握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

文字の大きさ
98 / 126
第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成

5-26.我が名はローレライ

しおりを挟む

 私たちは、クレア島に戻った。
 私は赤で、エマリーは青の船長服を着ての帰還だ。
「おぉ、何か着る服が変わると気分もかわるねぇ」
 とは言え、もう海賊としての仕事は終わった。いや、私掠船か?
 なので、船長服は着ておく必要はないのだけれど、何というか、この服がカッコ良いので、自分までカッコよくなった気分になれる。

 そんな心地よさを味わっていたら、グラーニャからは笑われた。
「まだまだ、若いねぇ」と。
 さらに、「それが似合うようになるには、もう少し経験が必要か?」とも。

 さて、クレア島に戻ったヤスミンは、早速、直接製鉄が行える鍛冶場を作っていた。
 ここで、刀を鍛えるのだという。
 私の剣も作ってくれるらしい。
 船の上の戦闘にはロングソードは向いていない。もっと接近戦を意識した剣でないといけないと思う。

 しかし、あのカットラスという海賊刀は、好きになれない。
 あの湾曲が刺突に使えないからだ。
 だが、カットラスが湾曲しているのには理由がある。それは、狭い船内での戦闘では、振り回すのでなく、斬りつける。
 だから、切れ味が良くなくてはいけない。
 まっすぐの刃物より、湾曲している方がよく切れるのだ。

 カットラスとは切るための武器であり、叩きつける剣とは違う。
 しかし、私としては刺突は得意なので、やはり剣が良い。

“怒りの攻撃”のように袈裟斬りなどは、船内では屋根が低いため使えない。
 となると、剣術が使えるのは甲板までになるのだろうか?

 そして出来上がった武器を見せてもらうと、短剣と65センチ程度の剣が出来たようだ。
「今の剣とこれを併用すれば、『どんな場所でも対応できるのでは』と、思いました」とヤスミンの説明を受けた。
 早速、振ってみよう。

 確かに、短いため物足りない。
 しかし、軽いため片手でも振れる。
 これは使い方次第と思うわ!

 でも、私掠船稼業は終わったのだけれども。

***

「ご領主様、このガレオン船の名前は、如何なされますか」
 しばらく、フォルカーは考えた。
「やはり、ライン川の象徴である『ローレライ』以外に思いつかない。『ローレライ』では、どうだろうか?」と、やや自信なさげに言った。
 本人としては、もっとカッコ良い名前を言いたかったのだろう。しかし、思いつかなかったのか、思いついても口に出せなかったのだろうか?

「ええ、それで良いと思います。では、船主の女神像は、ギリシャ神話からローレライにいたします」と、ゲルハルト会長が言ったのだが、横で聞いていたアインス商会の従業員は、ドギマギしていた。
 何故なら、ローレライは、座礁や沈没させる女神様だからだ。※1

 そして、完成したローレライ号の処女航海は、岩に突っ込み、いきなりの座礁であった。

 しかもこの時、自信にあふれたゲルハルト会長が、エマリーが作った孤児院の子どもたちを招待したものだから、船内は子供たちの泣き声であふれてしまった。
「わんわん」と泣く子どもたち、その中に、「クッキーィ!」と泣く少女が誰だかは、皆さんご存じの通り。


※1 ハイネの詩が有名だが、ハイネは18世紀の人物。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クロワッサン物語

コダーマ
歴史・時代
 1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。  第二次ウィーン包囲である。  戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。  彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。  敵の数は三十万。  戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。  ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。  内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。  彼らをウィーンの切り札とするのだ。  戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。  そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。  オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。  そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。  もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。  戦闘、策略、裏切り、絶望──。  シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。  第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...