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3.バルト海を並び行く幽霊たち
3-18.ただ一つのあこがれだけは、どこの誰にも消せはしない 3
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3-18.ただ一つのあこがれだけは、どこの誰にも消せはしない 3
エルメンヒルデは語り出した。
「我が船長は、嘗て、この街で、私を救ってくれました。母が死に、父とはぐれ、祖父母に家を追い出された私を保護してくれました。
そう、この街でです。
私は、船長を実の姉のように慕っています。
その船長が、“赤い真珠”だろうが、貝殻一枚だろうが……
例え、砂粒ひとつだろうが、心から欲しいというなら、この身を差し出しても手に入れてきます。
それが信じるということなのです」
その時、イリーゼ・アインホルンが大きく頷いた。
私は目を閉じ、黙っていた。
――維摩の沈黙、百雷の如し。
「「信じること……」」と、伯父とアンナが言ったが、伯父とアンナの言う意味は、まったく異なる。
アンナには、よくわからなかったということだ。
「エルメンヒルデとやら。『この街で救われた』と言ったが、間違いないのだな。ヴィルに救われたと?」
「はい。公爵様。間違いございません」
すると、そこに扉がノックされた。
返事などする間もなく、海賊団が入ってきた。
「公爵様、失礼します。ご無礼は承知です。私たちにも代弁をさせてください」
「わ、私は、不貞の罪で村を追い出されました。行き場のない私を救ってくれたのは船長です」
イライザ、言いにくいことを、わざわざ言わなくても……
次々に代弁をしてくれた。
「故郷にない、見たことのない花を見に行く約束を船長としたから、私は信じてついて行きます」とはローズマリー。
「世界中の武器と言う武器を手にしてみたい。銃があるから撃ってみたい。大砲があるから撃ってみたい。そんなことは故郷では出来ません。そんな想いをかなえてくれる人は、我が船長以外に考えられないのです」とは、ヤスミン。
他の団員も代弁をしてくれた。
そして、海賊団の代弁が終わる頃、私は閉じた眼を開くことが出来なくなっていた。
目を開けると、こぼれてしまいそうだったからだ。
「エマリーさん、貴女方、お二人は、何故、船に乗り込んだのかね」
伯父も、アインホルンの血統には敬意を払ってか、エマリーには“さん”付けだった。
「ええぇ、彼女といると儲かると思ったからですわ。公爵様」
「はい、お金儲けでございます」と、エマリーとイリーゼの従姉妹二人が返答し、場が白けてしまった。
伯父をはじめ、数人が咳払いをした。私もした。
「信じること。団員を信じ、前に進むこと。船長の役目は団員を飢えさせず、かつ、幸福にすることが役目です。
伯父上は、『いずれ領主になる身』と私のことを仰いましたが、この100人を幸福に出来ずに領主となれましょうか?」
そう、我が父の領地は、本家の伯父の領地と違い、ライン川がある眺めだけは抜群だが、プファルツ選帝侯(ライン宮中伯)の領地を間借りをしているような、ここプロイセン公国と比べると、実に小さい領地だ。
そして、我が家には兄弟がおらず、私が後を継ぐしかない。
「ヴィル、貴女は……」とアンナが驚いている。
「伯父上も領民を信じているはず、領民を飢えさせず、幸福にしたいはず。ですが、先日の様なつまらない噂など流す貴族と付き合うことは、領地・領民のためにならないはず」
「……」
「伯父上は、王となるべきです。王となり帝国と距離を取るべきです。そう、プロイセン王国を作るべきかと」
驚いているのはアンナだ。
しかし、伯父は、先ほどの私と同じだ、維摩の一黙!
この部屋に雷が走ったような沈黙だった。
しばしの時間が経過し、伯父が口を開いた。
「まあ、その件は……そう言えば、他の者はどうした?」
パーティー会場から、海賊団の100人が移動するとなると、警備とか、来客とか、いろいろ問題があるはずなのだが、自由に動き回って、ここまで来ていることに、伯父は疑問を覚えたようだ。
実は、エマリーが振舞ったラム酒は、口当たりの良い“シルバー(ホワイト)”を配り、あるいはアルコール度数の低いカクテルにして飲ませ、感覚がマヒしたころには、アンバーやヘビーなどのアルコール度数の高いラム酒を配らせておいた。
つまりだ。諸君たちも経験があるだろう?
強い酒は酔わないみたいなことが!
そして、立ち上がったら、急に足腰が言うことを効かないで、千鳥足になる。
これは、アルコール度数の高い蒸留酒の特徴なのだ。
じわじわ酔うのでなく、突如、やって来る。
だから、パーティー会場から、ここまでで立っているのは、数人だ。
そして、伯父も飲まされたのだから……
「お、お父様!」
公爵邸を見渡すと、これはイカン!
泥棒が来ても、誰も警備が出来そうにない。
「エマリー、そんなに、あのラム酒が美味かったのか?」
「特注品よ。ミーナ」
しばらく、我らが公爵邸の警備をしてやろう。残ったラム酒を飲みながら!
ふふふ。
※※※
海賊といえばラム酒。
この安くてモリモリ飲めるラム酒は、蜂蜜割りをオススメするぞ!
ラム酒をグラスに注いで、ハチミツを入れる。よくかき混ぜてから、ソーダを入れる。間違っても、ソーダにハチミツを入れて、かき混ぜないように!
これで、海賊気分を味わってくれ!
エルメンヒルデは語り出した。
「我が船長は、嘗て、この街で、私を救ってくれました。母が死に、父とはぐれ、祖父母に家を追い出された私を保護してくれました。
そう、この街でです。
私は、船長を実の姉のように慕っています。
その船長が、“赤い真珠”だろうが、貝殻一枚だろうが……
例え、砂粒ひとつだろうが、心から欲しいというなら、この身を差し出しても手に入れてきます。
それが信じるということなのです」
その時、イリーゼ・アインホルンが大きく頷いた。
私は目を閉じ、黙っていた。
――維摩の沈黙、百雷の如し。
「「信じること……」」と、伯父とアンナが言ったが、伯父とアンナの言う意味は、まったく異なる。
アンナには、よくわからなかったということだ。
「エルメンヒルデとやら。『この街で救われた』と言ったが、間違いないのだな。ヴィルに救われたと?」
「はい。公爵様。間違いございません」
すると、そこに扉がノックされた。
返事などする間もなく、海賊団が入ってきた。
「公爵様、失礼します。ご無礼は承知です。私たちにも代弁をさせてください」
「わ、私は、不貞の罪で村を追い出されました。行き場のない私を救ってくれたのは船長です」
イライザ、言いにくいことを、わざわざ言わなくても……
次々に代弁をしてくれた。
「故郷にない、見たことのない花を見に行く約束を船長としたから、私は信じてついて行きます」とはローズマリー。
「世界中の武器と言う武器を手にしてみたい。銃があるから撃ってみたい。大砲があるから撃ってみたい。そんなことは故郷では出来ません。そんな想いをかなえてくれる人は、我が船長以外に考えられないのです」とは、ヤスミン。
他の団員も代弁をしてくれた。
そして、海賊団の代弁が終わる頃、私は閉じた眼を開くことが出来なくなっていた。
目を開けると、こぼれてしまいそうだったからだ。
「エマリーさん、貴女方、お二人は、何故、船に乗り込んだのかね」
伯父も、アインホルンの血統には敬意を払ってか、エマリーには“さん”付けだった。
「ええぇ、彼女といると儲かると思ったからですわ。公爵様」
「はい、お金儲けでございます」と、エマリーとイリーゼの従姉妹二人が返答し、場が白けてしまった。
伯父をはじめ、数人が咳払いをした。私もした。
「信じること。団員を信じ、前に進むこと。船長の役目は団員を飢えさせず、かつ、幸福にすることが役目です。
伯父上は、『いずれ領主になる身』と私のことを仰いましたが、この100人を幸福に出来ずに領主となれましょうか?」
そう、我が父の領地は、本家の伯父の領地と違い、ライン川がある眺めだけは抜群だが、プファルツ選帝侯(ライン宮中伯)の領地を間借りをしているような、ここプロイセン公国と比べると、実に小さい領地だ。
そして、我が家には兄弟がおらず、私が後を継ぐしかない。
「ヴィル、貴女は……」とアンナが驚いている。
「伯父上も領民を信じているはず、領民を飢えさせず、幸福にしたいはず。ですが、先日の様なつまらない噂など流す貴族と付き合うことは、領地・領民のためにならないはず」
「……」
「伯父上は、王となるべきです。王となり帝国と距離を取るべきです。そう、プロイセン王国を作るべきかと」
驚いているのはアンナだ。
しかし、伯父は、先ほどの私と同じだ、維摩の一黙!
この部屋に雷が走ったような沈黙だった。
しばしの時間が経過し、伯父が口を開いた。
「まあ、その件は……そう言えば、他の者はどうした?」
パーティー会場から、海賊団の100人が移動するとなると、警備とか、来客とか、いろいろ問題があるはずなのだが、自由に動き回って、ここまで来ていることに、伯父は疑問を覚えたようだ。
実は、エマリーが振舞ったラム酒は、口当たりの良い“シルバー(ホワイト)”を配り、あるいはアルコール度数の低いカクテルにして飲ませ、感覚がマヒしたころには、アンバーやヘビーなどのアルコール度数の高いラム酒を配らせておいた。
つまりだ。諸君たちも経験があるだろう?
強い酒は酔わないみたいなことが!
そして、立ち上がったら、急に足腰が言うことを効かないで、千鳥足になる。
これは、アルコール度数の高い蒸留酒の特徴なのだ。
じわじわ酔うのでなく、突如、やって来る。
だから、パーティー会場から、ここまでで立っているのは、数人だ。
そして、伯父も飲まされたのだから……
「お、お父様!」
公爵邸を見渡すと、これはイカン!
泥棒が来ても、誰も警備が出来そうにない。
「エマリー、そんなに、あのラム酒が美味かったのか?」
「特注品よ。ミーナ」
しばらく、我らが公爵邸の警備をしてやろう。残ったラム酒を飲みながら!
ふふふ。
※※※
海賊といえばラム酒。
この安くてモリモリ飲めるラム酒は、蜂蜜割りをオススメするぞ!
ラム酒をグラスに注いで、ハチミツを入れる。よくかき混ぜてから、ソーダを入れる。間違っても、ソーダにハチミツを入れて、かき混ぜないように!
これで、海賊気分を味わってくれ!
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