ある日突然年上の新人看護師の教育係になりました。

すずなりたま

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17 トラブル

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 光があの日のことを思い出して顔を赤くしていると、いきなりロッカー室のドアが開いたのでビクッと肩を震わせた。

「お疲れ様でーす! あ、大谷君いた! ちょっといい? おっと三澄君もお疲れ! 今から夜勤? 頑張ってねー」
「お、お疲れ様です、堂島さん……」
「堂島さんお久しぶりです。えっと自分を探していたんですか?」

 入ってくるなり無遠慮に光たちに話しかけてきたのは、MEの堂島どうじまだった。MEは急性期病棟に出入りすることが多いので、以前三階病棟にいた光とも、五階病棟にいた大谷とも面識がある。
 堂島は院内に知り合いも多く仕事も出来る若者だが、見た目も性格もチャラいので光は少しだけ苦手だった。

「うん、今夜夜勤ってことは明日は明けで明後日は休みだろ? 明日の夜、合コン参加してくんねぇ? 男の人数が足りなくてさ~、お願い! 今フリーだったよね?」
「あ、はい」
「夜勤明けで悪いけど夕方からだから! あ、三澄君も来る?」
「お、俺は遠慮します」
「そかそか、オッケー! じゃ、大谷君しくよろ~」
「あ、はい……」

 言いたいことだけ言って、堂島は嵐のように去っていった。どうやらわざわざ仕事を抜けて大谷を探しに来ていたらしい。ライン等で連絡せずに直接頼みに来るあたりが堂島らしい。人間的には苦手でも、その行動力は素直に尊敬する光だった。

「堂島さんって、絶対俺のこと老けた年下だと思ってますよね」
「……」

 大谷は堂島よりも年上だが、自分も当初は大谷のことを老けた年下だと思っていた光には何も言えなかった。



 時計の針はもう十二時を周り、病棟は既に消灯していた。今夜も前回と同様――この病棟では何か起こることの方が珍しいのだが――何事もなく終わりそうで、光はホッと胸を撫で下ろした。
 つい先程、師長が『何も変わったことはない? 三澄君、体調はどう?』と来てくれた。もちろんわざわざ来たのではなく、全病棟の見廻りのついでだ。それでも師長の顔を見て、光は安心したのだった。

 大谷は先輩看護師の中で光だけがずっと夜勤に入っていないことを疑問に思っていただろうが、何も聞かれたことはないので先に師長から聞いていたに違いない。師長が光の体調を訊いたときはちらりと光の顔を見たが、特に顔色は変えなかった。

 介護士の二人は先に休憩に入らせており、詰所には大谷と二人きりだ。夜勤の記録を手分けして書いていたが、二人なのですぐに書き終ってしまう。黙っているのも変なので、光から口を開いた。

「えっと……明日、合コン行かれるんですよね」

 よりによってその話題!? と光は自分で自分の言動に驚いた。大谷も同じことを思ったのか、少し驚いている。

「は、はい、断れる雰囲気じゃありませんでしたし」
「それは……そうですね」
「三澄さんも来ればよかったのに」
「俺、苦手なんです合コンとか。知らない人と喋るのが苦痛で」

 男が好きだから、とはさすがに言わなかった。

「知らない人と喋るのが苦手なら、いつもどうやって探してるんですか?」
「え? 何をですか?」
「だから、その……セフレとか」
「は?」

 光は思わず聞き返した。質問の意味がよく分からなかったからだ。

(セフレ……って、セックスフレンドのこと? 俺が、探してる?)

 そんなものは今までいたこともないし、大体光が今までセックスをした相手は大谷ただひとりだ。その大谷がそんな質問をしてくるなんて……本当に意味が分からなかった。

「すいません、俺ちょっと見廻りしてきます」

 最終ラウンドは三十分前に行ったので、次のラウンドまではあと一時間半もある。それでも大谷の言葉に混乱していた光は、大谷を止めなかった。

(なんで? 大谷さん、俺にセフレがいると思ってるのか? 俺、この間そんなこと一言も言ってないよな……)

 すると突然ナースコールが鳴り響き、光はすぐに通話ボタンを押した。受話器の向こうから、切羽詰まった大谷の声がする。

「光さん! 201号室の菊池さんの様子が少し変なんです! すぐに来てください!」
「えっ!?」

 光は一瞬、足元が崩れ落ちるような感覚を覚えたが、肩に掛けた聴診器をぐっと握りしめて踏みとどまった。

「――すぐに行きます!」
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