【完結】天才魔導師は二度目の恋を知る

樹結理(きゆり)

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第25話 正装

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「ア、アシェルト様、おはようございます……今日はお早いですね……」

 いつもならまだ机に突っ伏して眠っている時間だ。必死に気配を殺して頑張ったのに! そう心のなかで悔しく思うが、顔には出さない。

 寝惚けていたアシェルト様は私の格好をじっと見詰めたかと思うと、なにやら嫌そうな顔となった。

「その服、どうしたの?」
「え、あ、も、元々持っていた服ですよ?」

 しどろもどろになるが、ノアから贈ってもらった、とはなんとなく言えなかった。男性から贈られたドレスだと言ったところで、アシェルト様は興味などないだろうに。そう思ったが、しかし、なぜか言いたくはなかった。言って無関心な反応をされるのも嫌だった。めんどくさいな、私。

「本当に?」
「え? ほ、ほ、本当ですよ……」

 予想外にやたらとしつこく聞いてくるアシェルト様にたじろぎつつ、早く行かないと時間が、と焦る。しかもこれ以上ここにいるとソルファス侯爵家へ向かうことまでもがバレてしまいそうだ。

「あ、あの、私、もう行きますね! 朝食と昼食はテーブルに用意してありますから!」
「そんな格好をしてどこに行くの?」

 じとっととした目のまま、アシェルト様に問い詰められるが、答えられるはずがない。じりじりと後退り、後ろ手に扉のノブを持った。そしてガチャリと扉を開け放し、踵を返して走り出す。

「す、すみません! 急いでいるので、帰ったらまた説明しますー!!」

 そう叫びながら脱兎のごとく逃げ出したのだった……。ドレスで走るとかなにやってんのよ、という突っ込みは置いといて……。

 私を呼ぶアシェルト様の声が聞こえたが、止まる訳にも行かず、ドレスの裾をたくし上げ、慣れないヒールに苦戦しながらも、必死に走る……というか、精々速足程度だけれど……。

 ゼィゼィ言いながら、必死にノアとの待ち合わせ場所まで向かうと、私の姿を見付けたノアが笑顔で手を振っていた。

「ど、どうした?」

 荒い呼吸のままノアの元までたどり着くと、驚いたノアが私の顔を覗き込んで心配そうな顔をする。

「な、なんでも……」
「やっぱり家まで迎えに行ったほうが良かったんじゃ……」
「い、いやいや、大丈夫だから……馬車を家の前まで乗り付けたらアシェルト様にバレちゃうし……」

 ノアは待ち合わせをする際、家まで馬車で迎えに行くと言ってくれたのだが、さすがに馬車で乗り付けるとアシェルト様にバレる可能性が高かったし……結局見付かっちゃったんだけど……。

 ノアの実家であるジェストルド伯爵家の名で面会願いを出しているので、ジェストルド伯爵家から馬車を出してもらうことになったのだが、さすがにジェストルド伯爵家の屋敷で待ち合わせをする訳にも行かず、こうやって王都の離れた場所まで迎えに来てもらうことになったのだ。

 なんとか息を整え、服や髪が乱れていないか確認する。そうやってようやく息が落ち着いて来ると、ノアがほんのりと頬を赤くしながら、優し気な顔でこちらを見ていた。

「ノア? どうかした? あ、な、なんか私変なところある!?」

 慌てて来たせいでどこかおかしなことになっていないか焦る。あわあわと自身の格好を眺めていると、ノアが私の手を取った。

「いや、変なところなんてないよ。似合ってる。綺麗だ」

 ノアの顔を見上げると、嬉しそうな顔。なんだか熱が籠っていそうな目で真っ直ぐに見詰められ緊張してしまう。握られた手が熱く、親指でスリッと手の甲を撫でられビクリと身体が震えた。

「あ、ありがとう! このドレス、とても綺麗よね!」

 なにやらドキドキと心臓が跳ね、慌てて顔を伏せ俯いた。な、なんだか、ノアの視線がいつもと違うような……気のせい? お互いいつもと違う格好をしているから緊張しているだけよね……うん。

 チラリとノアを見ると、ノアも普段は魔導師団のローブ姿しか見ないのに、今日は正装をしているため、あまりの違いにドキリとする。
 黒を基調としたスーツではあるが、近くで見ないと分からないくらいの、濃紺で繊細な刺繍が施されてあり、とても質の良い生地と仕立てだということが分かる。
 髪型も普段なら洗いざらしといったラフな髪型だが、今日は前髪をきっちりと後ろへと撫でつけセットされてある。

「ノアもかっこいいね」

 普段ノアのことをかっこいいと思ったことはない。いや、ごめん。だってあまり異性として意識したことがないため、「かっこいい」とか容姿についてなんて考えたことがないのだ。でも、改めてじっくりとノアを見ると、おそらく女性にモテるだろう、ということは容易に想像がつくほど、ノアはイケメンなのね、ということが今はっきりと気付いた。

 そういえばと思い出す。魔導師団にいたとき、なにやら女子団員にやたら人気があったような……。私って気付くのが遅い?

 そんなことをグルグルと考えていると、ノアは少し目を見開き、驚いた顔をしたと思うと、顔を赤らめ反対側の手で顔を隠した。

「お前に初めて言われたな」
「え?」
「かっこいい、って」

 あまりに恥ずかしそうに言葉にされ、私の方まで顔が熱くなってきた! 改めて言われるとなんか恥ずかしい!

「え、そ、そうだっけ? 今まで言ったことなかったっけ?」
「そうだよ、言ってくれたことないぞ。もう一度言ってよ」
「えっ!?」

 改めて口にしろと言われても、意識するとなんか恥ずかしいのよ! 無理! と、あわあわしているとノアの背後から声がする。

「ノア様、急ぎませんとお時間が……」

 だ、誰の声!? と思ったけど、そうだ、馬車の御者さんがいる! ノアの背後をチラリと見ると、申し訳なさそうな顔をしながら御者さんが困っていた。ひぃぃ、さっきまでのやり取りの一部始終見られていたわけね!? あわあわと顔が火照るやら血の気が引くやら……と、しているとノアがなんだか残念そうに小さく溜め息を吐いた。

「そうだな、じゃあ行くか」

 ノアは少し背後に振り向き、御者らしき人に声を掛けると、再び私に視線を落とし、ほんのりとまだ頬を赤く染めたまま、はにかんだ。そして手を引き、馬車へとエスコートしてくれる。私はというと、変な緊張で冷や汗をかきながらも、ノアに手を引かれ、馬車へと乗り込んだのだった。

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