追放聖女アリアンロッドは過去も未来もあきらめない! ~救国の乙女は願いを胸に時の河を超える~

松ノ木るな

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【 第三章 】 復讐を果たしたら

⑤ 誘惑的な甘い蜜

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 帰宅して、外に干しておいた洗濯物を取り込んだアリアンロッドは、それをどこに片付けるのかフレイヤに聞いた。フレイヤはその隅のカゴへと返事した。

「このカゴでいいのかな」
 ふたを開けると、きらびやかな衣装が目に飛び込んできた。
「これ、フレイヤが着るには派手よね。誰のもの?」
「えっと、それは……」

 よく見るとそれは、踊り子のためのような裾の長い衣装だった。アリアンロッドが自分の身体に合わせてみたら、少し丈が足りない。

 そこにふたりの会話を聞いていたユンが寄ってきて、口を挟む。

「それはフレイヤが作ったんだ。フレイヤは何やらせても器用にこなす。あ、破るなよ」
「破らないわよ、着たら破れるのかもしれないけど」

 自分の背丈には小さめで合わない、と考えた時、あることに気付く。
 アリアンロッドはその衣装をユンの身体に合わせてみた。

「やっぱり。ぴったり」
 それはユンの丈だった。
「んん……?」
 自分の思い付きを顧みて、アリアンロッドの表情が固まる。

「誤解するなよ?」
「え?? あぁ、うん」
 固まった顔から冷や汗がふいた。頭の処理能力が追いつかない。

「別に俺にそういう趣味があるわけでないぞ。これは小道具なんだ」
 ユンはその衣装を自分の身体に当て、くるりと踊って見せた。
「こ、どう、ぐ?」
「敵討ちっていう舞台のためのな」
「……!」
 アリアンロッドはいったん言葉を失ったが、それはネガティブな反応ではない。

「ユン、これはあまり他人様にとって気分のいい話じゃないし……」
「フレイヤ、お前はもう話したんだろ、俺たちのこと。今は準備の真っ最中なんだから、詮索される前に話しておいたほうがいい。これが恐ろしいってんなら出ていけばいいんだ」

「ああ、その衣装あれだろ」
 ここで、暖炉で魚を焼いていたアンヴァルがやっと口を挟んだ。
「女の恰好で油断させておいて、敵を仕留めるつもりだな」
「まぁそうだ」
「!」
 いちいち仰天するアリアンロッドだった。

「でもあなた、まだ子どもじゃない。もう少し大人になるまで待てない?」
「子どもに敵討ちなんてできっこないっていうのか!?」

「そうじゃなくて。まぁそれもあるけど。いくら大人びた衣装を着たって、せいぜい背伸びした10歳の女の子にしか見えないわよ」
「馬っ鹿。俺が女装すればお前よりよっぽど多くの男を釣るぜ」

 そこでアリアンロッドが「なにを──!?」と叫んだ直後に、アンヴァルが「どっちもどっちだ!」と合いの手を入れた。

「とにかく、復讐なんてやめておけとか説教垂れるくらいなら出ていってくれ」
 ユンのそんな突っぱねた態度にアリアンロッドは。
「危険だとは思うけど……本当にやるなら協力するわよ、全力で」
「は?」

 アンヴァルは「ほらやっぱり」となる。

「そんなの聞いたら、居候としてはね。でも、それはいつ? 1年先とかいう話でもないのよね?」
「今すぐ、と言いたいところだけど、まだだ。事を確実にするあと一手が足りない……」

 その場の話はそこまでとなった。



 それから数日後のこと、4人は狩りと採集のため少し遠くに出かけることにした。

 出発の際、アリアンロッドは、ここにいる限り食事に困ることはなさそうだと、薬師マクリールのところで仕入れた蜜を小瓶に詰めかえ、間食用に持って出た。
 女子ふたりは平原で薬草や衣類の素材を集め、男子ふたりは森林の中へ進み、狩りをすることに。
 分かれ際、アンヴァルはアリアンロッドに、念のための木弓と矢を渡しておいた。


 アリアンロッドは作業を進めながら、フレイヤに尋ねる。
「あなたはユンのこと心配じゃない?」
「え?」

 敵討ちに出向くには、まだ彼は幼い、とアリアンロッドは考えている。彼は年齢よりずっと考えが大人びているというのも分かるのだが。

「もちろんそういう気持ちもあるけれど……。あの子にはあの子の計画や展望があって、私が止められることじゃないから。私は彼のためにできることをするだけ」
「展望?」
「それはあの子に聞くといいわ。それに私だって、もうとっくに正気じゃないの……。彼をけしかけているのは、私かもしれない」

 いつも明るい笑顔を絶やさない彼女の、陰った横顔が苦しげで、アリアンロッドはなんと慰めたらいいのか分からない。おいそれとこの話題を出してはいけないのだと実感した。

「ねぇ、これ食べてみて」
 場をやり過ごすために、持参した蜜とスプーンを差し出した。
「私の非常食なの。なかなかおいしいのよ」

 フレイヤはそれを一舐めしてみる。
「甘~い! とてもおいしい」
「でしょ。お腹いっぱいになるまで食べてみて」

 アリアンロッドもスプーンですくってぺろりと舐めてみた。そうこうしていたらすぐ満腹になってしまった。

「これ水と混ぜたら甘い飲み物になるかしら」
 そうフレイヤは近くの川の水を小瓶にすくい入れ、回すように振った。

「どう?」
 飲み干した彼女にアリアンロッドは興味深く尋ねる。
「おいしい! こんな甘い水は初めて。でももうお腹いっぱい」
 ふたりは機嫌よく採集にまた精を出した。


 その後アリアンロッドが用を足しに、フレイヤから離れた時のこと。
 動物の唸り声が後ろから聞こえ、フレイヤが振り向くと、大きな熊が近付いてきていたのだった。
「…………っ」
 彼女は焦りで声が出ない中、とにかく遠くへ逃げようと駆け出した。


 そこに戻ってきたアリアンロッドは、フレイヤの姿がないことを不審に思う。少し周りを見渡すと、近辺の土に2種の足跡が残っていた。
 置いていた弓を掴み、彼女は一目散に走った。



◇◆

 熊から逃れようと、林を無我夢中に走るフレイヤの力が、まさに底をつく一歩手前。窮地を迎えようとしている。
 川沿いに出て、右か左かと迷っているところで転んでしまった。足をひねったか、起き上がるのも叶わない。
「い、いや……」
 熊はなぜか執拗についてきて、もう逃げられないと諦めかけた。
「…………」
 しかし命は簡単に諦めきれず、力を振り絞って大声を放つ。

「ユン──! 助けて──!!」

 叫び声が上がったまさにその時だった。彼女に襲い掛かる熊のわき腹を、弓矢が射た。熊はその衝撃で平衡感覚を失い、更に2発目の矢で脚を撃たれ、それを引きずり、とうとう逃げていった。

「フレイヤ、大丈夫!?」
 弓矢の主、アリアンロッドが彼女に駆け寄る。
「アリー……」
 涙目のフレイヤはアリアンロッドに抱きつき、アリアンロッドもしばらく彼女を胸に抱え込み、背中を撫でていた。

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