追放聖女アリアンロッドは過去も未来もあきらめない! ~救国の乙女は願いを胸に時の河を超える~

松ノ木るな

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【 第四章 】 私が再会させてあげる!

④ 光の国へご案内

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 今日の午後、アリアンロッドはディオニソスと城下に出かける予定だ。昨日までの雨も止んで、気持ちの良い天気となった。
「絶対、雨が降ってきませんように!」
 今は清々しい朝、その約束を時間を心待ちにして、庭園の草深い小路をぐるりと散歩している。

 浮かれ気分で跳ねるような足取りの中、後方から足音が聞こえてきたことで振り向いたら、先日会った隣国の先代王がふらふらと小幅で歩いてきた。供の者は牽制されたか、後ろから遠慮がちに随伴している。
 腕を前に出し、一歩ずつ確認しながら踏み出す彼を見てアリアンロッドは、身体ごと振り返り、
「王様、私と腕を組んで歩いていただけませんか?」
と声をかけてみた。

「おお、そのお声は、先日お会いした聖女殿ですかな?」
 少し話しただけなのによく覚えているなと驚いた。
 ここでやっと、彼について彼女は真相を得た。
「ええ、アリアンロッドです」
「ぜひ」
 やはり彼は盲目だった。
 アリアンロッドは供の者に、私が付いているから大丈夫と休憩を促した。


 ふたりは王宮の端を流れる小川の岸辺に着き、ゆっくり会話を楽しもうと丸太のベンチに腰を落とす。
「──まったく見えないわけではないのだけれどね。明るさで昼か夜かくらいは分かる。ただ、あなたのお顔は分からない、残念だ」
 アリアンロッドがそれは昔からなのかと尋ねたら、数年前に患った病で視力を失い、それを期に退位したと彼は語った。

「実は目だけでなく、足も不自由なのだ。やはり視力を失ってからというもの、行動が制限されてね」
「それはおいたわしいことです」
「それでもこのような可愛らしい姫君にご同伴いただけるのなら、役得というものだ」
「可愛らしいだなんて」
 そう言われてまんざらでもない。

「私は現役の頃ね、弟を影武者にして、まれにこちらの国に忍んで遊びに来ていたのだよ」
 アリアンロッドは、やはりどこの国の王も自由に出かけようと工夫しているではないか、と仲間意識で嬉しくなった。

「商人と仲良くなっていろいろな品を買わせてもらった。その頃からあなたの国はよく発展していて、我が国などとても敵わないと分かっていたよ」
「それではそんな私の国と、有事の際には共闘していただけるのでしょうか?」
「そうだね、できれば前向きに考えたいが……」

 アリアンロッドにも分かっている。彼らの国にも東国の脅威は伝わっているだろう。ここで安易に我が国と、など即答できるはずもない。
「あの。何か、我が国に思い入れあってのお忍びだったのですか? だって王が代役を立てて……なんて簡単なことではないし」
 アリアンロッドはいったん話題を戻してみた。彼のことをもっと知れば、何か良い手掛かりが掴めるかもしれないと。

「そう。実はね、人を探していたのだが……」
「探し人?」

 彼はうなずいた。しかしアリアンロッドが待っても、それ以上彼は話を続けなかった。

 少し沈黙が続き、話題を大きく逸らしたのは彼の方だった。
「あなたの国では歌劇が流行しているのだってね。舞台を後日見せていただけると聞き、家来たちも楽しみにしているよ」
「ここ10年くらいの歴史の、新しい団体ですが。これから良い方に向かってくれればと思います」
「?」
 アリアンロッドの複雑な気分を、彼は読み取った。

「だって、元々は純粋に演芸のための一団だったと思う。でも今は高官への、娘たちの斡旋あっせんが目的なんですよ!」

 徐々に過熱していく彼女に、先代王は下手なことは言えない状況となる。聞き役に徹するしかない。

「それでも一晩だけの売買よりは、まだマシだから。どちらにしても舞台が娘の品評の場みたいで、納得しかねるけど」
 もはやアリアンロッドのそれは愚痴の独り言だ。

「世の常識かもしれないけど、そもそも、男性はよく平気で何人もの妻を囲えるわねって思います。……あ、あなたも王だから、そういう女性はたくさんいるのですよね、失礼」
「私はふたりだ」
「あら、意外に少ない」
「ふたりでもとても手に負えなかったよ。ひとりで十分だな、妻は」
 王はそう言って苦笑いを浮かべた。

 その時、地面が大きくぐらっと揺れた。

「! 地震!?」
 アリアンロッドは慌てて立ち上がる。
「大丈夫だから! 落ち着いて! 落ち着いて!」
 いつの時代もいちばん慌てているのは、他人に落ち着けと言う人間だ。
「ちゃんと座っていれば、すぐ収まるはず……!?」
 慌て過ぎたアリアンロッドはふらりと体勢を崩し、先代王の方に向かって倒れかけた。

 そして彼の頭にぐっと胸から抱きついた瞬間に、例の、あの感じはきたのだった。
「あ……!!」

────とんで……いっ……ちゃ……



 
◇◆◇


 意識がはっきりしたアリアンロッドの視界に、爽やかな木々の景色が広がる。
 彼女はそのまま、先代王の頭を胸に抱きしめていた。
「んんー、んっんっ」
「きゃっ…! ごめんなさいっ!」
 胸元で苦しそうな彼を慌てて解放する。
「ふぅ……」
 とりあえず呼吸に不自由しなくなった先代王は、目を見開いた。

「大丈夫ですか? 深呼吸してください」
「…………」
 心配そうに顔を覗くアリアンロッドの目を、彼は言葉なく見つめる。
 この時、あれれ? とアリアンロッドは違和感を覚えた。

「…………」
 彼は無言のまま、次に自分の両手を胸元に眺める。そして今度は首をゆっくり回して辺りを見渡すのだった。
「王様、まさか……」

 彼の瞳に光が灯る。

「見える……これはどうしたことだ……」
「見えるんですか!?」
「ああ、見える。見えるぞ! ここは光の国だろうか!」
 彼は溢れる感動で、アリアンロッドの肩を抱きしめた。

「良かった……本当に、良かったです。……でも」
 アリアンロッドは不安になった。ここは元の林ではない。
 またどこか未知の世界に吹き飛ばされ、こういったふしぎなことまで起こった。

 つまり、この奇跡はここにいる間だけなのではと。それは勘でしかないが、アリアンロッドはそう感じるのであった。

「王様、私の話を聞いてください」
 彼はアリアンロッドの真剣な目を見た。
「ここは今まで私たちがいた処ではないです」
 草木の生い茂る林の際にいて、そばを流れていた小川もない。
「神にかどわかされ訪れた、夢の世界かもしれない」

「ああ……きっと夢だろう……。それでもこんな彩り豊かな美しい夢は、幾年ぶりだろう」
 先代王の目には涙が滲んでいた。
「この夢から覚めるまで、あらゆる景色を愛おしむことは、許されるだろうか」
「……ええ。ええ! きっと許されるわ。ここから出て、美しい風景を眺めましょ!」

 先代王は意気揚々と立ち上がった。
「おおっと」
 が、足まではやはり元のまま。ふたりはゆっくり歩いてそこを離れた。

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