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【 第六章 】 舞台裏
⑤ 探しものはなんですか?見つけにくいものですか?
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アリアンロッドはうららかな夢の中にいた。周りを見渡しながら、あてどなく歩を進めると、
花畑の真ん中で、ストロベリーブロンドの可愛らしい少女が花冠を作っている。
(あっ、あの美少女は……。このあいだ夢でみた、聖女に覚醒する前のお母様……)
その娘もアリアンロッドに気付き、すまし顔になった。
『あら、ここに人が来るなんて珍しいわ。あなたも一緒にここで遊ぶ?』
「え、ええ……」
(御母様も大聖女としての重圧に、日々耐えている。こうやって夢の世界で幼き日に戻って、自由に駆け回っているのね……。)
暖かい花畑でふたりは、しばらく綿毛を飛ばしたりして遊んでいた。その空気に馴染んできたアリアンロッドが、気の抜けた様子で少女に語りかける。
「気持ちいい……ずっとこんな夢のなかにいたいな」
『うん。気持ちいいよね。でもここには花畑しかないわよ?』
「……でも、ここには衝突も絶望もないのでしょ」
アリアンロッドの表情に暗い影が差す。たとえ狭くても、心地よさしかない世界に閉じこもっていたいと思ってしまった。
『もちろん。ここには他に人がいないから。衝突なんて起きるわけないわ』
「あなたはここに独りでいるの? ご家族は一緒じゃないの?」
『まだ家族のところには行けないの。待っててもらってる』
「あなたは強いわね」
アリアンロッドは、現在の大聖女を思い起こし、“強い人は子どもの頃から強かったんだ”と、なのになぜ自身が神に選ばれてしまったのか、悔恨の思いに駆られた。
『あなたは? 衝突も絶望もある世界で、あなたを待っている人はいないの?』
純真無垢な年頃の少女が訳知り顔で聞いてくる。
「……いるわ」
目の前の少女はやはり、年齢にそぐわぬ成熟した、含みのある表情で言葉を畳み掛ける。
『あなたを支えてくれる人は? 慈しんでくれる人は?』
「いる……」
『それって幸せなことね』
その時アリアンロッドの目から涙がこぼれ落ちた。アリアンロッドはそんな世界でも、やっぱり一日でも長く、大好きな人たちと一緒にいたいと願うたび、心の底から幸せで涙がこぼれるのだった。
少女は次に、そんな彼女に、子どもにしてはずいぶん大らかな表情で、こう檄を飛ばした。
『ひとつヒントをあげるから、まだくじけないで! まっすぐ前を見て歩んでいる限り、あなたの道は拓かれるの』────
「小さな御母様……?」
辺りは少しだけ明るくなっていた。目覚めたアリアンロッドは上半身を起こし、真正面の棚にふと、目をやる。
そこに、現実にはそのようなことは起こらないのだろうが、ほんのり円やかな光が浮かんでいるようで、彼女の目線はそこへ導かれた。
「! ……ヴァル。ねぇ、ヴァル」
隣の彼をゆすって起こす。
「……む?」
「ねぇ、たくさんの本を確認してきたけど、しおりが挟んである本ってあった?」
「ん──、しおりは1度も見てないな」
アリアンロッドは四つん這いのまま、真正面、下から2段目の書棚を指さす。
分厚い書籍が並ぶ中、一冊だけ、挟まれた紙きれがひょっこり頭を出しているものがあった。
「!」
アンヴァルも息を呑む。
アリアンロッドはすっと手を差し伸べて、その本を引き出し、紙の挟まれているところを開く。すると4つ折りにされた、少し厚い紙があった。
緊張感を持ってそれを広げてみると────
「……良かったな」
「うん!」
「さぁ、早くここを出ないと見つかってしまう」
アリアンロッドは手に入れた港譲渡書を胸元にしまい、書斎から抜け出した。ちなみに彼女の推測どおり、書を隠していたのは「雰囲気の良い本」だったようだ。
ふたりは拠点とした1階の物置き部屋に戻った。
一時仮眠を取ったら、侍女服のアリアンロッドが調理場へ行き、食料をかっさらってきた。ここから1日かけて、もうひとつの、目的の品を探すことになる。
「それで、持ち帰りたいもうひとつのモノとは?」
アンヴァルの溜め息混じりの声音に、アリアンロッドは周りに人などいないのにキョロキョロと見回して、彼の耳元でこっそりと打ち明けた。
「はぁ!? 3つある伝説の武器の、残りだと!?」
「しっ。声が大きい」
「お前、呪いを信じ込んで敬遠してたじゃないか」
「今でも呪いは信じてるよ」
「だったらなんで?」
「…………」
だって、もう死ぬことが分かってる、とは言えない。
その呪いでどんな不幸に陥ろうとも、自らの死、愛しい人の死を超える不幸などありはしない。もう怖いものはない。
だとしたら、その武器で最大の力を引き出して戦いたい。それで大切な誰かを守れるのなら。
「私だって戦場で、“さいきょう”の武器で戦ってみたいっていう浪漫よ」
「なんだよそれ。聖女にそんな危ないことさせられるわけないだろう」
「私だってずっと自分の身を守るための戦技を習ってきたんだもの! それに、みんなが戦っているのをただ眺めていられるわけがない」
語気を強めるアリアンロッドに、アンヴァルはここで何を言おうとも無駄だと悟り、話を先送りした。
「で、その武器って何なんだ?」
「知らない」
「はぁ? 知らないものを探すってお前」
「だってイナンナは、そこまで説明してくれなかったんだもん。ただ3種の武器が3つの部屋に分けて飾ってあるってだけ」
アンヴァルはいつもの呆れ顔になる。どんな武器か分からないのなら、それが扱えるかも期待薄ではないかと。アリアンロッドの使えないものなら取ってやろうとも企んだ。
「ひとつが鎌、それは離れの右の部屋。ひとつはクロスボウ、離れの左の書斎。もうひとつは、どこなんだろうな」
「きっともうひとつはこちら側、この4階建ての屋敷のどこかよ。離れは他に部屋がないし」
「ならその勘を信じて、全部の部屋をくまなく探そう。制限時間は今日の日没までだから、わりとあるが」
「飾ってあるっていうくらいだから隠してはなさそうだし、全室見ればどこかで見つかるよね。というか誰が飾ったんだろう」
「1階で1年前の俺たちに鉢合わせしないよう、気を付けろよ」
「そっちも倉庫周辺でぶつからないようにね」
こうしてアリアンロッドが1・2階、アンヴァルは3・4階と、それぞれ担当の階へ出ていった。
◇◆
アリアンロッドは注意深く、廊下と部屋を行き来していた。部屋数がさほど多くないので、1時間もあれば担当の階はすべて見て回れる。
「武器らしいものは見当たらないなぁ……」
落胆した彼女は、希望を持てないまま上層のアンヴァルを探しに行くことに。
4階に上がったらちょうど彼のほうも回り終えていた。こそこそと隅の客室に隠れ、ふたりは報告し合う。
「書斎のクロスボウ同様、掲げてあるだけなら、壁を見て回れば見つかるはずだよな?」
「しまってあるなんてことあるのかな。それか、隠し部屋なんてものがあったりして。ヴァル、もうちょっと調べてみて」
アリアンロッドは言いながら立ち上がった。
「私は、こうなったらメイドに聞き込みしてみる」
「怪しまれないか?」
「ひとり、アテがあるから」
首を傾げるアンヴァルを尻目に、彼女はそこを出て、厨房に向かった。
花畑の真ん中で、ストロベリーブロンドの可愛らしい少女が花冠を作っている。
(あっ、あの美少女は……。このあいだ夢でみた、聖女に覚醒する前のお母様……)
その娘もアリアンロッドに気付き、すまし顔になった。
『あら、ここに人が来るなんて珍しいわ。あなたも一緒にここで遊ぶ?』
「え、ええ……」
(御母様も大聖女としての重圧に、日々耐えている。こうやって夢の世界で幼き日に戻って、自由に駆け回っているのね……。)
暖かい花畑でふたりは、しばらく綿毛を飛ばしたりして遊んでいた。その空気に馴染んできたアリアンロッドが、気の抜けた様子で少女に語りかける。
「気持ちいい……ずっとこんな夢のなかにいたいな」
『うん。気持ちいいよね。でもここには花畑しかないわよ?』
「……でも、ここには衝突も絶望もないのでしょ」
アリアンロッドの表情に暗い影が差す。たとえ狭くても、心地よさしかない世界に閉じこもっていたいと思ってしまった。
『もちろん。ここには他に人がいないから。衝突なんて起きるわけないわ』
「あなたはここに独りでいるの? ご家族は一緒じゃないの?」
『まだ家族のところには行けないの。待っててもらってる』
「あなたは強いわね」
アリアンロッドは、現在の大聖女を思い起こし、“強い人は子どもの頃から強かったんだ”と、なのになぜ自身が神に選ばれてしまったのか、悔恨の思いに駆られた。
『あなたは? 衝突も絶望もある世界で、あなたを待っている人はいないの?』
純真無垢な年頃の少女が訳知り顔で聞いてくる。
「……いるわ」
目の前の少女はやはり、年齢にそぐわぬ成熟した、含みのある表情で言葉を畳み掛ける。
『あなたを支えてくれる人は? 慈しんでくれる人は?』
「いる……」
『それって幸せなことね』
その時アリアンロッドの目から涙がこぼれ落ちた。アリアンロッドはそんな世界でも、やっぱり一日でも長く、大好きな人たちと一緒にいたいと願うたび、心の底から幸せで涙がこぼれるのだった。
少女は次に、そんな彼女に、子どもにしてはずいぶん大らかな表情で、こう檄を飛ばした。
『ひとつヒントをあげるから、まだくじけないで! まっすぐ前を見て歩んでいる限り、あなたの道は拓かれるの』────
「小さな御母様……?」
辺りは少しだけ明るくなっていた。目覚めたアリアンロッドは上半身を起こし、真正面の棚にふと、目をやる。
そこに、現実にはそのようなことは起こらないのだろうが、ほんのり円やかな光が浮かんでいるようで、彼女の目線はそこへ導かれた。
「! ……ヴァル。ねぇ、ヴァル」
隣の彼をゆすって起こす。
「……む?」
「ねぇ、たくさんの本を確認してきたけど、しおりが挟んである本ってあった?」
「ん──、しおりは1度も見てないな」
アリアンロッドは四つん這いのまま、真正面、下から2段目の書棚を指さす。
分厚い書籍が並ぶ中、一冊だけ、挟まれた紙きれがひょっこり頭を出しているものがあった。
「!」
アンヴァルも息を呑む。
アリアンロッドはすっと手を差し伸べて、その本を引き出し、紙の挟まれているところを開く。すると4つ折りにされた、少し厚い紙があった。
緊張感を持ってそれを広げてみると────
「……良かったな」
「うん!」
「さぁ、早くここを出ないと見つかってしまう」
アリアンロッドは手に入れた港譲渡書を胸元にしまい、書斎から抜け出した。ちなみに彼女の推測どおり、書を隠していたのは「雰囲気の良い本」だったようだ。
ふたりは拠点とした1階の物置き部屋に戻った。
一時仮眠を取ったら、侍女服のアリアンロッドが調理場へ行き、食料をかっさらってきた。ここから1日かけて、もうひとつの、目的の品を探すことになる。
「それで、持ち帰りたいもうひとつのモノとは?」
アンヴァルの溜め息混じりの声音に、アリアンロッドは周りに人などいないのにキョロキョロと見回して、彼の耳元でこっそりと打ち明けた。
「はぁ!? 3つある伝説の武器の、残りだと!?」
「しっ。声が大きい」
「お前、呪いを信じ込んで敬遠してたじゃないか」
「今でも呪いは信じてるよ」
「だったらなんで?」
「…………」
だって、もう死ぬことが分かってる、とは言えない。
その呪いでどんな不幸に陥ろうとも、自らの死、愛しい人の死を超える不幸などありはしない。もう怖いものはない。
だとしたら、その武器で最大の力を引き出して戦いたい。それで大切な誰かを守れるのなら。
「私だって戦場で、“さいきょう”の武器で戦ってみたいっていう浪漫よ」
「なんだよそれ。聖女にそんな危ないことさせられるわけないだろう」
「私だってずっと自分の身を守るための戦技を習ってきたんだもの! それに、みんなが戦っているのをただ眺めていられるわけがない」
語気を強めるアリアンロッドに、アンヴァルはここで何を言おうとも無駄だと悟り、話を先送りした。
「で、その武器って何なんだ?」
「知らない」
「はぁ? 知らないものを探すってお前」
「だってイナンナは、そこまで説明してくれなかったんだもん。ただ3種の武器が3つの部屋に分けて飾ってあるってだけ」
アンヴァルはいつもの呆れ顔になる。どんな武器か分からないのなら、それが扱えるかも期待薄ではないかと。アリアンロッドの使えないものなら取ってやろうとも企んだ。
「ひとつが鎌、それは離れの右の部屋。ひとつはクロスボウ、離れの左の書斎。もうひとつは、どこなんだろうな」
「きっともうひとつはこちら側、この4階建ての屋敷のどこかよ。離れは他に部屋がないし」
「ならその勘を信じて、全部の部屋をくまなく探そう。制限時間は今日の日没までだから、わりとあるが」
「飾ってあるっていうくらいだから隠してはなさそうだし、全室見ればどこかで見つかるよね。というか誰が飾ったんだろう」
「1階で1年前の俺たちに鉢合わせしないよう、気を付けろよ」
「そっちも倉庫周辺でぶつからないようにね」
こうしてアリアンロッドが1・2階、アンヴァルは3・4階と、それぞれ担当の階へ出ていった。
◇◆
アリアンロッドは注意深く、廊下と部屋を行き来していた。部屋数がさほど多くないので、1時間もあれば担当の階はすべて見て回れる。
「武器らしいものは見当たらないなぁ……」
落胆した彼女は、希望を持てないまま上層のアンヴァルを探しに行くことに。
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「書斎のクロスボウ同様、掲げてあるだけなら、壁を見て回れば見つかるはずだよな?」
「しまってあるなんてことあるのかな。それか、隠し部屋なんてものがあったりして。ヴァル、もうちょっと調べてみて」
アリアンロッドは言いながら立ち上がった。
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