25 / 25
3.バルト海を並び行く幽霊たち
3-21.青空の下に白い帆を掲げよう
しおりを挟む
3-21.青空の下に白い帆を掲げよう
私たちは、ケーニヒスベルクから出港することになった。
アムステルダム経由でドーバー港に帰る。
ドーバー港は、私たちが本拠地にしており、行きつけのドックや武器屋があるので、修理や補給も、ここで行っている。
まあ、エマリーの実家のアインス商会の紹介なので、腕は確かだが、なんか、エマリーの懐に……
詮索はよそう。
さて、突堤では来た時とは違い、大勢の人が突堤に集まっていた。
この日は、珍しく霧も止んでいた。
突堤付近は、“ジャンジャカシャンッ!”と、音楽が鳴り響いており、賑やかな雰囲気が出来ていた。
しかし、残念なことに、幽霊船は捕獲したが、黒幕はわからなかったのだ。
おそらく、黒幕はドイツ貴族社会に深く関与しており、妙な噂を流したりと、情報をコントロールしてきたのだから、他の貴族の諜報関係者かもしれない。
となると、近いうち内乱か戦争が起こるだろうな。
「ヴィル、行くのね」
「うん、行くよ。仲間が待っているからね」
そう、100人の仲間が、私を待っている。
談笑し、酒を酌み交わすことのできる仲間が。
厚い信頼を寄せることが出来る仲間が。
しかし、アンナは、何か寂しそうであった。
おそらく、彼女には海賊や私掠船業をしている私の考えていることが、分からないということだろう。
同じように貴族社会で育った従姉妹が……
「伯父上……」
「あぁ、ヴィル。今回は、世話になったね。領民もこの騒ぎだ」
「いえ、クライネスがお世話になったみたいで」
「ふふ。あの娘は、また連れておいで」
「はい」
クライネスは伯父に気に入られたようだ。
船員は、この間も出港準備に取り掛かっている。
「お頭ぁ、いつでも出航できます」と、甲板から声が聞えた。
とは言うものの、閣下たちは、皆、ファンサービスで忙しいので、私は、甲板員に向け、「少し待て!」という仕草をした。
甲板員も納得したようだ。
この騒ぎの中、出港したら、恨まれるでしょうよ。
ローズマリーとヤスミンの宝塚コンビは、多くの女性に囲まれていた。
この時代、紫の染め粉が無いというのに、ローズマリーは花を絞り、ブラウスをほんのり紫に染めている。
ヤスミンは、基本的に白と黒のゴッシクが多い。
黒いズボンに白いブラウス、そこに黄色のリボンを首にしている。
まさにローズマリーとヤスミン(ジャスミン)と言う感じだ。
イリーゼとエルメンヒルデの百合コンビは、まず、イリーゼの基本色は白だ。
白のワンピースのスカートを左の腰で結んで、ドロワーズが見えるようにしている。腰は皮のベルトを巻き、前腕から手の甲には皮鎧をしている。
ドロワーズを見せつけているあたり、若いなと思う。
エルメンヒルデは、緑のワンピースのスカートを右の腰で結んでいる。つまり、イリーゼと左右反対にしているのは、左利きだからなのか?
まあ、同い年だけあって、まったく、仲が良いわ!
青い副船長服を着たエマリーが、イライザを伴い、タラップを“のっしのっし”と上がって行くのが見えた。
それを見たローズマリーとヤスミンが続いて、タラップを上がって行く。
続いてイリーゼとエルメンヒルデが私のもとにかけてきた。
二人とも護衛隊長と副隊長の顔に戻っていたので、私はそれを見て、一つ頷いた。
「では、伯父上、アンナ。黒幕に気を付けてください。行ってまいります」と言うと、伯父は頷き、アンナは下を向いた。
私は、赤い船長服の襟を正すと、領民に手を振りながら、タラップに向かった。
「お父様、海賊の船長が騎士のソードを腰に差していますわ」
「う~ん、海賊なのか? 騎士なのか? あの子らしいな」
突堤から、出港の鐘が盛大に鳴る。
“カ~ン、カ~ン、カ~ン”と、何度も繰り返されている。
「よし、Zukunft号、出港だ。錨を上げろ」
ギィィーー!
「進路をアムステルダムに取れ!」
青空の下に白い帆を張り、カモメやイルカの群れと共に、バルト海をデンマークのコペンハーゲンを通り、アムステルダムに向かう。
やがて、陽が西に沈み、夜が来る。
陽が西に沈むのは、また、明日、東から登るという、人々との約束。
この日も、太陽は大西洋の遥か西に沈んで行った。
明日と言う日が、どんな日になるかは、誰も分からない。
しかし、必ずやって来る。
それが、最後の一日になるかもしれない。
しかし、まだ、私には最後の審判を受けるには、まだまだ、何もかもが足らなすぎる。
覚悟も、なすべきことも。
私は、これからも、この白いガレオン船と共に旅を続けるつもりだ。
何故なら、薔薇色の真珠は、まだ見つけていないのだから。
第一部 完
その頃、フェロル大西洋方面基地では。
「ダニエル大佐、新しい提督が到着されました」
ダニエルは、新しい提督を迎えに港まで行くと、ガレオン船から新提督が降りてきた。
「ガレオン船が、こんなにも。これなら海賊も壊滅出来る」
さて、クレマンティーヌを追いかけて行った黒船海賊団は、どうなったのか?
クレマンティーヌの正体は?
第二部に続く。
実は、『虫めずる姫君』。
私たちは、ケーニヒスベルクから出港することになった。
アムステルダム経由でドーバー港に帰る。
ドーバー港は、私たちが本拠地にしており、行きつけのドックや武器屋があるので、修理や補給も、ここで行っている。
まあ、エマリーの実家のアインス商会の紹介なので、腕は確かだが、なんか、エマリーの懐に……
詮索はよそう。
さて、突堤では来た時とは違い、大勢の人が突堤に集まっていた。
この日は、珍しく霧も止んでいた。
突堤付近は、“ジャンジャカシャンッ!”と、音楽が鳴り響いており、賑やかな雰囲気が出来ていた。
しかし、残念なことに、幽霊船は捕獲したが、黒幕はわからなかったのだ。
おそらく、黒幕はドイツ貴族社会に深く関与しており、妙な噂を流したりと、情報をコントロールしてきたのだから、他の貴族の諜報関係者かもしれない。
となると、近いうち内乱か戦争が起こるだろうな。
「ヴィル、行くのね」
「うん、行くよ。仲間が待っているからね」
そう、100人の仲間が、私を待っている。
談笑し、酒を酌み交わすことのできる仲間が。
厚い信頼を寄せることが出来る仲間が。
しかし、アンナは、何か寂しそうであった。
おそらく、彼女には海賊や私掠船業をしている私の考えていることが、分からないということだろう。
同じように貴族社会で育った従姉妹が……
「伯父上……」
「あぁ、ヴィル。今回は、世話になったね。領民もこの騒ぎだ」
「いえ、クライネスがお世話になったみたいで」
「ふふ。あの娘は、また連れておいで」
「はい」
クライネスは伯父に気に入られたようだ。
船員は、この間も出港準備に取り掛かっている。
「お頭ぁ、いつでも出航できます」と、甲板から声が聞えた。
とは言うものの、閣下たちは、皆、ファンサービスで忙しいので、私は、甲板員に向け、「少し待て!」という仕草をした。
甲板員も納得したようだ。
この騒ぎの中、出港したら、恨まれるでしょうよ。
ローズマリーとヤスミンの宝塚コンビは、多くの女性に囲まれていた。
この時代、紫の染め粉が無いというのに、ローズマリーは花を絞り、ブラウスをほんのり紫に染めている。
ヤスミンは、基本的に白と黒のゴッシクが多い。
黒いズボンに白いブラウス、そこに黄色のリボンを首にしている。
まさにローズマリーとヤスミン(ジャスミン)と言う感じだ。
イリーゼとエルメンヒルデの百合コンビは、まず、イリーゼの基本色は白だ。
白のワンピースのスカートを左の腰で結んで、ドロワーズが見えるようにしている。腰は皮のベルトを巻き、前腕から手の甲には皮鎧をしている。
ドロワーズを見せつけているあたり、若いなと思う。
エルメンヒルデは、緑のワンピースのスカートを右の腰で結んでいる。つまり、イリーゼと左右反対にしているのは、左利きだからなのか?
まあ、同い年だけあって、まったく、仲が良いわ!
青い副船長服を着たエマリーが、イライザを伴い、タラップを“のっしのっし”と上がって行くのが見えた。
それを見たローズマリーとヤスミンが続いて、タラップを上がって行く。
続いてイリーゼとエルメンヒルデが私のもとにかけてきた。
二人とも護衛隊長と副隊長の顔に戻っていたので、私はそれを見て、一つ頷いた。
「では、伯父上、アンナ。黒幕に気を付けてください。行ってまいります」と言うと、伯父は頷き、アンナは下を向いた。
私は、赤い船長服の襟を正すと、領民に手を振りながら、タラップに向かった。
「お父様、海賊の船長が騎士のソードを腰に差していますわ」
「う~ん、海賊なのか? 騎士なのか? あの子らしいな」
突堤から、出港の鐘が盛大に鳴る。
“カ~ン、カ~ン、カ~ン”と、何度も繰り返されている。
「よし、Zukunft号、出港だ。錨を上げろ」
ギィィーー!
「進路をアムステルダムに取れ!」
青空の下に白い帆を張り、カモメやイルカの群れと共に、バルト海をデンマークのコペンハーゲンを通り、アムステルダムに向かう。
やがて、陽が西に沈み、夜が来る。
陽が西に沈むのは、また、明日、東から登るという、人々との約束。
この日も、太陽は大西洋の遥か西に沈んで行った。
明日と言う日が、どんな日になるかは、誰も分からない。
しかし、必ずやって来る。
それが、最後の一日になるかもしれない。
しかし、まだ、私には最後の審判を受けるには、まだまだ、何もかもが足らなすぎる。
覚悟も、なすべきことも。
私は、これからも、この白いガレオン船と共に旅を続けるつもりだ。
何故なら、薔薇色の真珠は、まだ見つけていないのだから。
第一部 完
その頃、フェロル大西洋方面基地では。
「ダニエル大佐、新しい提督が到着されました」
ダニエルは、新しい提督を迎えに港まで行くと、ガレオン船から新提督が降りてきた。
「ガレオン船が、こんなにも。これなら海賊も壊滅出来る」
さて、クレマンティーヌを追いかけて行った黒船海賊団は、どうなったのか?
クレマンティーヌの正体は?
第二部に続く。
実は、『虫めずる姫君』。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる