「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空

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第一章 ルイーザ建国

22.ピルツ村の惨状

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 キノコ・タケノコ論争に決着は付かなかったが、白熱した論争が一段落した頃を見計らって、僕達は宿へと移動した。
 マキーナ=ユーリウス王国跡地から、ずっと森の中を移動してここまできているため、今日は早めに休んで明日に備えることにしたのだ。

 二部屋取り、一つの部屋を僕とウルガーさんが、もう一つの部屋をラウラさんが使う事になっている。
 今は、僕達が泊まる部屋に全員が集まって、明日以降の話をまとめていた。


「じゃぁ、ピルツ村には僕が一人で向かうよ」
「……ノア殿一人では、やはり危険ではありませぬか?」
「状況によってはそうかも知れないけど、冒険者ノアとして、旅人を装って立ち寄るだけだから、まぁ大丈夫じゃないかな?」
「ウルガー、心配なのは分かるけど、ここはノア様にお任せしよう。 ……私達は、顔が割れちゃってるから、さ」

 そう。ウルガーさん達の人化の術は、姿形を自由にカスタマイズできるような術では無かった。
 人族の外見に化けることは出来るけれど、その姿はいつも同じ。故に、ピルツ村の人達がウルガーさん達を見たら、正体があっさりばれてしまう危険があったのだ。

「それはその通りだが……、むぅ」

 その後、ウルガーさんは腕を組んで暫く唸りながら考え込んでいたが、最終的には了承してくれた。
 ちょっと強引に進めてる自覚はあるけどね。
 でも、そうするのが一番良いんじゃないかって思うんだ。


「じゃぁ、分担を確認するね。
 僕がピルツ村の様子を探る担当で、ウルガーさんとラウラさんがバンブスシュプロス村周辺の聞き込み担当だ。良い?」

 僕はそう言って、二人を順番に見遣る。
 無言で頷く二人に、僕も一度頷いてから、言葉を続けた。

「僕は冒険者ライセンスを持っているから、ちょっと遠回りにはなるけど、メイジシュタットの町にある冒険者ギルドでピルツ村方面の依頼を受けてから、ピルツ村に向かう。ピルツ村には依頼で立ち寄ったって言えるように」

 直接ピルツ村に向かっても良いけれど、この混乱の最中に、特に用も無く魔王国との国境付近を目指すような者は、逆に目立ってしまうかも知れない。だからこそ、冒険者ギルドで依頼を受けてから向かうんだ。
 本当に依頼を受けなくても、聞かれるような事があれば、冒険者ギルドで依頼を受けて来たと嘘を吐けば良いんじゃないかって?
 確かに、効率だけを考えればその方が良いだろうね。だけど、吐かなくて済む嘘を、態々吐く必要は無い。嘘を吐くということは、多かれ少なかれリスクを負う事になるんだから。

「次はウルガーさん達だ。ピルツ村の事や、国境周辺の事、城塞都市フレイスバウムの事を中心に情報を集めて欲しい。――だけど、無理は禁物だよ? ピルツ村で家を失った人達が、こっちに来る可能性だって十分あるんだ。特に、行商をしているウルガーさんの顔は色んな人に知られてそうだから、警戒しすぎるくらい警戒して丁度良いと思う」

「承知致しました。ですが、本当にそこまで警戒する必要があるのですか? ただ、この周辺の情報を探るだけでござろう?」

 ウルガーさんの疑問に、ラウラさんも頷く。
 二人とも真っ直ぐ僕の方を見て、真剣な表情で僕の回答を待っていた。

「それなんだけどね……。僕の予想だと、ウルガーさん達が置かれている状況は、想像以上に危ういんじゃないかって思ってるんだよ」

 僕は二人に、リーゼにも話した内容を伝えた。
 ピルツ村の村人が、魔王国にまでウルガーさん達を追ってきた違和感。そこから想定できる、ネガティブな予測。

 初めは警戒を強めている僕に懐疑的な二人だったけど、最終的には納得してくれた。

「成る程ね。言われて見れば、魔王国の森あんな所まで追いかけてこられるのはおかしかったのか。私達でさえ、魔物や他の魔族と遭遇しないかってドキドキしながら逃げてたんだから、ピルツ村の人からしてみれば尚更よね」
「そうでござるな。村を追い出されたこと自体に囚われ過ぎて、確かに失念していた。ピルツ村から、明らかに拙者達を追いかけてきていたと言うことか」
「……そうなっちゃうかぁ。流石に、キツいね」
「うむ……」

 それはその通りだろう。
 ピルツ村の住人の中には、ウルガーさん達と仲の良かった者もいた筈だ。長年築いてきた信頼関係が情を育み、得難い絆になっていた筈なんだ。
 それが一瞬で崩壊したんだから、その傷は決して浅く無いだろう。

 でも、僕が気になっているのはそれだけって訳でも無いんだ。

「ピルツ村を追い出されただけでも、結構ショック大きかったんだけどなぁ。追い出しただけじゃ無くて、その、殺す、ために、追いかけてくるなんて……。そんなに酷いことだったのかな、犬人族コボルトだってことを隠すことは。後になって、追いかけてきて、殺したくなるくらいに……」

 ラウラさんの独白。
 きっとこの言葉は誰かに向けられたものでは無いのだろう。呟き程度の小さな言の葉が、静かな部屋の空気に溶けて、消える。

 ウルガーさんが、ラウラさんの頭に手を置いた。
 言葉は何も無かった。
 だけど、ラウラさんの表情が、少しだけ柔らかくなったように思えた。


 そんな二人を見ながら、僕は別のことを考えていた。
 それはまさに、ラウラさんがさっき口にした言葉。

 “後になって・・・・・追いかけてきて――”


 これこそが、僕が気になっている点だ。
 村を追い出して直ぐに追いかけるのではなく、後になって追いかけた。
 それって、ウルガーさん達を村から追い出した直後には追いかける理由が無かったけど、後になってその理由ができたとも考えられるよね。

 考え過ぎかな?
 考え過ぎだと、いいな。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ウルガーさん達と別行動になってから二日の時が流れた――。


「思った以上に酷いな……」

 それが、ピルツ村を見た僕の率直な感想だった。

 ピルツ山の麓にある集落は、その半数が焼け落ちている。
 それも、火事で焼けたというレベルではなく、灼熱の溶岩流にでも飲まれたかのように、大地自体が焼け焦げている。
 焦土と化した大地には、まるで墓標のように焼け焦げて真っ黒になった木屑――元々は人が住む家の柱か何かだったのだろうと推測できる木片が、ちらほらと転がっていた。

 ウルガーさんから聞いていた、ピルツ村の情報を参考に、山の方へと歩いて行く。
 多くの住人は裾野に住んでいて、そこで農業を営んでいるのだが、家も畑も、その殆どが焼失してしまっている。
 未だに、何かが焦げ付いたような匂いが充満していて、息を吸うだけで、眉間に皺が寄った。

 燃えた物は家だけでは無かったのだろうと、簡単に想像できる惨状だ。


 裾野から、ピルツ山に向かって暫く歩くと、ぽつ、ぽつと家が見えてくる。
 これらの家は数こそ少ないけれど、ピルツ村の中心から離れていることもあって、ほぼ無傷だった。

「アレが、ウルガーさん達が住んでいた場所か。 あー、今は生き残った村人が住んでるのか?」

 無傷だったからこそ、有効活用されているのかも知れない。
 住むところを無くした村人が、雨風を凌ぐ為に、一時的に犬人族コボルトが使っていた家を活用しているのだろう。


「でも、かなり大きなテントなんかもあったりするな……。どうなってるんだ?」


 ウルガーさん情報によれば、元々は犬人族コボルトも含め、凡そ一二○人がピルツ村に住んでいたらしい。
 魔族の襲撃で半壊したという情報を素直に考慮すると、五○人強の人々が生き残っている筈なんだ。
 その程度であれば、ウルガーさん達の住まいを借りれば十分事足りる。――筈なのだが、そこには野営のテントのようなものまであり、五○人どころではない、もっと多くの人数が暮らしていそうな雰囲気があった。


「この辺りでは見かけない顔ですな。流れの冒険者ですかな?」

 そんな声に振り向くと、肩に鍬を担いだ壮年男性がこちらへと歩いてきていた。
 ところどころ汚れている服を身に纏っている。恐らく、農作業用の服で、汚れることが想定されている服なのだろう。
 日に焼けた肌に、無駄な肉が殆ど無い痩躯。髪の色はくすんだ金髪で、短めに揃えられている。眉間には常に皺が刻まれており、やや不機嫌そうに見える表情。きっと、見ず知らずの僕を警戒しているんだろうね。部外者なんてなかなか来ないだろうし。

「こんにちは。えぇ、見ての通り冒険者です。ノアと申します」

 悪印象を与えないよう、努めて笑顔で返しはしたけれど、彼の表情が和らぐことは無かった。

「冒険者かい。……ピルツ村には何用じゃ?」
「薬草採取と、街道付近の魔物狩りの依頼を承けて近くまで来たので、立ち寄った次第ですが……。聞いていた以上に大変な状況のようですね」
「ふん。何もかも、魔族が悪いんじゃ」

 男性はそう言うと、僕の近くに並び立ち、村の様子を指さした。

「あっと言う間にこの有様じゃ。家も畑も焼かれて、仲間も沢山死んでしもうた。俺達が何したって言うんじゃ……」

 溜息を隠そうとしない男の言葉に、僕は眉根を寄せて小さく頷き、同意を示した。

「……兄ちゃんにそんな事愚痴っても仕方ないか。──儂は、ピルツ村の村長をやっとる、ヨーゼフじゃ。この惨状について聞いていたって話じゃが、それはどこで、どんな話を聞いたんじゃ?」
「話を聞いたのは、メイジシュタット町の冒険者ギルドです。ピルツ村に限った話ではありませんが、魔王国の国境周辺は、強力な魔族の襲撃を受けて多くの被害が出ているから気を付けて欲しいという話でしたね」
「そうかい。……支援の話なんかはまだ無いんじゃな」
「少なくとも、僕が聞いている限りでは。メイジシュタットも、城塞都市フレイスバウム陥落の影響でかなりバタついていましたからね。避難民の受け入れと、無くなってしまったフレイスバウムの冒険者ギルド移設で、みんな忙しそうにしてました」
「……じゃぁ、こんな村に支援が来るのは、まだまだ先になりそうじゃな」

 ヨーゼフさんの言葉には、隠しきれない疲労が見え隠れしていた。

 そうなんだよね。当たり前だけど、ピルツ村の人達も被害者なんだよね。
 見ての通り家は無くなってるし、畑だって焼かれてる。生活に絶望する人がいたって不思議じゃない状況だ。

 本来なら、このあたりの領主になる辺境伯から支援が届くはずなんだろうけど、城塞都市が陥落してるから、どうしてもそっちが先になっちゃうしね。

 命を数で計ること自体の是非はあるけど、順番はついちゃうよね。差し伸べる手の数は限られてるんだからさ。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
■Tips■
メイジシュタット[固有名詞・町名]
テールス王国東部の、キースリング辺境伯領内にある町。
ピルツ村やバンブスシュプロス村の近くにあり、冒険者ギルドを始めとした機関がある。
メイジシュタットの冒険者ギルドは、城塞都市フレイスバウムの支部的位置づけだったが、フレイスバウムが陥落して無くなってしまったため、フレイスバウム冒険者ギルドの臨時窓口が置かれている。

ピルツ村のキノコ、バンブスシュプロスのタケノコをプロデュースし、世に送り出した“メイジ”なる人物がいる。




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