【完結】異世界で婚約者生活!冷徹王子の婚約者に入れ替わり人生をお願いされました

樹結理(きゆり)

文字の大きさ
87 / 136
本編 リディア編

第八十七話 すれ違う心!?

しおりを挟む
「フフ、ありがとうございます。みなさんも私のために集まっていただいて本当にありがとうございます」

 ぼろぼろと涙が零れてしまった。

「リ、リディ」

 驚いたシェスはあわあわと戸惑っている。皆も驚き一斉に周りに集まって来た。
 唯一ラニールさんだけは前泣いてしまったところを見られていただけあって、見慣れたのか落ち着いていた。

「落ち着け」

 そっと優しく撫でられ、ますます涙が溢れる。

「せっかくマニカが素敵にお化粧してくれたのに~」

 嬉しいのに、皆が優しくて嬉し過ぎて涙が止まらない。ぼろぼろぼろぼろと溢れ出る。

 泣いてるくせに化粧を気にするなんて、と皆驚き大笑いになった。

「アハハ! やっぱりリディはそうじゃないとな!」

 ルーが盛大に笑いながら肩に手を置きバシバシと叩く。痛いし。何か褒めてないし。

「どういう意味よぉ」

 泣きながら反論するとますます笑われた。うん、結局こうなるのね。
 皆が心配の顔から笑顔になり、これはこれでまあ良いか。

 シェスがハンカチを取り出し涙をそっと拭いてくれた。

「ありがとうございます、シェス」
「だ、大丈夫か? それは悲しい涙ではないのだな?」
「えぇ、フフ、ご心配おかけして申し訳ありません。みんなが大好き過ぎて嬉しくて」

 何故か微妙な顔のシェスだったが、悲しい訳ではないと分かったからか、安堵の表情になった。

「ありがとうございます、シェス。こんな素敵なお祝いを」
「あぁ」

 シェスは片手を差し出し、私の手を取った。控えの間の中央までエスコートしてくれる。
 部屋の中央には様々な料理やデザートが並んでいた。

「ラニールさんとこの前話していたのは、この日のことだったのですね」
「あ、あぁ、すまない、皆に内緒にしてもらっていた」

「リディアを喜ばせるためだ」

 ラニールさんが再び頭を撫でながら、シェスの言葉に付け足すように言った。

「えぇ、分かっています、ありがとうございます。私は何て幸せものなのでしょう」

 心からそう思った。


 そして皆乾杯をし、立食で食事を楽しみつつ、皆がお祝いの声を掛けてくれる。
 周りでは楽団が様々な曲を演奏してくれていた。

 騎士たちも休憩になると入れ替わり立ち替わり顔を見せに来てくれる。

 そうこうしている内に外は暗くなっていき、控えの間には灯りがともされていく。

「私と一曲踊ってくれないか?」

 シェスが片手を差し出し聞いた。
 シェスとのダンス……、婚約発表の日、初めてシェスと踊った。
 あの時はただ緊張と怖さとで、楽しさなんてなかった。
 でも今は? 今、シェスと踊ると思っただけで、ドキリと心臓が跳ねた。嬉しさが込み上げる。

 こんなにも嬉しく思うようになるなんてね。あまりの変化にクスッと笑った。

「喜んで」

 心からの返事を言えた。それが何よりも嬉しい。
 シェスの手を取り移動する。所詮控えの間は控えの間であって、ダンスをするような広さはない。

 しかし周りの皆は壁沿いに身体を寄せたかと思うと、控えの間に小さなダンスホールが出来たかのような広さが保たれた。

 曲は静かな選曲になり、シェスは私の身体を引き寄せステップを踏む。

 間近にシェスの顔。あの時は怖かった……。
 今は好きな人をこれほど間近に見られる嬉しさが。
 冷徹王子のときよりも、今はとても穏やかな表情になったシェス。

 その冷徹さがなくなると美しさの中に可愛さや愛おしさが溢れ出す。その魅力に目を奪われ、つい間近で見詰めすぎていたようだ。シェスは顔を赤らめた。

「そんなに見詰めないでくれ」
「フフ、ごめんなさい」

 幸せな気分でクスクスと笑った。そう、幸せだった、この瞬間までは。


「フッ。本当に君は変わっているな。君は一体誰なんだ?」

「!!」


 シェスは微笑みながら言ったが、私がギクリとし動きを止めてしまうと、シェスの顔は明らかに「しまった!」といった顔付きになっていた。

 どういう意味!? 誰なんだって……、シェスは知っている!? 私が別人だと分かっているの!?

 一気に血の気が引いていくのが分かった。
 シェスの手を離し後退る。

「いや、違う! そうじゃなく……」

 シェスは何か言おうとしていたが、聞くのが怖かった。聞きたくなかった。

 周りの皆はそんな私たちの姿に気付きざわざわとし出す。
 もう駄目だ。私はここにいてはいけない。

 ずっと皆を騙し続けて来た報いだ。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 私は走り出し、その場から逃げ出した。

「お嬢!」
「お嬢様!」

 オルガとマニカの叫ぶ声が聞こえたが、止まることは出来なかった。
 驚く皆の間をすり抜け外へ! 城の中を駆け抜け、私室まで。シェスから贈られたドレスの裾をたくしあげ必死に走り私室まで戻った。
 固く扉を閉ざし誰も入って来れないように!

 もう駄目だわ。もう駄目。早く、早く、早く!!
 もうここにはいられない! 早くあの魔術を!!
 皆に嫌われるのが……、怖い……。




「君は一体誰なんだ?」

 違う! 違う! そんなことを言いたい訳ではなかった。

 ただ、ただ本当に自分をこんな風に変えてしまったリディアが不思議で、純粋に自分にとってどれだけ大きな存在なのだと、そう思っただけなのだ。
 しかし、しばらく疑惑が頭の中を占めていたせいで、言い方を間違えてしまった。

 その言葉にリディアは蒼白になった。そして拒絶し逃げた。
 シェスレイトは走り去るリディアを止めることすら出来なかった。

 心が近付いていたかと思っていたのは勘違いだったのか……。


 シェスレイトが呆然とする中、オルガとマニカだけでなく、ラニール、ルシエス、イルグストがリディアを追いかけて行った。

「殿下! 何をぼーっとされているのですか! 貴方はどうするのです!? 皆、リディア様を追って行かれましたよ!?」

 ディベルゼは叱咤する。

「わ、私は……」

 リディアは何も聞かずに逃げて行ってしまった。追いかけて何を言ってももう受け入れてはもらえないのではないか。拒絶しかないのではないか。そう思うとシェスレイトは怖くなり動けない。

「貴方は誰が好きなのですか!! 今のリディア様が好きだったのではないのですか!? 覚悟を決めたのではないのですか!? いい加減になさい!! 大事なものを失いますよ!!」

 ディベルゼの怒声が響き渡った。

「殿下、ここで諦めると二度とリディア様は貴方の元には戻りませんよ」

 ギルアディスが静かに言った。

「私は…………、リディアを失いたくはない」

 リディアが何者だろうと、どんな理由があるのだろうと受け入れると覚悟を決めたのに、自分は何をやっているんだ。情けない! シェスレイトは自分自身に憤りを感じた。

 シェスレイトは走り出した。リディアを取り戻すために。





「鏡! 鏡を……」

 扉に鍵を掛け誰も入って来れないようにし、鏡台の引き出しに入れてあったあの鏡を取り出す。

 もうすぐ誕生時間だ。丁度いい。もう私はこの世界からいなくなるのよ。
 皆をだましていた「私」はいなくなる。本当の「リディア」が戻って来る。
 いきなりこういう状況に放り込まれるリディアには申し訳ないけどね……。

 最後の最後にこんな形で皆とお別れしないといけないなんて……。自業自得か……。情けないやら悲しいやら、クスッと笑った。

「そろそろ時間だね……」

 鏡を手に取り自分の姿を写す。
 浅葱色の髪に金色の瞳、シェスが贈ってくれたシェスの色のドレス。ドレスのスカートをそっと撫でた。

 シェス……、あなたが好きだった……、さようなら……。


*********************************

残り三話となりました。
明日朝7時台、昼12時台、夜20時台完結、と一挙更新予定です。
よろしくお願いします。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

処理中です...