『パン屋の娘と魔導騎士 ― 恋と誇りのマントゥール譚』

もちもち

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番外 気品と戦火とアールグレイ

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~ティーカップの中で火花が散る~



マントゥール王都にほど近い、とある貴族の社交サロン。
白磁のカップ、香る紅茶、甘すぎないスコーン。
それは平和な昼下がり――

……になるはずだった。

「ごきげんよう、ローラ様。まぁ、そのドレス、田舎の染め物ですの?」

「えっ……え、えと……。こ、これは……ええと、母が……」

レモニィー・バーデン伯爵令嬢、今日も攻めの姿勢。

ローラ・ワトソン侯爵令嬢、今日も守備一辺倒。
お嬢様界の火種は、静かに着火された。



第一ラウンド:見えないマウント攻防戦

「まぁ、私の方は最近、ウィリアム様と王城の回廊をご一緒したりしてますけど……。“風が冷たい”とおっしゃったから、そっとマントを貸して差し上げましたの」

(どうよ!このさりげないアピール!)

「……わ、私も……っ」

(思い切って言うのよ、ローラ!勇気を出して!)

「この間……ウィリアム様の後ろを……えっと……静かに、歩きました……」

「…………」

「…………」

(沈黙のアールグレイ)



第二ラウンド:スコーンという名の戦場

「ローラ様、そちらのスコーン、だいぶ焦げてませんこと?……あっ、失礼。これは焼き色っていうんですのよね?」

(どこが失礼だ!全方位攻撃かこの人!)

「こ、これが……わ、わたしの家では“カリッと香ばしく焼く”が伝統で……」

「まぁ、文化の違いって面白いですわね~、ふふ」

(上から目線すぎて逆に美術館に飾りたい)



第三ラウンド:ウワサと誤爆と勘違い

「ところで、ご存知? シルビアというパン屋の娘……」

(出た……伏兵への話題転換!)

「ウィリアム様がよく、彼女の店に通っているって――」

「っ!?」

ローラのメガネがびくっと震える。

「こ、これは戦ですわ!平民に“恋の戦場”を荒らされるわけには……っ!」

「なにを仰ってるの、ローラ様。戦とは“知性と気品”のぶつかり合いですのよ」

「……えと、それって……つまり……血で血を洗うってこと?」

「ちがいますわ!!!」



終末ラウンド:勝者なき優雅な泥仕合

最終的に、二人はサロンの奥で「騎士ウィリアム様の本命は誰か」について、
紅茶と妄想と嫉妬を盛大にこぼしながら語り合っていた。

「やっぱり私のような、知的で洗練された女性こそが……」

「で、でも……私は……あの……メガネ……似合ってますか……?」

そのとき――

「お邪魔します」

扉が開き、現れたのは――まさかの当の本人、ウィリアム。

「……」

「……!!!!!」

紅茶カップを手にしたまま、二人は凍りつく。
ローラのメガネがくもり、レモニィーの眉毛がピクリと跳ねた。

「……えーっと、ドルマン様をお探しだったのですが、間違えました。では」

「「まってくださいウィリアム様ァァァァ!!」」

今、静かなティーサロンに“令嬢二重奏(ハモり気味)”が響いた。



エピローグ:戦のあとにはスコーンを

「……今日は引き分けだったわね」
「……はい。来週も、サロン……ご一緒にしますか……?」
「ええ、あなたには情報提供の価値くらいはあるし」
「(いま、利用される宣言された……)」

紅茶は冷めたけれど、恋の火種はまだまだ冷めない。
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