【完結】生意気な黒猫と異世界観察がてら便利屋はじめました。大好きなラノベを読むため必ず帰ってみせます!

樹結理(きゆり)

文字の大きさ
20 / 73
本編

第二十話 新居を手に入れた

しおりを挟む
 クラハさんは寝室になるであろう部屋を掃除担当、私はキッチンダイニング担当。こちらは少し手間がかかりそうなため、クラハさんが終わり次第手伝ってくれることになった。

「よし、やるか」

 腕まくりをし気合いを入れた。コゴンじぃさんが結構汚れていると言っただけあって、かなりキッチンは汚れていた。

「おぉう、どうやったらこんな汚せるんだろか」

 流しにもキッチン台も何だか煤汚れのような黒ずんだ汚れが大量に付着していた。

 そういった大量の汚れを念入りに落としていく。
 ラズはというと……、出窓の縁にちょこんと座り外を眺めている。
 窓を開けているため、良い風が吹き込む。その度にラズの耳がピクピク動いているのが面白かった。

 しかしこれからはラズもここに住むのなら、あんたも住人!今までのタダで住ませてもらっていた役所とは違う!働かざる者食うべからず!

「ラズ! ラズは床拭き!」
『は?』

 驚いたラズが振り向いた。

 バケツに水を入れ、雑巾を絞り渡してやる。無理だとは分かっているが、やる姿勢が大事!

「はい! 拭いて!」
『は? え? 俺が!? どうやって!?』
「床くらいなら雑巾ゴシゴシくらい出来るでしょ? よろしくね」

 ラズは目を丸くし呆然としていた。そして『えぇ!?』とブツブツ言いながらも、雑巾に前脚を乗せ前後にゴシゴシと動かし出した。
 その姿がまた……、か、可愛い。

 猫背で前脚をちびちびと前後させている。た、たまらん、この可愛さ。全く役には立ってないけど、これは癒やしだわぁ。

 そんなことを考えながらチラチラとラズの愛くるしい姿を堪能しつつ、掃除を終わらせていく。

 途中からはクラハさんもダイニングの掃除に戻って来てくれ、ラズの姿を見るや吹き出した。

 おかげでラズはブスッとしていたが、私もクラハさんもそんなラズにほっこり。

 ひとしきり部屋の掃除を終えると最後は風呂場などの水回り。クラハさんと分担しながら掃除していく。
 ラズはもう戦力外通告をしました。床で伸びてるわ。


 夕方に差し掛かろうとしているときに、全ての掃除を終えた。

「終わったー!!」

 見違えるほどにピカピカ!! いやぁ、気持ちが良い!!

「お疲れさん」
「クラハさん、ありがとうございます!」

 ラズは呑気に身体を伸ばしている。

「さて、じゃあコゴンじぃさんとこ戻って契約しないとね」
「はい!」

 掃除道具を手にし、コゴンじぃさんの家まで。
 コゴンじぃさんは労うようにお茶を出してくれた。コゴンじぃさんと世間話をしながらまったりとお茶をいただいた。

「さて、契約だな? あの部屋は月五万ルテナなんだが……」

 確か……、一ルテナが約一円くらい、一ルテナ、十ルテナ、百ルテナとコインがあり、五百ルテナは銅貨、一千ルテナは銀貨、一万ルテナは金貨、だったはず。

 今まで役所から支給された証明タグで買い物をしていたため、ぶっちゃけるとあまり値段を気にしていなかった。なので、この国の物価がよく分かっていない。パン一つが確か百ルテナくらいだったかな。
 月五万ルテナというのは安いのかしら? それにお給料はいくらくらいもらえるのかしら……。

 チラリとクラハさんを見ると説明をしてくれた。

「月五万ルテナはまあ普通だね。中央広場に面している部屋は比較的安いんだ」
「そうなんですか?」

 てっきり中央広場に面している方が高いのかと思っていた。

「中央広場は夜も灯りが灯されているし、夜までずっと人が大勢いるからねぇ。皆、静かな暮らしを好むから居住区の奥まったところのほうが高いんだ」

 なるほど、確かに四六時中灯りがあったりうるさかったりすると、煩わしいかもね。

「うちから出せる給与は月十五万ルテナくらいかなぁ」
「十五万ルテナ、家賃が五万ルテナ、光熱費ってどれくらいかかりますかね?」
「コウネツヒ?」
「えっと、水道とかのお金です」
「水道のお金?」
「え?」
「え?」

 クラハさんと二人で「え?」となって固まった。
 それを見たコゴンじぃさんはフォッフォッフォッとサンタのように笑う。見た目からしてサンタだけど。

「日本人は皆、水やガスにお金を払うらしいなぁ。部屋を借りようとする日本人は皆そのことを聞くよ」
「お金払わなくて良いんですか!?」

 ようやくクラハさんが理解したらしく笑った。

「この国では水やガスにお金は払わないよ。全部国で管理されているから、税収でまかなわれているんだ。多分地方の街でも同じだと思うよ?」
「へぇぇ! そうなんですね! じゃあ、住むときに必要なのは家賃だけ?」
「そうだね」

「家賃はさっき約束もしたし、月四万ルテナで良いよ」
「え!? 四万ルテナ!? 良いんですか!?」
「あぁ、構わんよ。その代わりたまにこうやって二人でお茶でもしに来ておくれ。かみさんに先立たれてから、一人で暇なもんでなぁ。話し相手が欲しかったんだよ」

 少し寂しそうな顔でコゴンじぃさんは笑った。クラハさんと二人で顔を見合わせ笑い合う。

「喜んで」

 コゴンじぃさんとはこれ以後、良い茶飲み友達だ。週に一度、休日に数時間程お茶やランチをする仲となった。


 コゴンじぃさんと契約を終えると、何でも屋へと帰った。その帰り道に道端で街の人に声を掛けられ、仕事の依頼が何件か入る。案の定口約束なんだな。うーん、これ、ちゃんとしたほうが良いのでは……。

 でもこの国の人、結構アバウトな感じだし、あまりきっちりすると余計に嫌がられるのかしら。

 悶々と考えているうちに何でも屋に到着した。

「今日はお疲れ様! どうだった? 仕事してみて?」

 クラハさんがニコニコと聞いて来る。

「そうですね、力仕事もあるし大変だけど、楽しかったです!」

 日本にいたときはデスクワークばかりで、こんなに体力を使ったのはいつぶりだろう、というくらい身体が疲れていたが、気持ちのいい疲労感だ。

「続けられそうかい?」
「はい!」
「そっか、良かった! じゃあまた明日からもよろしくね」
「よろしくお願いします!」

「今日は疲れただろうし、もう帰って良いよ。明日はどうする? 引っ越しをするならお休みでも良いよ? 手伝えないのは申し訳ないけれど」

 明日引っ越しか……、早めのほうがここに通うのも楽だしね……。

「じゃあ、お休みいただいて良いですか? 手伝いは気にしないでください、大した荷物の量もありませんし」
「分かった、じゃあ明日は引っ越し頑張って」
「ありがとうございます!」

 クラハさんにお礼を良い、夕方だしキミカさんに報告がてら夕食を食べに行こうかな、とラズをチラリと見た。

「ラズは今日ご飯どうするの? また先に帰るの?」
「ん? あー、いや、今日は行ける」
「行ける?」
「あ、いや、行く」
「ふーん?」

 行ける……、ま、いっか。

 キミカさんには何でも屋で働き出したこと、新しい家を見付けたこと、明日引っ越しをすることを報告した。コタロウさんにも報告しないとね。

 キミカさんはとても喜んでくれ、引越しを手伝ってくれると言っていた。しかしキミカさんはお店もあることだし、丁重にお断りをした。

 夕食をいただき、部屋へと戻るとどっと疲れた。
 あー、疲れたからすぐに寝たいけど、やはりお風呂も入りたいなぁ、と疲れた身体でなんとか湯船に入る。

 疲れた身体が解れていくのが分かり、ホケーッとしながらいつの間にやら夢の中へ……。


『おい!! 起きろ!! そんなところで寝るな!』

 バシャンと顔面に水がかかり、目が覚めると、ラズが湯船の縁に前脚を掛け身を乗り出し私の頭を猫パンチしていた。

「あれ?」

 状況を飲み込めず、ボーッとラズを見詰めた。

「しっかりしろ! 起きろ!」

 ラズがしつこく猫パンチ。

「だぁぁぁあ!! もう起きたから!!」

 あまりにしつこく猫パンチされるものだから、イラッとしラズの前脚を掴んで叫んだ。

「また一緒にお風呂入りたいの?」
『んな訳あるか! お前が風呂で寝るからだろ!! 全く起きないから溺死するかと思ったわ!!』

 かなりまともに怒られ、さすがに少し反省した。少しだけね。

「だって疲れてたんだもん……、でもごめん、ありがとね」
『あ、う、いや、うん、まあ早く服着て出ろ』

 素直に謝るとラズは少したじろぎ、くるりと後ろを向くと風呂場から出て行った。

 その日はあまりの疲労感に泥のように眠ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

婚約破棄された没落寸前の公爵令嬢ですが、なぜか隣国の最強皇帝陛下に溺愛されて、辺境領地で幸せなスローライフを始めることになりました

六角
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、王立アカデミーの卒業パーティーで、長年の婚約者であった王太子から突然の婚約破棄を突きつけられる。 「アリアンナ! 貴様との婚約は、今この時をもって破棄させてもらう!」 彼の腕には、可憐な男爵令嬢が寄り添っていた。 アリアンナにありもしない罪を着せ、嘲笑う元婚約者と取り巻きたち。 時を同じくして、実家の公爵家にも謀反の嫌疑がかけられ、栄華を誇った家は没落寸前の危機に陥ってしまう。 すべてを失い、絶望の淵に立たされたアリアンナ。 そんな彼女の前に、一人の男が静かに歩み寄る。 その人物は、戦場では『鬼神』、政務では『氷帝』と国内外に恐れられる、隣国の若き最強皇帝――ゼオンハルト・フォン・アドラーだった。 誰もがアリアンナの終わりを確信し、固唾をのんで見守る中、絶対君主であるはずの皇帝が、おもむろに彼女の前に跪いた。 「――ようやくお会いできました、私の愛しい人。どうか、この私と結婚していただけませんか?」 「…………え?」 予想外すぎる言葉に、アリアンナは思考が停止する。 なぜ、落ちぶれた私を? そもそも、お会いしたこともないはずでは……? 戸惑うアリアンナを意にも介さず、皇帝陛下の猛烈な求愛が始まる。 冷酷非情な仮面の下に隠された素顔は、アリアンナにだけは蜂蜜のように甘く、とろけるような眼差しを向けてくる独占欲の塊だった。 彼から与えられたのは、豊かな自然に囲まれた美しい辺境の領地。 美味しいものを食べ、可愛いもふもふに癒やされ、温かい領民たちと心を通わせる――。 そんな穏やかな日々の中で、アリアンナは凍てついていた心を少しずつ溶かしていく。 しかし、彼がひた隠す〝重大な秘密〟と、時折見せる切なげな表情の理由とは……? これは、どん底から這い上がる令嬢が、最強皇帝の重すぎるほどの愛に包まれながら、自分だけの居場所を見つけ、幸せなスローライフを築き上げていく、逆転シンデレラストーリー。

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...