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第一話 フィヨルド旧墓地の戦い
しおりを挟むここはポールトネメア東部にあるフィヨルド旧墓地。
定期的な浄化を怠ったため、現在ではアンデッドが跋扈する不浄の地と化している。
長い間放置されてきたため、墓地内部がどうなっているのかを知る者はいない。
上空から確認しようとしても、ヤナギの木々に覆われており、殆ど見ることは叶わない。
「それにしても暗すぎる」とは、ポールトネメア安全保障研究所の研究員の言だが、それはアンデッドが大量に生息していることを暗に示しているのだ。
アンデッドには光を苦手とする個体が多く、そのため上位個体となると自ら暗黒の霧を生み出して太陽の光を遮る。
その霧が墓地全域を覆っているのだから、相当数の上位アンデッドが居ることが予想される。
ファフ「うぉぉー、寒いな。なんか、ゾッとする感じの寒さだ」
ロムラス「それって、”怖い”ってことでしょ?それならアレ使いなよ、アレ」
ファフ「この前作った腕輪型魔術具のことか?ダメだダメだ、あれは使える時間が限られてるんだ。アンデッドと戦闘になったら、使う。いざって時に使えません、じゃ困るだろ?」
この魔術具は、身に着けているだけでも恐怖を抑える効果があるが、宝石スフィアライトに内蔵された魔力を流すことで恐怖をほぼ無効化することができる。
もちろん、スフィアライトの魔力が尽きればそれは終わりだ。
ロムラス「アンデッドが出てきたら、ぼくが出ればいいじゃん!パパっと一掃しちゃうからさ」
ファフ「それはダメだって言ったろ?バレても困るし、だいたいお前は戦うとすぐ『おなかすいたー!』って言うんだから」
ロムラス「いや、なんなら戦ってない現時点でもうちょっとおなかすいてるよ」
ファフ「えぇ……」
ロムラスは強い。
だがすぐに腹が減る。
そのうえ、よく食う。
つまり、とんでもなく食費がかかるのだ。
ファフ「おいおい、もう金貨1枚しか残ってないぞ?帰っても一番安い肉しか買えないからな!」
ロムラス「えーーーー!!この前食べたたかーいお肉が食べたい!!!」
ファフ「……高いもん食わせるんじゃなかった」
ペットに美味しいものを与えたせいで、普段の食事を食べなくなった。それを思い出した。
メッキ―、元気にしているだろうか。
「全体、止まれ!」
大声を出したのは、今回の討伐隊リーダーであるカミュだ。
ε級冒険者パーティのリーダーでもある彼は、この討伐隊にいる人物の中では最強格であり、彼の言に反することができる者はここにはいない。
カミュ「これより、フィヨルド旧墓地内部に入る。おびただしい数のアンデッドが居ることが予想されるため、逐一相手をしていてはキリがない。そのため、事前に説明したが、今回の作戦は”α・β・γ・δ級冒険者が進路を切り開き、ε級冒険者、つまり俺たちが標的ディアブロを倒す”だ。各自与えられた役割をしっかり果たすように!報酬は弾むそうだから楽しみにしておけよ!」
「おぉー!!」と歓声があがる。
各自で恐怖への対策を施しているのだろう、死ぬかもしれない恐怖よりも報酬を得る歓びの方が勝っているらしい。
確かに今回の報酬はデカい。
低ランク冒険者でも大銀貨を、高ランク冒険者であれば金貨数枚が出るそうだ。
自分としては、報酬というよりも無理やり連れてこられたのだが……。
カミュ「それに今作戦では、先日の獅子襲撃事件での最大の功労者であるファフくんがついている!εランクのディアブロが可哀想なほどの過剰戦力と言っていいだろう!皆、安心してくれ!死者ゼロで帰るぞ!!!」
「おぉ!あの!」「ζランクを撃退したという!」「頼もしい!」
他の面々が口々に賞賛の言葉を口にする。
安堵のため息をつくものもいる。
カミュ「さぁ、ファフくん!」
カミュさんが自分に発言を促してくる。
冒険者たちも鼓舞の一言を期待しているようだ。
ファフ「こういうのはニガテなんだけどな……」
ロムラス「ほらほら、『おれが全員倒す!』とか言っちゃえ!」
ったく、こいつは適当なことばかり言うんだから。
そんなことしたらディアブロに会う前に空腹で動けなくなるくせに。
ファフ「……皆さん、力を合わせて、全員で生きて帰りましょう!」
「「「おおぉー!!」」」
拍手が周囲に響く。
そんなことしたらアンデッドが起きてきそうだが……とにかく上手くこの場を凌げたようだ。
カミュ「では!フィヨルド旧墓地に入るぞ!!」
隊が歩調を合わせて内部へと進んでいく。
墓地内部は驚くほど暗く、前にいる者の姿すら見えない。
だが当然、対策をしてきている。
カミュ「光魔術具を!!」
カミュに応えて、複数の冒険者が腕に装着している魔術具に手をかざして、起動させる。
宝石から魔力が流れ始め、魔術具から強い光が発せられる。
すると、周囲が確認できる程度ではあるが、辺りが照らされた。
カミュ「――!!各自、戦闘態勢!」
ファフ「うおっ、囲まれてる!」
いつの間にか、周りはアンデッドだらけ。
αランクのゾンビやスケルトンといった魔物が殆どだが、ちらほらとゾンビの上位種であるリビングデッドや、奇形種のルストが見える。
中には死神種のフィアーズまでいた。
ロムラス「結構いるねー、しかも食べられないヤツばっかり……」
ファフ「ガッカリしてる場合か!」
今回の作戦上、俺は対象の魔物であるディアブロとの戦いに備えて、周囲の雑魚たちとは戦闘を行わず、他の冒険者たちに任せる。
「はぁッッ!!」「うらぁッ!」
冒険者たちとアンデッドの戦いが始まる。
ゾンビやスケルトンなどはα・β級冒険者が、リビングデッドなどの強敵はγ級冒険者が対応している。
彼らが進路を開いてくれるので、自分とカミュたちはただひたすら前に進んでいく。
内部に侵入して数分、ずっと戦い続けている下級冒険者たちに疲労の色が見られるが、アンデッドの大群は一向に減る様子を見せない。
カミュ「……このままではジリ貧だな――ん?」
カミュの視線の先には、フワフワと浮遊する小型の魔物の姿があった。
長い尾を持ち、その先端は鋭くとがっていることから、得物を突き刺すのに用いるのだろう。
小さな手に持つのは、彼の全長ほどの長さの槍だ。
これは――
カミュ「ディアブロ、ディアブロだ皆!!アイツを倒せばおしまいだ!」
雑魚と戦っている者たちから「おぉっ」と声が漏れる。
終わりが見え、歓びが口から出たのだろう。
一方、これからディアブロと戦う者たちの顔に緊張が走る。
これから、生死をかけた戦いが始まるのだ。
カミュ「魔術具発動!」
カミュが皆に聞こえるように、魔術具の発動を宣言する。
もちろん、仲間と連携をとるためだ。
ファフ「おぉ、体が軽くなったぞ」
どうやら、範囲に効果のある魔術具だったようだ。
今なら体操選手のような動きができる……気がする。
それくらい身軽になった気分だ。
カミュ「長くは持たない!一気に攻めるぞ!」
範囲に効果があるということは、それだけ魔力消費が激しいということ。
魔術具の効果が切れる前に終わらせる必要がある。
カミュとその仲間が連携の取れた動きで攻めあがる。
ディアブロは槍を持っていない方の手から人の頭程度の大きさの火球を放つ。
すかさずカミュの仲間が水の魔法を唱えて、それを打ち消す。
その隙に剣を両手に持ったカミュがディアブロに切りかかる。
空中に浮かんでいるディアブロに剣撃を叩き込むにはジャンプという隙の大きい行動をとらなければならなかったが、魔法を無効化されてディアブロが攻撃ができない今なら一方的に攻撃ができるわけだ。
カミュ「うおぉぉおッ!!」
カミュの剣が紅く光り、炎をまとい始めた。
カミュの剣は耐熱性・耐食性に優れたニコラムという金属でできており、カミュの魔法により帯びる炎の量と熱を更に高めるためにルビーが埋め込まれている。
そんな剣による一撃を、ディアブロは尾と槍の両方を用いて何とか受け止めた。
カミュ「この一撃を止めるとは!だが予想通りだ!」
カミュはすぐさま腰に差した鞘から小さな短剣を取り出し、ディアブロに突き刺そうとした。
しかし、先ほど魔法を放った手でそれを止める。
全身全霊の一撃によって、ディアブロの片手を使い物にならなくした――ように見えた。
カミュ「――掛かった!」
その短剣は、アマルガマイトでできている。
それが意味するのは、”触れたら死ぬ”ということだ。
ディアブロの腕がジュクジュクと脈打ち始め、指先からボロボロと崩れていく。
アマルガマイトの猛毒が、ディアブロの体を蝕んでいく。
瞬き数回――ディアブロの全身は跡形もなく崩れ去った。
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