忘れられなくて、少し物足りないけども。
「三澄君、申し送りのあとちょっといい?」
師長がまた光に話があると声を掛けてきたのは、十二月の半ばだった。
「な、なんでしょう?」
「24日の夜勤なんだけど、小泉さんが急な用事が出来て入るのが難しいってことだから、代わりに入って欲しいの」
「えっ?」
夜勤。もういつ頼まれても出来るだろうと思っていたが、実際に頼まれると一気に胸に不安が暗雲のように押し寄せてくる。
「それとその日は大谷君も夜勤に付けるから、よろしくね」
「えっ!?」
「大谷君の同期の子達はもうみんな夜勤業務に入ってるから、大谷君もそろそろ付けなきゃって思ってたのよ」
「あの、ちなみに介護士さんはどなたが?」
「青木君と大森さんよ」
青木は新人ではないがまだ若く、少しいい加減で不安なところがある。大森はベテランの介護士なので、光はあからさまにホッとした。
「もちろん、この病棟での夜勤経験のない貴方にいきなり24日に大谷君と入ってもらうのは無理だから、練習として明日小泉さんと夜勤に入ってくれる? 全体の流れを教えてもらってちょうだい」
「ちょ、ちょっと待ってください。つまり俺は明日小泉さんと夜勤に入ったあと、24日の夜勤で大谷さんと入る……ってことですか?」
「ええそうよ。うちは療養だし、貴方は4年生だからそんなに難しいことでもないかな~と思って。日勤業務は完璧だしね」
「……」
そんなふうに言われたら、光は絶対に断れない。大谷のプリセプターを頼まれた時もそうだが、師長はつくづく自分をその気にさせるのが上手い。
(いや、信頼されているんだ。こんな俺でも)
光はぐっと拳を握りしめて、師長の目を真っ直ぐに見て返事をした。
「分かりました」
「あ、二十四日は私も夜間当直でいるから、何かあったらすぐ連絡してくれていいわよ」
「……それを先に言ってください」
「うふっ」
*
小泉と一緒に入った初夜勤は、結果として何も起こらなかった。患者のことも勿論だが、光が過呼吸を起こして小泉や他のスタッフに迷惑を掛けることはなかった。
普段は三人体制だが、この日は光を入れて四人だったので人手も十分すぎるほどあり、軽くお喋りなどをしつつ、楽しい夜勤だった。
そんなふうに穏やかな気持ちで夜勤が出来たのは、信頼している元プリセプターの小泉と一緒だったからというのも大きいだろう。
そして今日は光にとっては二度目、大谷にとっては初めての夜勤だ。夕方、ロッカー室で会った大谷は緊張で少し顔がこわばっていた。
「大谷さん、俺が言うのもアレですけどそんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。今日も四人だから、ちょっと余裕あると思います」
「は、はい。よろしくお願いします、光さん」
大谷は今日光と夜勤に入ったあと、もう一度近いうちに他の先輩看護師と一緒に入り、それ以降は一人夜勤になる予定だ。それは光も同様で、今日大谷と入った以降は看護師一人になる。
「……そういえば今日、クリスマスイブですよね。小泉さんはデートか何かでしょうか」
「さあ……俺もこないだの夜勤で聞いてみたけど、誤魔化されちゃいました」
「光さんも知らないんですか?」
「はい」
大谷は相変わらず、あの日から光のことを『光さん』と呼ぶ。最初はドキドキしておおいに戸惑ったが、今ではすっかり慣れてしまった。
(俺ともっと仲良くなりたいからって言ってたけど、あれから何も変わってない、よな。距離感とか……)
大谷の真意はいまだに分からないが、光は相変わらず大谷をオカズに自慰を続けている。あの日の快感が忘れられなくて、少し物足りないけども。
19
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
不幸の手紙に“男に告白される”って書いてあったんだが?
すもも
BL
磯城亮輔のもとに、毎日「不幸の手紙」が届く。
書かれた内容はなぜか必ず当たるが、だいたいが地味に嫌なだけの不幸。
亮輔はすっかり慣れきっていた。
しかしある日、こう書かれていた。
「男に告白されるだろう」
いや、ちょっと待て。
その翌日から手紙は呪詛じみていき、命の危機すら感じ始める。
犯人を探し始めた亮輔だが、周囲は頼りにならず——。
これは、少し性格に難ありな主人公が、不幸と告白に振り回される青春BL。
他のサイトにも掲載していますが、こちらは修正したものとなっています。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる