うしろに立つ女に注意

もちもち

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第六話:舞踏会、それは塩対応の限界試験

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 王城最大の社交イベント――年次舞踏会。

 貴族たちが煌びやかに着飾り、踊り、噂を交わすこの一夜に、俺――リアム・フェルンハイムは騎士として、護衛任務に就いていた。

 本来なら、粛々と役目を果たして終了するはずだったのだ。

 あいつが来なければ。

「お、お、お待たせしましたのぉぉぉぉっ♡♡♡」

 突如、舞踏会場の入口から転がるように登場した、緋色のドレスに身を包んだ破壊兵器(リリン)。
 見た瞬間、俺の胃がきしんだ。

 

 ――どこから話そうか。

 まず、ドレスの布が足りていない。いや、見えてはいけないものはギリギリ見えてないが、ギリギリすぎる。

 そして、胸元のブローチには俺の顔(たぶん手刺繍)が鎮座していた。

 

「リアム様ぁ♡ どうですかこのドレスぅ♡ 推し活用に誂えましたのよぉ♡ 踊っていただけますかっっ♡」

「いやです」

「即答ぉおおおおお!!!?!?!」

 

***

 

 その後、リリン嬢は会場内で驚異的な“推し活”を展開し始めた。

 リアム様観察ポイント①:立ち姿
 リアム様観察ポイント②:グラスの持ち方
 リアム様観察ポイント③:踊らない姿すら尊い

 ……などと、壁にへばりつきながら小声で実況し、貴族の皆様を徐々に引かせていた。

 いやむしろ、逆に注目され始めている。

 「噂のストーカー侍女ってこの人?」
 「いやでもドレスのセンスは天才的」
 「彼女の推し解釈、深い……」

 など、謎の同調者まで現れていた。

「やめろ、感染拡大やめろ」

 

***

 

 そして、事件は起きた。

 俺が王女殿下の護衛のために、一時的に貴族令嬢とダンスをしていたとき――

「……っ、これは……」

 視線を感じた。

 鋭く、刺さるような熱。

 振り向くと、そこにいた。

 リリン嬢。静かに笑っていたが、目が笑っていなかった。

 そのまま、スッと消えた。

 ……やばい。

 あれは嵐の前の沈黙。

 

***

 

 数十分後。

 俺は会場裏の廊下で、リリン嬢を発見した。

 誰もいない中庭で、月明かりに照らされながら、自作の“リアム様等身大パネル”に語りかけていた。

「……でも、いいんですの……リアム様が別の女と踊っても……きっと、素敵だったでしょうし……」

「いや怖い怖い怖い!!! なんで持ち込んでんの!?!? 等身大!?!?」

「だって、寂しかったんですの……でも、私が泣いてる顔なんて、リアム様に見せられませんから……」

 ……やばい。
 声が震えてる。**“ガチの嫉妬”**だ。

 

 ここで俺は――一瞬だけ、理性を捨てた。

「……リリン嬢」

「……はい……?」

「……一曲だけだ。踊るぞ」

「え………………ッ!!!???」

「……条件がある。**変な声を出すな。あと、妙な妄想に変換するな。**これは、ただのダンスだ」

「は、は、はいぃぃぃぃ♡♡♡♡♡♡♡♡♡」

 その直後、鼻血を出してぶっ倒れた。

「バカか!!」

 

***

 

 鼻血が止まった後、俺たちは会場隅で一曲だけ、静かに踊った。

 リリン嬢は、信じられないほど真面目な顔をしていた。

 言葉もなく、ただ、俺の動きに合わせて、淡くステップを踏んでいた。

 ……たまには、こういうのも、いいかもしれない。

 

 ……なんて思った俺がバカだった。

 

「リアム様と踊った記念に、今夜から“等身大パネル ver.ダンスポーズ”を製作いたします♡」

「もう燃やす! 等身大パネルごと塩で埋めて燃やす!!!」
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