『パン屋の娘と魔導騎士 ― 恋と誇りのマントゥール譚』

もちもち

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番外 ウィリアムの日常

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【午前六時】

――城の屋上、まだ薄暗い空。

「……風向き良し。訓練に最適」

ウィリアム・レグアスタ、24歳。王女フェリシアの護衛騎士であり、魔導騎士でもある彼の朝は、だいたい筋トレから始まる。

今日は片手剣を振りながら、同時に魔力の制御訓練。朝食前に魔力暴発で壁を一枚焦がす。

「……修繕費、次の給与から差し引きだな」



【午前八時】

王女フェリシアの“行方不明”が発覚。

「また……抜け出したな」

慣れている。もう驚かない。だが“念のため”部下たちに捜索指示。

(心の声)

「マントゥール方面なら、あのパン屋か……いや、今回は図書館か? 昨日は“書庫の空気が乾燥してて喉が痛い”と言っていたから……」

※王女のくしゃみ一つで行動パターンを読み解くのが一流護衛。



【午前十時】

予想どおり、マントゥールのパン屋に王女発見。
しかもシルビアとテーブルを囲んで、スコーンに蜂蜜をかけている。

「……こちらにいらっしゃいましたか、フェリシア様」

「うわっ、また見つかった! なんで!? レーダーでも付けてる!?」

「……直感です」

このあと、王女からスコーンを一口もらう。無表情で「美味」と言ったが、実は蜂蜜の量で口の中がベトベトになっていて困っていた。



【正午】

護衛として王女と城へ戻る道すがら、シルビアが「お弁当どうぞ」と小さな包みを渡してくる。

「……ありがたく頂きます」

(心の声)

「可愛らしい……じゃない、栄養バランスが取れている」

笑って「また来てくださいね」と言うシルビアの笑顔が、午後の騎士の集中力を70%削る。



【午後三時】

会議中。王女付き護衛の動線配置、春の演習、あと庭園の噴水掃除当番など。

だが――
(心の声)
「昼の弁当に入っていた卵焼きは、あれは出汁巻きだろうか……甘めだったような……。いや、ほんのり塩気があった……塩と砂糖の両方? どうやって?……」

「ウィリアム殿、何か意見を」

「……卵焼きは、あ……いや、報告、特に異状ありません」

(魔導騎士でも言い間違えることはある)



【午後六時】

勤務終了。訓練場でひとり剣を振る。
ふと、騎士仲間が言う。

「最近、お前……ちょっと柔らかくなったな」

「……そう見えるか」

「たぶん、シルビア嬢のせいだな」

「……あの子は、よく食べる。パンが好きで……」

「いや、そういう話じゃなくてだな」

言葉に詰まる。
自分でも、理由を言葉にできない。
ただ、胸の内に温かい“何か”が生まれているのは確かだ。



【夜十時】

部屋で書類整理。
引き出しには、なぜか大切に取ってあるパン屋の紙袋の切れ端。
王女に「それ何?」と聞かれて焦ってごまかしたやつだ。

ふとペンを置いて、窓の外を見る。
マントゥールの方角。

「……また、パン……買いに行こうか」

(違う、そうじゃない、とは自分でも思う)
でも、理由があれば行けるのだ。大義名分。それが騎士の理屈。



エピローグ:

誰かが言っていた。恋は気づいた時には始まっている、と。

けれど、ウィリアム・レグアスタはまだ気づいていない。
気づかぬまま、今日も剣を振る。
そしてまた、パンを食べる。

でも――それは、少し甘くて、少しあたたかい味がするのだった。
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