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K県K市(1980.9)ー大木刀祢・前編
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「キャーッ!」
夕方、薄暗い時間帯。鉄筋の校舎に女生徒の悲鳴がこだまする。恐怖に大きく見開かれた目に映るのは、人影だった。だが、薄暗闇の中で浮かび上がるそれは、右側は人に見えるものの、左側は違っていた。皮膚を剥がれたかのように見える それは、人間では無く、人体模型だった。ジリジリと接近する人体模型のグロテスクさに女生徒は失神し、壁沿いにズルズルと崩れ落ち、床の上に倒れ込んだ。人体模型は彼女から制服を剥ぐと、それを纏い、闇の中に消えて行った。
翌朝。
その少年は、長髪で木刀を肩掛けしていたーーーと、体育教師・田中幸大は後に証言している。
1980年10月の初めだった。体育祭は終わり、中間テストを控えた静かな早朝ーーまだ中学校に文化祭は無かったーー、その少年は転校してきた。
「キミ、待ちなさい!」
ジャージ姿の田中は、竹刀片手に呼び止めた。
「何でしょうか?」
正門に入るなり振り返った少年は、涼やかな声を出した。
「う…」
田中は声を詰まらせた。どう見ても普通の生徒である。頭髪も来ていないの長さだし、右手には通学鞄、左手には何も持っていない。
「転校生かね?」
咄嗟に田中は そう言いつくろった。見慣れない生徒である事には間違いなかったからだ。
「はい、一年生の大木と申します」
少年は名乗り、頭を下げた。礼儀も正しい。昨今のナメ猫ブーム等には毒されていないようだ。
「そうか。しかし、始業時間は まだ先だぞ」
「はい、下見を兼ねてます。性分ですので」
そう言うと再び一礼し、少年は校舎へ進んだ。
「しかし…確かに見えたんだが?」
田中は彼の後ろ姿に首を捻った。
校舎の裏に、小さな池が有った。アマガエルが一匹、スイッと池に飛び込むのが見える。大木の姿に警戒したのだろうか?
「フフ、古池や、カワズ飛び込む 水の音、か」
彼は微笑し、歩き去った。その先に有るのはニワトリ小屋である。女生徒が一人、しゃがんでいるのが見えた。エサを与えているのだろうか?
「三田三重子だな?」
大木は やや離れた位置で声をかけた。女生徒の背中に。
それに応じて立ち上がった彼女は、彼に向き直り、正対した。髪は三つ編みにしており、後ろから1本にまとめている、ツインテールではなく。その先端は肩甲骨の下側の所にあった。そしてメガネは掛けていない。
「幻の転校生、三田三重子。活動記録はなく、一部の生徒が語り継ぐのみ、か」
大木は女生徒の目を正面から見つめ返した。
「名うてのゴーストハンターとして昭和30年代から活動していると言う噂…」
「あなたは?」
女生徒が尋ねた。
「僕は大木刀祢(おおき・とうや)。キミのライバル、と言ったところかな?」
微笑みを残し去る彼の後ろ姿に、彼女も見た。長髪と木刀を。それは沖田総司を髣髴とさせる。
「転校生を紹介する」
一限目の前の お決まりの儀式を終え、大木はクラスに入った。1年B組である。大人びた佇まいと整った容姿が一部の女生徒の気を引いたようだが、慣れているのか彼は意にも介さない。
退屈な時間はノロノロと流れ、昼休みに図書室で校史を調べた彼は、放課後、新聞部に向かった。
「うん、確かに そうだよ。大きい声じゃ言えないけどね」
新聞部の部長は、愉快で堪らない、と言った顔をしていた。それはそうだろう、ゴシップで新聞の人気はうなぎ上りになっていたからだ。もちろん金銭は絡まないし、発行部数も変わらないが、承認欲求は満たされる。もちろん、この時代にインターネットやSNS等は無い。
「今まで襲われた女生徒は5名、いずれも翌日に人体模型が彼女たちのセーラー服を着て発見されている」
「時刻や場所は?」
大木の質問に、部長は資料を取り出した。
「ええと、時間は圧倒的に夕方以降だね。場所は理科準備室と理科室、それにその周辺の廊下」
「ありがとうございます」
大木は一礼し部室を去った。それを、廊下の隅で見ている者がいた。三田である。
大木が次に現れたのは、プールの脇だった。水泳部員のタイムを計る声が聞こえてくる。彼が探しているのは、目立たない、小さな物だった。小規模な祠、いや記念碑とでも呼ぶべきだろうか?
屈みこみ、書かれた文字をメモしていると、背後でジャリッ、と音がした。振り返った彼の眼には、三田が映っている。
「それに気づいたのね」
一部が欠損した記念碑を指し、彼女は言った。
「どうするつもり?」
彼女の問いに彼は答えず、そのまま無言で立ち上がり、去った。彼女はそのまま碑を見つめていた。じっと。日は既に傾き始めている、
夕方、薄暗い時間帯。鉄筋の校舎に女生徒の悲鳴がこだまする。恐怖に大きく見開かれた目に映るのは、人影だった。だが、薄暗闇の中で浮かび上がるそれは、右側は人に見えるものの、左側は違っていた。皮膚を剥がれたかのように見える それは、人間では無く、人体模型だった。ジリジリと接近する人体模型のグロテスクさに女生徒は失神し、壁沿いにズルズルと崩れ落ち、床の上に倒れ込んだ。人体模型は彼女から制服を剥ぐと、それを纏い、闇の中に消えて行った。
翌朝。
その少年は、長髪で木刀を肩掛けしていたーーーと、体育教師・田中幸大は後に証言している。
1980年10月の初めだった。体育祭は終わり、中間テストを控えた静かな早朝ーーまだ中学校に文化祭は無かったーー、その少年は転校してきた。
「キミ、待ちなさい!」
ジャージ姿の田中は、竹刀片手に呼び止めた。
「何でしょうか?」
正門に入るなり振り返った少年は、涼やかな声を出した。
「う…」
田中は声を詰まらせた。どう見ても普通の生徒である。頭髪も来ていないの長さだし、右手には通学鞄、左手には何も持っていない。
「転校生かね?」
咄嗟に田中は そう言いつくろった。見慣れない生徒である事には間違いなかったからだ。
「はい、一年生の大木と申します」
少年は名乗り、頭を下げた。礼儀も正しい。昨今のナメ猫ブーム等には毒されていないようだ。
「そうか。しかし、始業時間は まだ先だぞ」
「はい、下見を兼ねてます。性分ですので」
そう言うと再び一礼し、少年は校舎へ進んだ。
「しかし…確かに見えたんだが?」
田中は彼の後ろ姿に首を捻った。
校舎の裏に、小さな池が有った。アマガエルが一匹、スイッと池に飛び込むのが見える。大木の姿に警戒したのだろうか?
「フフ、古池や、カワズ飛び込む 水の音、か」
彼は微笑し、歩き去った。その先に有るのはニワトリ小屋である。女生徒が一人、しゃがんでいるのが見えた。エサを与えているのだろうか?
「三田三重子だな?」
大木は やや離れた位置で声をかけた。女生徒の背中に。
それに応じて立ち上がった彼女は、彼に向き直り、正対した。髪は三つ編みにしており、後ろから1本にまとめている、ツインテールではなく。その先端は肩甲骨の下側の所にあった。そしてメガネは掛けていない。
「幻の転校生、三田三重子。活動記録はなく、一部の生徒が語り継ぐのみ、か」
大木は女生徒の目を正面から見つめ返した。
「名うてのゴーストハンターとして昭和30年代から活動していると言う噂…」
「あなたは?」
女生徒が尋ねた。
「僕は大木刀祢(おおき・とうや)。キミのライバル、と言ったところかな?」
微笑みを残し去る彼の後ろ姿に、彼女も見た。長髪と木刀を。それは沖田総司を髣髴とさせる。
「転校生を紹介する」
一限目の前の お決まりの儀式を終え、大木はクラスに入った。1年B組である。大人びた佇まいと整った容姿が一部の女生徒の気を引いたようだが、慣れているのか彼は意にも介さない。
退屈な時間はノロノロと流れ、昼休みに図書室で校史を調べた彼は、放課後、新聞部に向かった。
「うん、確かに そうだよ。大きい声じゃ言えないけどね」
新聞部の部長は、愉快で堪らない、と言った顔をしていた。それはそうだろう、ゴシップで新聞の人気はうなぎ上りになっていたからだ。もちろん金銭は絡まないし、発行部数も変わらないが、承認欲求は満たされる。もちろん、この時代にインターネットやSNS等は無い。
「今まで襲われた女生徒は5名、いずれも翌日に人体模型が彼女たちのセーラー服を着て発見されている」
「時刻や場所は?」
大木の質問に、部長は資料を取り出した。
「ええと、時間は圧倒的に夕方以降だね。場所は理科準備室と理科室、それにその周辺の廊下」
「ありがとうございます」
大木は一礼し部室を去った。それを、廊下の隅で見ている者がいた。三田である。
大木が次に現れたのは、プールの脇だった。水泳部員のタイムを計る声が聞こえてくる。彼が探しているのは、目立たない、小さな物だった。小規模な祠、いや記念碑とでも呼ぶべきだろうか?
屈みこみ、書かれた文字をメモしていると、背後でジャリッ、と音がした。振り返った彼の眼には、三田が映っている。
「それに気づいたのね」
一部が欠損した記念碑を指し、彼女は言った。
「どうするつもり?」
彼女の問いに彼は答えず、そのまま無言で立ち上がり、去った。彼女はそのまま碑を見つめていた。じっと。日は既に傾き始めている、
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