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√マリーヤ act.2

③ バターコさん:たぶん黒髪グラマーな女幹部

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「許さないわ、カビローンロン! バターコさんに代わってお仕置きよ!」
「カビカビぃ~~。ロンロ――ン」
「トドメいっちゃうわよ~~! 1かいめパーンチ! 2かいめパーンチ!」
「2発もぉ~~。覚えてろぉ~~」
 女戦士モノだったか……。

「この時代に女性がメインで活躍する物語だピコ! なんて画期的ピコ! 感動ピコ!!」
 バターコさんの代理戦争じゃないか……。

「ふぅ。おもしろかったね! おねえちゃん!」
「ええ、まぁ……」
 全然面白くありませんでした。でも大人だから、本音と建前使い分けるわ。

「少年の機嫌が直って良かったピコ」
「そんなことよりもう、お腹がすいて力が出ない~~!」
 ちょっとめまいが。

「お腹すいてるの? おねえちゃん。だったら僕の白パンあげる」
「あ、ありがとう……」
 優しさに泣ける~~。

「やっと固形物が食べられたピコね」
「君みたいな小さな子が、どうしてひとりでうろついてるの? 両親は?」
「小さくないよ! 7歳になったんだもん!」
 可愛い。

「僕はミッチェル、家出してきたんだ」
「ええ……? どこから?」
「フルフルフルト」
「フランポフルトの隣町だピコ~~」
「そんな遠くからひとりで!?」
「まぁ汽車で一本だピコ。お金があれば来れるピコ」
 私は乗れない汽車にこの子は乗ってきたのか……。

「どうして家出?」
「だってパパもママも忙しくて、あまり家に帰ってこないし」
 ああそれは寂しいよね。気持ち分かるよ。

「おじいさんおばあさんとか兄弟とか、お手伝いさんは一緒じゃないの?」
「家族は他にいないよ。お手伝いさんなんているわけないじゃないか、僕のうちは中流階級だよ?」
「ちょっと! 急いで児相に通報して!! この子要保護観察!!」
「そんな血相変えて言われても、時代が時代だピコ……」

「まぁ両親の仕事が忙しいのは仕方ないんだけどね、大人は生活かかってるから」
「でも僕、知ってるんだ。パパは5日のうち3日は酒場で飲んだくれてるって!」
 ええ~~? アル中パパなの~~? ていうか7歳児に悟られンな!(怒)

「じゃあ5日のうち2日は何してるの?」
「酒場で警備員やってる」
 一応働いてるのね。でも3日飲んで2日働いての繰り返しかぁ……付ける薬なさそう。

「じゃあママは? 何してる人?」
「5日のうち3日はミュージカルスターの追っかけをしてる」
 ええ……? ないならもう私が児相作ろうかしら……。
「資金さえあればマリーヤなら頑張れると思うピコ」
 資金ね。(哀愁)

「じゃあ一応聞くけど、ママ、5日のうち2日は何してるの?」
「そのスターの所属事務所で『けいり』やってる」
 5日間ちゃんと経理やってくれればかっこいいワーママなのに!

「でもやっぱり帰らなきゃダメよ。仕方ないわね、おねえさんちょっとは時間あるから、汽車賃くれたらお家まで届けてあげる」
「7歳児にタカる怖いおねえさんピコ」

「これは家出なんだよ? 片道分しか持ってこなかったから、僕もう全然お金ないよ」
「えっ!!」
 必要な旅費が2倍になってしまった……。
「子どもは半額だから1.5倍ピコ」



 このおまる、誰か買い取ってくれないかな。需要なくはなさそうだけど、これのセールス営業に回るの、やっぱ恥ずかしいな。
「やだやだやだ!! もう1回行くの!!」
「そんなこと言っても無理なんだよ……」
 あら、どうしたのかしら。10歳くらいの女の子なんだけど、お家の前で駄々をこねて、お父さんが困っているわ。

「どうしたの?」
「ほら、小さい子に駄々っ子見られて恥ずかしいぞ」
 荷物が大きい。父娘で旅行に行くところか、それとも帰りかしら。

「実は、給料3ヶ月分つぎ込んで、フランポフルトでバレエ鑑賞をしてきたんだ」
 お父さん、娘のために奮発したのね。ほっこり。

「私、そこの売店でどうしても欲しいものがあったのに、汽車の時間に間に合わなくなりそうで買えなくて……うわぁぁん! もう1回フランポフルト行く~~!」
「もう無理だよ。この3ヶ月、パパの食事は黒パンとヤギの乳だけだったんだ」
 黒パンあるだけ羨ましい!

 そっか、せっかくの鑑賞記念にパンフレットとか欲しかったのね。
「あっ……それは」
 その時少女が、私の持っている袋から顔を出している白鳥に気付いたようで。

「私の欲しかったシィラサーギバレエ団の限定グッズ! 白鳥おまる!!」
 ええ~~? これレアグッズなの!? まぁ手作りだしね。
「この時代なんもかんも手作りだピコ」

「あの、それを譲っていただけないでしょうか。代わりに我が家の家宝を差し出すので」
 家宝!? 高く売れる!?

「どうかこの、代々きこりの我が家で未使用のまま飾られている、金の斧銀の斧鉄の斧3点セットと交換お願いします」
 金銀はともかく鉄は使えばいいのに。
「なんとなく白鳥おまるのが価値高そうだピコ~~」
 家宝に対して失礼よ。

「限定グッズはファンが持ってこそだと思っているのでいいですよ。交換しましょう」
「「ありがとうございます!!」」


 さて、鉄はともかく、金銀は売れば切符代にはなりそうじゃない? むしろお釣りくるかも。

「でももしかしたら、次はもっともーっと価値の高いものと換えられて、切符代プラスフランポフルトの高級ホテルデラックススイート宿泊代になるかもしれないピコ」

「いや~それは能天気過ぎるよ。エリザベースじゃないんだから、今はそんな甘言に引っ掛からないわ。でも確かに宿泊費も必要か」

「じゃあどこかで売る?」
「でも、そもそも金の斧銀の斧を適正価格で買える金持ちなんて、この田舎村にはいないピコ~~」

「ええ~~? ってことは、金の斧銀の斧を売るためにフランポフルトに行かなきゃいけないの!?」
 本末転倒。

「強いて言うなら、あの農場経営のおじさまピコ」
 すっ飛んで行く!


 ぴんぽんぴんぽ~~ん!  おじさま! 切符代ちょうだい!!
「交換取引はどこへピコ……」
「我が主人はさきほど北の国へビジネスに出かけて不在です。ぺこり」
 また何か大量に買ってきそうな予感!

「あ~~手っ取り早くこれを切符代にする方法~~!!」
「おねえちゃん、落ち着いて。慌てず、気長にね」
 子どもは気楽で良いわよね! あんた今夜どこで寝るつもりなの!?

「よし、もうこうなったら!」
「いいアイデア浮かんだピコ?」

「森の中の湖に直行よ!」
「「?」」
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