ガマンできない小鶴は今日も甘くとろける蜜を吸う

松ノ木るな

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登校 ~ いつもの4人グループ

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 「おはよう」とあちこちで生徒らは声を掛け合う。小学部とはいえやんごとない家格の子女の多く通う学び舎であり、品の良い挨拶が交わされる。
 しかし、里梨様が声を掛けられる機会はそれほどない。里梨様は一部の生徒らから忌避されている存在なのだ。

 たわいのない噂のせいだ。
 幼稚舎の頃、里梨様の級友が遊びのさなかに体調不良を訴えた…、綾鷹家の使用人も数名同様に…、そんな騒動の噂が保護者の間で囁かれるようになってしまった。

 当事者である里梨様が、“親しくしてくれる者があれば、それでいい。いなければ、それもいい”と考え、交友関係で思い煩うこともないのだから、我々使用人が干渉することではない。
 小学生であまりに達観しているといぶかられても、哀しいかな、そういったことは超越した方である。

 まぁ、教室に着けば障りはない。里梨様の名を呼ぶ甲高い声に出会えるだろう。



◇◆◇


 四月末の暖気に馴染む校庭の葉桜が、4年A組の教室の窓を鮮やかな若草色に縁取る。
 
「さとりん。ゴールデンウィークの職業体験レポート、何にするか決めた?」
 ぼうっと校庭を眺める里梨様に突如かかる声。その主は幼稚舎からの学友、金城かなしろつむぎ嬢だ。
 彼女が朝から放課後まで全ての休み時間、里梨様の元にやって来るのは窓際の席が暖かいから、というわけではない。
 
「おっ。オレにも聞けよ! オレは父さんのツテで休日署長するんだ」
 里梨様と親しむ級友はもうあとふたり、一族みな警察関係者、警視監の祖父を持つ九条みなと坊ちゃんと、
「結局親の職場潜入になるよな。綾鷹も大病院について書くんだろ」
 一般家庭の出だが飛びぬけたIQで入試を突破したと評判の菅原亮太りょうた君だ。彼らとは去年から親しくしている。

「たぶん。私も親に頼んでみないと」
 この言葉尻で少し下がったマスクを鼻筋にクイと戻す里梨様。その指先を目で追った湊君は、くるりとはねた睫毛に縁取られる大きな瞳に一時見惚れ、口が半開きになっていた。
「湊さ、そこらの警察署で一日署長なんて誰でもできるじゃないか」
「へっ?」
「そうよね。警視監の孫っていうのなら、警視庁のもっと深いところに入っていって、偉い人しか知らない情報をゲットして捜査に一役買うとか」
 紬嬢の提案は課題レポートの主旨を逸脱しているのだが。
「オレだって知ってるよ、機密情報!」
「おい、声が大きい!」
 機密なんだろっ? と亮太君は湊君の口を慌てて塞いだ。

「今ここらではスゲーふしぎなことが起きてるんだ。この“逆”事件を解明したら警察協力章を受章できるぜ」

「「「逆、事件?」」」

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