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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成
5-26.我が名はローレライ
しおりを挟む私たちは、クレア島に戻った。
私は赤で、エマリーは青の船長服を着ての帰還だ。
「おぉ、何か着る服が変わると気分もかわるねぇ」
とは言え、もう海賊としての仕事は終わった。いや、私掠船か?
なので、船長服は着ておく必要はないのだけれど、何というか、この服がカッコ良いので、自分までカッコよくなった気分になれる。
そんな心地よさを味わっていたら、グラーニャからは笑われた。
「まだまだ、若いねぇ」と。
さらに、「それが似合うようになるには、もう少し経験が必要か?」とも。
さて、クレア島に戻ったヤスミンは、早速、直接製鉄が行える鍛冶場を作っていた。
ここで、刀を鍛えるのだという。
私の剣も作ってくれるらしい。
船の上の戦闘にはロングソードは向いていない。もっと接近戦を意識した剣でないといけないと思う。
しかし、あのカットラスという海賊刀は、好きになれない。
あの湾曲が刺突に使えないからだ。
だが、カットラスが湾曲しているのには理由がある。それは、狭い船内での戦闘では、振り回すのでなく、斬りつける。
だから、切れ味が良くなくてはいけない。
まっすぐの刃物より、湾曲している方がよく切れるのだ。
カットラスとは切るための武器であり、叩きつける剣とは違う。
しかし、私としては刺突は得意なので、やはり剣が良い。
“怒りの攻撃”のように袈裟斬りなどは、船内では屋根が低いため使えない。
となると、剣術が使えるのは甲板までになるのだろうか?
そして出来上がった武器を見せてもらうと、短剣と65センチ程度の剣が出来たようだ。
「今の剣とこれを併用すれば、『どんな場所でも対応できるのでは』と、思いました」とヤスミンの説明を受けた。
早速、振ってみよう。
確かに、短いため物足りない。
しかし、軽いため片手でも振れる。
これは使い方次第と思うわ!
でも、私掠船稼業は終わったのだけれども。
***
「ご領主様、このガレオン船の名前は、如何なされますか」
しばらく、フォルカーは考えた。
「やはり、ライン川の象徴である『ローレライ』以外に思いつかない。『ローレライ』では、どうだろうか?」と、やや自信なさげに言った。
本人としては、もっとカッコ良い名前を言いたかったのだろう。しかし、思いつかなかったのか、思いついても口に出せなかったのだろうか?
「ええ、それで良いと思います。では、船主の女神像は、ギリシャ神話からローレライにいたします」と、ゲルハルト会長が言ったのだが、横で聞いていたアインス商会の従業員は、ドギマギしていた。
何故なら、ローレライは、座礁や沈没させる女神様だからだ。※1
そして、完成したローレライ号の処女航海は、岩に突っ込み、いきなりの座礁であった。
しかもこの時、自信にあふれたゲルハルト会長が、エマリーが作った孤児院の子どもたちを招待したものだから、船内は子供たちの泣き声であふれてしまった。
「わんわん」と泣く子どもたち、その中に、「クッキーィ!」と泣く少女が誰だかは、皆さんご存じの通り。
※1 ハイネの詩が有名だが、ハイネは18世紀の人物。
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