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√マリーヤ act.2

② チ口ール村むかし話『ボタン長者』のはじまりまじまり

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 ぴんぽんぴんぽーん。お宅のご主人いらっしゃいますか~~?
「どちら様ですか?」
 メイドさんが出てきたわ。

「名刺をいただいたチ口ール村のマリーヤと申します」
「主人は今取り込み中ですが、お会いになりますか?」
 取り込み中ね……切符代もらったらすぐ帰るから!
「普通に現金もらいにくる感覚がもうアレだピコ」

「ご主人様、お友達だとおっしゃる方が」
 友達……いい響き……友達の家に遊びに来るなんて……。
「向こうは友達として見てないピコ」

 あ、監視カメラに映ってたおじさまが部屋のドアから顔を出した。
「おお、あの時の美しいお嬢さん。私は3年前に妻を亡くしておりまして、今フリーなんですよ」
 再会がしらにアピールされてしまった。
「やっぱり後妻だったピコね」
 それは最後の保険に取っておくとして。

「あの……もじもじ……切符代を貸していただけないでしょうか……(返せるアテはない)」
「夏休みには地上海からクルーズに出るのが恒例なのだが、旅はお好きですか?」
「あと何か食べ物もください!」
「会話がまるで噛み合ってないピコ」

 そこで、ドアの向こうから何か、丸いものが転がってきたの。
「ん? なにこれ」
 拾ってみたら。
「ココナッツ?」

「実は、先日南の国へ農場経営の勉強に出かけていましてね、珍しい果物が売っていたので大量に買い込んでしまって」
 なんと一部屋まるごと、ココナッツ!
「ココナッツ3ヶ月分だピコ~~」
 朝昼晩、毎食毎日食べ続けて、飲む物全部ジュースにしないと。

「とりあえず親戚や友人に送りつけようと、箱に詰めて紐でくくる作業をメイドたちとしているのです」
「それは忙しそう、お手伝いしますね」

 そういうわけでここでも作業作業なんだけど、そのうちそのおじさまがお仕事で慌てて出られてしまったの。これは切符代もらい損ねた模様。

 しかたない、ようやく親戚友人知人の数だけ用意できたみたいだし、おいとましましょうか。
「ココナッツ、まだまだ余ってるピコね~~」
「食糧難の我が家としては、いくらかちょうだいって言いたいところだけど、もう白い飲み物は見たくないってマリーヤの身体が言ってるの」
「それじゃ乳絞りの仕事もできないピコね……」

 その時、メイドのお嬢さんたちが遊びだした。
「見て見て! すっごい巨乳~~!」
「きゃはははは!」

 衣服の中の胸のところにココナッツふたつ入れて巨乳ごっこしてをおります。まったく、子どもね。しかしそうか、その手があったか。
「冷静に見て不自然だピコ」

「あっ!」
 当たり前だけど、そのメイドの、ブラウスの胸元のボタンがはじけ飛んでしまったのよ。

「あ~~どうしよう~~ボタンがココナッツの海の中に~~」
「自分で探しなさいよ~~私たち作業で疲れてるんだから~~」

「あ、あの」
 ポケットにマリーヤの拾ったボタンがあったはず。
「これ良かったら使って」

「ありがとう~~助かる~~。じゃあお礼に、そこに飾ってある牡丹ぼたんの造花をあげる」
 ソレここのご主人の物なんじゃ……。ま、もらえるものはもらっておこう。
「ボタンがぼたんになったピコ~~」
 牡丹の造花以外これといった収穫はなく、そこのお宅を去ることに。


 いったん自宅に帰るかなぁ。
「芸術はァ~~爆発だぁぁ~~!」
 あら、家の作業室の扉を開けて叫んでいる人がいる。

「次はっ。次は何を作ろうかなぁそわそわそわそわ!!」
「うわぁ、いろんな物作ってますねぇ!」
 この人は陶芸家ね、作品いっぱい置いてある。置物の、ねずみ、牛、虎、ウサギ、龍……ねずみとウサギが牛虎より大きくてシュール。

「おお美しいお嬢さん! ぜひ作品のモデルになっていただけませんか?」
 私の代わりに亡きおじいさんのオブジェをお願いできないかしら。

「注文受けた物も作り終え、これから趣味で作る作品を考えているのだが、アイデアが思い浮かばず……」
「普通にお皿とか花瓶は?」
「私は陶芸家歴4ヶ月半だよ? そんな素人でも作れるようなもの!」
 全世界のプロ陶芸家に謝りなさい!

「おや? お嬢さん。その袋から顔を出しているものは?」
「ん? ああ、これは牡丹の造花よ」
「おお美しい! 棘のないバラだね! そうか、花か。すっかり存在を忘れていたよ」
 花の存在を忘れる芸術家ってどうなの。

「それをモデルにしたい。譲っていただけないだろうか?」
「いいけど、一応あなた芸術家なのよね、なんかお金になりそうなものと交換してくれないかしら?」
「金になりそうなもの……それならこれだ、これをどうぞ」

「……白鳥?」
 あれ、白鳥の羽?というか背中のところにふたが付いてる……。ぱかっ。中は空洞。

「ってこれ、おまる――!?」
 おまるもらうのって微妙に恥ずかしいんですけど……。

「ものすごく価値のあるものだピコ?」
「え? 白鳥の置物が?」
「ううん、おまるが」
「えぇ??」

「だってこの村、どの家にもアレがないピコ?」
 あ、待ってピコピコ。それ以上言わないで。

「のりえだって分かってるピコよね? そういえば、のりえはどこでやってたピコ?」
 い、言うな――――!!
「どこの家のどこの人だって事情は同じピコ。恥ずかしがることじゃないピコ」
 現代人的には、抵抗あったんですけど、アレがなければ、致し方なく……。

「だから、おまるは買い手がつく可能性あるピコ!」
 そっか、光が見えてきたわ。はい、交換っと。


 でも、おまるを売り込みか。販売未経験の高3女子にはハードル高いです。
「さすがにお腹すいてきた……泣きそう」

「うわぁぁぁぁん!」
「!?」
 隣で泣いてる少年が。

「どうしたの坊や? もしかして迷子?」
「迷子じゃないけど、寂しい。寂しすぎて死んじゃう」
 私も寂しい。
「寂しい同士で慰め合うピコ」

「まぁ元気出して。なんか元気になる遊びをしよっか」
「じゃあおねえちゃん、カビローンロン総帥やって。僕、地球の平和を守る正義の味方・ツーパンウーマンやるから」

「えっ……」
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