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第七話:風邪ひいても、近づくな
しおりを挟む体が重い。
頭がぐらぐらする。熱っぽい。喉が焼けるように痛い。
俺はその日、まさかの風邪で寝込んだ。
自分の体調には厳格に管理していたつもりだ。
だが、任務の続いた一週間の疲労に加え、リリン嬢との接触ストレスによる精神的消耗が限界を超えていたのかもしれない。
「リアム様ぁああああああっっ!! ついに“発熱イベント”発生ですのねっ!!」
「だから来るなっつってんだろこの病原体!!」
部屋の扉が軽やかに開いたかと思えば、看病グッズフル装備のリリン嬢が登場した。
額に冷えピタ(リアム様仕様)、持参したおかゆ(心臓型)、おまけにリアム様の寝言録音アプリまで準備万端。
「うふふふ♡ 今こそ妄想から現実への昇華……っ♡ 寝込みリアム様……尊い……!」
「帰れ!! それとも俺の体温で炙られたいのか!!!」
「むしろ炙られたい♡ すべての細胞でリアム様の熱を受け止めたい♡」
「この女いよいよ熱より危険だ!!」
***
だが、彼女は本当に看病に徹した。
部屋を静かに整え、水を替え、タオルを搾り、意外なほどまともにおかゆを作ってくれた。
「……無理に食べなくても大丈夫ですのよ。リアム様の消化機能すら尊いので……」
「俺の胃袋を神格化するな。誰の内臓も神じゃない」
「でもリアム様の胃がキュルキュル鳴った瞬間、“ああ、これが生命……!”って感動しましたの……」
「病人の消化音に感動すんな!!!」
食べさせられるのは拒否したが、味は――悪くなかった。
ほんのりとショウガが効いていて、心なしか、体が少し楽になった。
「……意外と、料理できるんだな」
「今……褒めました!? リアム様がっ!? 私の存在、肯定しましたっっっ!?!?」
「だから黙れって言ってんだろ! 熱上がるわ!!!」
「熱の中の塩対応……それはもう激レアですわ……!」
***
しばらくして、俺は浅く眠った。
ぼんやりとした夢の中で、誰かに額を冷やされていた気がする。
優しくて、冷たくて、妙に懐かしい感触だった。
……目が覚めると、リリン嬢がすぐそばにいた。
正座して、黙って俺の顔を見ていた。
口も動かさず、妄想も爆発せず、ただ……静かに。
「……なに、見てんだ」
「…………リアム様の寝顔って、想像より優しいのですわね」
彼女は、そっと笑った。
「普段の塩対応ばかり見ているから……余計に、こういう時に優しさが漏れると……破壊力がすごくて……心臓が……」
「動悸か? なら病院行け」
「……はい。脳内病院に緊急搬送されました♡」
「帰れやっぱり」
***
数時間後、熱は少し引いていた。
リリン嬢は、俺の部屋の隅に布団を敷いて――なぜか自前の**“リアム様抱き枕”**にくるまって寝ていた。
「……いや寝てんのかよ」
しかも寝言で「おかわりっ♡」とか言っている。意味がわからない。何をおかわりしたのかすら分からないが、たぶん俺の酸素だ。
だが、その横顔は……ほんの少しだけ、疲れていた。
俺のために、走り回ってくれたのだろう。
その事実が、少しだけ……胸をついた。
「……感謝はする」
「……ん……今……なんて……?」
「言ってねぇよ。妄想だ」
「ですよねぇえぇぇぇ♡♡♡ でも、幻聴でもうれしい♡♡♡♡♡♡」
「寝ろや!!!!」
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