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第14話~旅立ち~
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「では、皆さんお元気で」
僕は大して大きくない荷物を肩からぶら下げると、門の前に勢揃いしているこの家でお世話になった方々に深々と頭を下げた。
頭を上げるとハンカチで目をおさえる人や、笑顔で又遊びに来いよと言ってくれる人達が僕を見送ってくれている。
重苦しい雰囲気が漂っている中、フランクが僕に尋ねた。
「ミックさんはこの後どちらへ行かれるのですか?」
「実は、僕の生まれた街の隣町に友人が住んでいるんですが、以前、ここを出て家を探すつもりだって話をしたら、見つかるまでうちを仮住まいにしたらどうか、と言ってくれまして……。しばらくそこでお世話になりながら家探しをするつもりです」
そんな話をしながらも、僕の目は自然とスージーを探している。しかし、何処を見渡してもスージーの姿は見えない。そんな僕の様子を察したフランクが、言いにくそうに話した。
「あの、お嬢様にもお声をかけたのですが、よほどお辛い様で……」
そう言うフランクの声も鼻声になっていた。
予想はしていたけど、最後にちゃんとお別れを言いたかった。勝手に込み上げてくる感情にたまらず、眉間に皺を寄せた。
「そうですか……。では、元気にやるようにとお伝え下さい」
もう一度頭を下げ、皆の顔をまともに見る事が出来ず、そのまま僕は背を向けて銀杏並木を歩き出した。
降ってくる枯葉を見つめながらここでの十二年間を振り返ると、自然と涙が頬を伝う。
ここを出るって決めたのは自分自身のはずなのに、後ろ髪引かれるような思いに駆られるのは何故だろう。心の何処かでわかっていながらそれを認めてはいけないのだと、僕の中のもう一人の自分が言っていた。
――とにかく前に進もう
シャツの袖口で汗を拭うフリをして、涙で濡れた頬を拭った。
◇◆◇
走り書きのメモを片手に友人の家を探して歩く。
「……暑っつ」
まだ暑さが残るこの季節。額に薄っすらと溜まる汗を手の甲で拭いながら、ひたすら友人の家を捜し歩いた。
大して大きくないとはいえ、荷物が肩に食い込む。長時間のグレイハウンドでの移動に疲れ果てた僕は、一分一秒でも早く休みたくてしょうがなかった。
すっかり日が落ち、虫の声があちらこちらから聞こえだした。
暗くなった景色の中で目を凝らしながら、一軒一軒、表札を見て歩いて行く。
「!! あっ! ……ったぁ、ここだ」
やっと見つかった喜びと共に、溜息が入り混じった。
一人で住むにしてはかなり大きな家だと言う事は、暗闇の中でも良くわかる。見上げると窓から部屋の明かりが零れ落ちており、それが在宅であるという事を意味していた。
喜び勇んで玄関のチャイムを押す。久し振りに会う友人の驚いた顔を想像していた僕は、開いた扉から見たことの無いお嬢さんが出てきたことで肩透かしをくらった気分になった。
黒い髪の端正な顔立ちのそのお嬢さんは、どうやら東洋人の様だ。間違えたのかもと何度も手元のメモと表札を交互に確認するが、やはりこの家で間違いないと確信した。
「あの……英語話せますか?」
「ええ、勿論」
流暢な英語を話すそのお嬢さんはにっこりと微笑んだ。
「あの、ここに――」
僕が友人の事を尋ねようとした時に、聞き覚えのある声が廊下の奥から聞こえた。
「どうしたの? ナオ。お客さんかい?」
その声が近づいて来て、やはりこの家で間違いではない事がわかった。
「あ、やっぱり。ウィル!」
「え? ミック?? ……ミックなのか!?」
東洋人のお嬢さんが扉から離れると、僕達は硬い握手を交わした。
「何だ! 明日到着する予定だったんじゃないの? 電話してくれれば迎えに行ったのに!」
「いや、君を驚かせたくてね。でも随分迷っちゃったから、素直に君に電話して助けを求めるべきだったよ」
眉間に皺を寄せ、両手を広げた。
一通りの挨拶を交わした後、僕は先程から気になっていた隣に居るお嬢さんの事を紹介するようにウィルに目配せをした。ウィルは「ああ」と言いながら、彼女を近くに呼び寄せた。
「すまん、すまん。ミックにはちゃんと報告してなかったな。彼女は直海。僕のかわいい奥さんだ」
そう言うと、ウィルはお嬢さんの腰に両手を回し頬にキスをした。
「お、奥さん!? あ、えっ? ……ウィル、結婚したの!?」
結婚なんて全く興味が無いと散々零していたあのウィルが結婚?
彼が結婚していた事にもかなり驚いたが、そのお嬢さんが凄く若く見えたのでまさか二人がそんな関係だったとは思えず、更にびっくりしてしまった。
「えっと……」
「ナオミ、と気軽に呼んで下さい」
「あーっと、その……女性に年齢を聞くのは失礼だとは思うんだけど、ナオミは一体……?」
無駄に気を使った尋ね方がおもしろかったのか、ナオミは口許を片手で隠すとケラケラと笑いながら「ウィルの五歳下」だと言った。
どう見てもティーンエイジャーに見えるそのお嬢さんが実はスージーより少しお姉さんだと知り、その事が更に僕を驚かせた。
「まあ、とにかく入ってくれよ」
「ええ、どうぞ?」
ウィルと直海が微笑みながら僕を招き入れてくれるが、正直二の足を踏む。彼が結婚したと知っていたら、こんな無茶な頼み事をしなかったのにと後悔しながら、二人の後をついて家の中に入った。
「ここがバスルーム。君の部屋は二階だよ。届いた荷物は全部運んでおいたからね」
「ああ、悪いね、そこまでしてもらって」
「いいんだよ。あ、こっちは僕らの寝室ね。……わかってると思うけどここは立ち入り禁止だからね」
「ウ、ウィル!」
直海はウィルの腕を掴んで顔を赤らめた。
「ばっ! 入るわけないだろっ! 入るどころか、すぐに家を探して出て行くよ!」
「ははは、冗談だよ、冗談! 遠慮しないでずっといていいぞ?」
「良く言うよ。……そんな風に、思ってないくせに」
彼らの為を思ってそう言ったんじゃない。自分自身が彼らを見るのが辛くなると思い、すぐに出て行く予定だと言ったのだった。
仲の良さそうな二人を見ていると、少し前の僕とスージーを思い出してしまって、キリキリと胸が痛んだ。
僕は大して大きくない荷物を肩からぶら下げると、門の前に勢揃いしているこの家でお世話になった方々に深々と頭を下げた。
頭を上げるとハンカチで目をおさえる人や、笑顔で又遊びに来いよと言ってくれる人達が僕を見送ってくれている。
重苦しい雰囲気が漂っている中、フランクが僕に尋ねた。
「ミックさんはこの後どちらへ行かれるのですか?」
「実は、僕の生まれた街の隣町に友人が住んでいるんですが、以前、ここを出て家を探すつもりだって話をしたら、見つかるまでうちを仮住まいにしたらどうか、と言ってくれまして……。しばらくそこでお世話になりながら家探しをするつもりです」
そんな話をしながらも、僕の目は自然とスージーを探している。しかし、何処を見渡してもスージーの姿は見えない。そんな僕の様子を察したフランクが、言いにくそうに話した。
「あの、お嬢様にもお声をかけたのですが、よほどお辛い様で……」
そう言うフランクの声も鼻声になっていた。
予想はしていたけど、最後にちゃんとお別れを言いたかった。勝手に込み上げてくる感情にたまらず、眉間に皺を寄せた。
「そうですか……。では、元気にやるようにとお伝え下さい」
もう一度頭を下げ、皆の顔をまともに見る事が出来ず、そのまま僕は背を向けて銀杏並木を歩き出した。
降ってくる枯葉を見つめながらここでの十二年間を振り返ると、自然と涙が頬を伝う。
ここを出るって決めたのは自分自身のはずなのに、後ろ髪引かれるような思いに駆られるのは何故だろう。心の何処かでわかっていながらそれを認めてはいけないのだと、僕の中のもう一人の自分が言っていた。
――とにかく前に進もう
シャツの袖口で汗を拭うフリをして、涙で濡れた頬を拭った。
◇◆◇
走り書きのメモを片手に友人の家を探して歩く。
「……暑っつ」
まだ暑さが残るこの季節。額に薄っすらと溜まる汗を手の甲で拭いながら、ひたすら友人の家を捜し歩いた。
大して大きくないとはいえ、荷物が肩に食い込む。長時間のグレイハウンドでの移動に疲れ果てた僕は、一分一秒でも早く休みたくてしょうがなかった。
すっかり日が落ち、虫の声があちらこちらから聞こえだした。
暗くなった景色の中で目を凝らしながら、一軒一軒、表札を見て歩いて行く。
「!! あっ! ……ったぁ、ここだ」
やっと見つかった喜びと共に、溜息が入り混じった。
一人で住むにしてはかなり大きな家だと言う事は、暗闇の中でも良くわかる。見上げると窓から部屋の明かりが零れ落ちており、それが在宅であるという事を意味していた。
喜び勇んで玄関のチャイムを押す。久し振りに会う友人の驚いた顔を想像していた僕は、開いた扉から見たことの無いお嬢さんが出てきたことで肩透かしをくらった気分になった。
黒い髪の端正な顔立ちのそのお嬢さんは、どうやら東洋人の様だ。間違えたのかもと何度も手元のメモと表札を交互に確認するが、やはりこの家で間違いないと確信した。
「あの……英語話せますか?」
「ええ、勿論」
流暢な英語を話すそのお嬢さんはにっこりと微笑んだ。
「あの、ここに――」
僕が友人の事を尋ねようとした時に、聞き覚えのある声が廊下の奥から聞こえた。
「どうしたの? ナオ。お客さんかい?」
その声が近づいて来て、やはりこの家で間違いではない事がわかった。
「あ、やっぱり。ウィル!」
「え? ミック?? ……ミックなのか!?」
東洋人のお嬢さんが扉から離れると、僕達は硬い握手を交わした。
「何だ! 明日到着する予定だったんじゃないの? 電話してくれれば迎えに行ったのに!」
「いや、君を驚かせたくてね。でも随分迷っちゃったから、素直に君に電話して助けを求めるべきだったよ」
眉間に皺を寄せ、両手を広げた。
一通りの挨拶を交わした後、僕は先程から気になっていた隣に居るお嬢さんの事を紹介するようにウィルに目配せをした。ウィルは「ああ」と言いながら、彼女を近くに呼び寄せた。
「すまん、すまん。ミックにはちゃんと報告してなかったな。彼女は直海。僕のかわいい奥さんだ」
そう言うと、ウィルはお嬢さんの腰に両手を回し頬にキスをした。
「お、奥さん!? あ、えっ? ……ウィル、結婚したの!?」
結婚なんて全く興味が無いと散々零していたあのウィルが結婚?
彼が結婚していた事にもかなり驚いたが、そのお嬢さんが凄く若く見えたのでまさか二人がそんな関係だったとは思えず、更にびっくりしてしまった。
「えっと……」
「ナオミ、と気軽に呼んで下さい」
「あーっと、その……女性に年齢を聞くのは失礼だとは思うんだけど、ナオミは一体……?」
無駄に気を使った尋ね方がおもしろかったのか、ナオミは口許を片手で隠すとケラケラと笑いながら「ウィルの五歳下」だと言った。
どう見てもティーンエイジャーに見えるそのお嬢さんが実はスージーより少しお姉さんだと知り、その事が更に僕を驚かせた。
「まあ、とにかく入ってくれよ」
「ええ、どうぞ?」
ウィルと直海が微笑みながら僕を招き入れてくれるが、正直二の足を踏む。彼が結婚したと知っていたら、こんな無茶な頼み事をしなかったのにと後悔しながら、二人の後をついて家の中に入った。
「ここがバスルーム。君の部屋は二階だよ。届いた荷物は全部運んでおいたからね」
「ああ、悪いね、そこまでしてもらって」
「いいんだよ。あ、こっちは僕らの寝室ね。……わかってると思うけどここは立ち入り禁止だからね」
「ウ、ウィル!」
直海はウィルの腕を掴んで顔を赤らめた。
「ばっ! 入るわけないだろっ! 入るどころか、すぐに家を探して出て行くよ!」
「ははは、冗談だよ、冗談! 遠慮しないでずっといていいぞ?」
「良く言うよ。……そんな風に、思ってないくせに」
彼らの為を思ってそう言ったんじゃない。自分自身が彼らを見るのが辛くなると思い、すぐに出て行く予定だと言ったのだった。
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