ガマンできない小鶴は今日も甘くとろける蜜を吸う

松ノ木るな

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狩りに行く

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 さて、と。
「里梨様?」
 彼女のためにバックドアを開いたが──。
「今日は助手席じゃ」
 伏し目がちな眼差しで圧力を掛けてくる。
「……はい」


 里梨様が助手席を所望するのはドライブ先リクエストのサイン。
 車に乗り込み直ぐにマスクを外す、彼女の第一声はこれだった。
「あまいあま~い香りがするのじゃ」
 左右の犬歯の先端がキラリと輝いた。

 来たか、と俺はギアを上げた。
 時々彼女は野生動物のように、どこかにいる“獲物”の存在を察知する。……超人的な力で。

「北東53度の方角に時速50キロで107分ってとこかの」
 それは何かといえば、ずっと先へ伸びる視覚、嗅覚。予知夢と合わせて絶対的な精度を誇る。
 対象物に接近すると、彼女はより精密な人間カーナビに様変わりする。

「久しぶりにドライブデートじゃな」
 頬を染めて何を言う。
 “狩り”に出向くとなり、気分の上がった彼女はこう、お調子者になるんだ。確かに目的地までは気楽なドライブだが。
「俺は毎日あなたを車で送迎していますが」
「助手席に乗ったではないか」
「助手席に乗ったらデートですか」
 
 

 校門を発って一時間というところ。辺りは長閑な風景に移り変わり、狭い歩道を行き交う人の数もまばらになる。
 そろそろこれを言葉にして伝えておかなくては。
「毎度口を酸っぱくして言っていますが……あまり無茶はしないでくださいね」
「なんじゃ。やきもちか?」
 彼女はここいちばんのトボケ顔で言葉を打ち返してきた。
「……やきもち??」
「わらわがおぬし以外の男とデートするのが気に食わんのじゃろ? あ、ちゃんと前を見ておれ!」
 おっと。俺としたことが。

「冗談よ。おぬしも分かっておろう、わらわの相手は男も女も関係なし、そして必ず一回こっきりじゃ」
 確かに“獲物”が女というケースもあった。その時も里梨様はためらいなく女を……。ん、ちょっと待て。
「なぜ俺はなだめられているんですか」
「はあ、腹が減ったのじゃ」

 彼女の、千里を見通す瞳のスクリーンに映し出された人間は、性別も年齢も、容姿、体質、素性も何ら問われず、みな一様に腹の中へ。

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