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【 第九章 】 運命が許さなくても
⑦ 君がいるだけで心が強くなれること
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明くる日のために、眠りの中でどうにか生気を養わねばならない、のに────
『ふむ。亡霊じゃな』
ふよふよと飛び回る“彼女”を尻目に、やっぱりそうなのか、と彼は肩を落とした。
『悪霊は直接手を掛けるものではない』
「でも“殺される!”って思うんだ。どんなに逃げても追いかけてきて……」
『そしてじわじわ疲弊する。それが祟りの恐ろしいところじゃな。そなた、こう思うておるのじゃろ? “どうせ敵うわけない。敵は抗えぬ未知の力だから”。そう怯えておるから、より大きく見えるのじゃ。見えているものが真実の姿とは限らぬ』
「そう言われましても。……俺は剣を突き刺すが、敵に当たる感触がない。戦えないのに襲い掛かってくる、振り払わずにいられないっ……!」
『しっかり憑りつかれておるのう。そのまま国に連れては帰るなよ』
彼は真剣に悩んでいるのに、茶化されているようで腹立たしい。今すぐにでも帰りたい。
『そなたの考え、更にはこうじゃろう? 別に亡霊退治なぞ己の仕事ではない、地縛霊なら自分はここを離れれば、それ以上関わることもない』
アンヴァルとしては、だってこれは俺の仕事じゃないし、としか言いようがない。
『何か憑りつかれる原因が、そなたにあるのではないか?』
その問いには、きょとんとなる。
(身に覚えなどないが……。)
あの石碑に出向いたくらいか、と記憶を辿るが、しかしそこで無作法をしたわけでもない。
『ただ敵が悪霊であるなら、人同士の争いより打ち破るのは容易いぞ。心の強さでいかようにもなるからな』
「心の強さ……」
まだ彼には得心できなかった。
◇◆
「アンヴァル様、昨晩も眠れませんでしたの?」
ローズは目の下にくまをこしらえた彼を、深く心配している。
「先日の満月の夜は、怪しげな物が出なかったのですよね。でしたら寝室に丸い木板を掲げましょう」
「ん? 板ならここにもあったはず」
アンヴァルはそれがあったはずの部屋の隅に目をやった。
「どこにもありませんわ」
「そうか? あったと思ったが……」
「では、他のお部屋から拝借いたしましょう」
ローズは彼を引っ張って立ち上がらせた。
◇
「ここ、あの時の部屋じゃないか……」
「だってここ、使用目的が割れている処ですし」
3人で覗いた例の寝室だ。アンヴァルは早速、板を見つけたので借りていくことにする。
「あら、この鏡」
王に渡した鏡が、テーブルに置かれているのをローズは見つけた。
「国からの土産をずいぶん雑な扱いだな」
それに価値を見出していない者にしてみたら、確かにただの鏡であった。
「おふたりでお使いになっていたのではないでしょうか」
「?」
「そちらで」
ローズの白い手が差すのは、そこの、大きなベッドであった。
「…………」
アンヴァルは即刻げんなりした顔に。
「さぁ、早く出よう」
アンヴァルがさっさと出ていった直後、ローズは髪を整えたくて、足を留めて、その鏡を覗いてみた。
「あら? これは……」
そして翌日。久々に深い眠りから醒めたアンヴァルは、自室に掲げた例の木の板が真っ二つに割られているのに気付いた。
木などいくらでも用意できるものだが、まったく気分のいいものではない。
食事を運んできたマリルも不安げに呟く。
「これは悪霊の仕業でしょうか」
「亡霊が木を割るか? いかにも人間の嫌がらせだ」
「しかし、外からいらっしゃったあなたを疎む者など、ここには……」
「早く帰れって言われてるんだな。マリル、とにかく王に早く結論を出すよう進言してくれ」
「分かりました……」
マリルがそこを出たら、ちょうどローズが、足早にどこかへ向かうところだった。マリルの目に飛び込んできた、ローズの手にあるものは、丸い木板であった。
「アマリリス様、お急ぎでどうかされました?」
「あら、いいえ」
ローズは彼女が手に持つ物を見つめてくるので、意識を逸らすために、これを聞く。
「あの日、あの石碑に案内してくださった時……私は男女の仲を取り持つような、ご利益のあるところ、とお願いしましたわよね」
「ええ」
「もちろんそんなところ、当たり前にあるものでもないので、ただ言ってみただけですが……あなたはあるとはっきりお答えなさって、私は少々驚いたのです」
マリルは表情を変えずに、ローズの言葉を聞いていた。
「しかしあそこは慰霊碑でした。どういうことですかしら」
「私も詳しくはないのですが、あの石碑は慰霊のためと同時に、夫婦が永遠に仲良くあるようお祈りにいく処なのです」
「夫婦?」
「仲違いした男女の仲を取り持ってくださるようにと、月の神に人々が祈りを捧げる聖地のようですよ」
ローズはまだ釈然としないようだが、人の信心の集った処だということで納得はした。そして彼女は小走りで、どこかへ向かった。
あれから3日たったが、アンヴァルがマリルに要請したことはまだ聞き入れられていない。
『気長にいくのじゃ。そなたも下の者らと共に、海で遊んでおれば良かろう』
「色よい返事をもらえるかどうかも分からないのに、遊んでなどいられますか! まだ毎晩亡霊が襲ってくるし……。あなたは俺の夢に出てくるだけで、あれを追い払ってくれたりしないのですか」
『私は除霊師ではない! 私はこれでも国の元大聖女じゃぞ! まったく、霊体になった途端、これほど無下に扱われるとは』
憤慨しているように見せながらも、彼女はそれほど不機嫌ではなかったりする。
『のう、アンヴァル。せっかく此度はこの夢でアリアンロッドの姿を見せてやろうと思うておったのじゃが。そなたが態度を改めぬとなるとなぁ?』
「夢??」
『ふふん。実に有力な聖女は他者に夢で映像を見せることもできるのじゃ。真に熟練した聖女のみ、使える秘技ぞ。アリアンロッドには逆立ちしたってどだい無理じゃ』
実は彼女、現在霊魂なので力が鞘に収まっていない状態である。生者の頃より底抜けの力を発揮する存在なのだ。
「へえ……。いや、そんなことありえるのか?」
『なんじゃそなた、信じとらぬな!?』
「だって俺は凡人ですから、そんなの信じられませんね」
『よし、ならば見せてやろう。額を合わせるぞ』
などと言いながら突進してくるその顔に、アンヴァルはたじろいだ。
「ひっ……」
『照れずともよい。私はただの霊体じゃ。それ!』
「……アリア?」
早速アンヴァルの視界にアリアンロッドが映った。彼の視える映像では、彼女は野外にいて、素肌の出ない衣服をまとっている。周囲には人だかりだ。
(忍んでどこかに出かけているのか)
今、彼女は膝を折って座り込んで、何かをじっと眺めている。
『これが今現在のアリアンロッドじゃ。城下街の……どうやら何かの市におるのう』
アンヴァルは黙ってしまったので、久しぶりにアリアンロッドの顔を見て感激しているのだと、彼女は満足げだ。
そこで夢の中のアリアンロッドは何かを手にする。それを目を大きく開けて見つめ、彼女は微笑んだ。
「あれは、首飾り?」
『おお、そこは装飾品の市じゃな。手にしておるのは、紫水晶の首飾りかの』
次にアリアンロッドは、顔を違う方に向けた。
『あ』
霊体の彼女は手を叩き、ばちっとその夢の像を止めた。アンヴァルはその拍子で我に返った。
『こ、ここまでじゃ。そなた、これで私の力を信じたじゃろう!』
「ああ……」
首飾りか……とぼんやり思ったアンヴァルは、それからも引き続きぼんやりしていた。そんな彼を横目に霊体の彼女は、大聖女がひとりで市に出ているわけもないか、と小さく呟いた。
『ふむ。亡霊じゃな』
ふよふよと飛び回る“彼女”を尻目に、やっぱりそうなのか、と彼は肩を落とした。
『悪霊は直接手を掛けるものではない』
「でも“殺される!”って思うんだ。どんなに逃げても追いかけてきて……」
『そしてじわじわ疲弊する。それが祟りの恐ろしいところじゃな。そなた、こう思うておるのじゃろ? “どうせ敵うわけない。敵は抗えぬ未知の力だから”。そう怯えておるから、より大きく見えるのじゃ。見えているものが真実の姿とは限らぬ』
「そう言われましても。……俺は剣を突き刺すが、敵に当たる感触がない。戦えないのに襲い掛かってくる、振り払わずにいられないっ……!」
『しっかり憑りつかれておるのう。そのまま国に連れては帰るなよ』
彼は真剣に悩んでいるのに、茶化されているようで腹立たしい。今すぐにでも帰りたい。
『そなたの考え、更にはこうじゃろう? 別に亡霊退治なぞ己の仕事ではない、地縛霊なら自分はここを離れれば、それ以上関わることもない』
アンヴァルとしては、だってこれは俺の仕事じゃないし、としか言いようがない。
『何か憑りつかれる原因が、そなたにあるのではないか?』
その問いには、きょとんとなる。
(身に覚えなどないが……。)
あの石碑に出向いたくらいか、と記憶を辿るが、しかしそこで無作法をしたわけでもない。
『ただ敵が悪霊であるなら、人同士の争いより打ち破るのは容易いぞ。心の強さでいかようにもなるからな』
「心の強さ……」
まだ彼には得心できなかった。
◇◆
「アンヴァル様、昨晩も眠れませんでしたの?」
ローズは目の下にくまをこしらえた彼を、深く心配している。
「先日の満月の夜は、怪しげな物が出なかったのですよね。でしたら寝室に丸い木板を掲げましょう」
「ん? 板ならここにもあったはず」
アンヴァルはそれがあったはずの部屋の隅に目をやった。
「どこにもありませんわ」
「そうか? あったと思ったが……」
「では、他のお部屋から拝借いたしましょう」
ローズは彼を引っ張って立ち上がらせた。
◇
「ここ、あの時の部屋じゃないか……」
「だってここ、使用目的が割れている処ですし」
3人で覗いた例の寝室だ。アンヴァルは早速、板を見つけたので借りていくことにする。
「あら、この鏡」
王に渡した鏡が、テーブルに置かれているのをローズは見つけた。
「国からの土産をずいぶん雑な扱いだな」
それに価値を見出していない者にしてみたら、確かにただの鏡であった。
「おふたりでお使いになっていたのではないでしょうか」
「?」
「そちらで」
ローズの白い手が差すのは、そこの、大きなベッドであった。
「…………」
アンヴァルは即刻げんなりした顔に。
「さぁ、早く出よう」
アンヴァルがさっさと出ていった直後、ローズは髪を整えたくて、足を留めて、その鏡を覗いてみた。
「あら? これは……」
そして翌日。久々に深い眠りから醒めたアンヴァルは、自室に掲げた例の木の板が真っ二つに割られているのに気付いた。
木などいくらでも用意できるものだが、まったく気分のいいものではない。
食事を運んできたマリルも不安げに呟く。
「これは悪霊の仕業でしょうか」
「亡霊が木を割るか? いかにも人間の嫌がらせだ」
「しかし、外からいらっしゃったあなたを疎む者など、ここには……」
「早く帰れって言われてるんだな。マリル、とにかく王に早く結論を出すよう進言してくれ」
「分かりました……」
マリルがそこを出たら、ちょうどローズが、足早にどこかへ向かうところだった。マリルの目に飛び込んできた、ローズの手にあるものは、丸い木板であった。
「アマリリス様、お急ぎでどうかされました?」
「あら、いいえ」
ローズは彼女が手に持つ物を見つめてくるので、意識を逸らすために、これを聞く。
「あの日、あの石碑に案内してくださった時……私は男女の仲を取り持つような、ご利益のあるところ、とお願いしましたわよね」
「ええ」
「もちろんそんなところ、当たり前にあるものでもないので、ただ言ってみただけですが……あなたはあるとはっきりお答えなさって、私は少々驚いたのです」
マリルは表情を変えずに、ローズの言葉を聞いていた。
「しかしあそこは慰霊碑でした。どういうことですかしら」
「私も詳しくはないのですが、あの石碑は慰霊のためと同時に、夫婦が永遠に仲良くあるようお祈りにいく処なのです」
「夫婦?」
「仲違いした男女の仲を取り持ってくださるようにと、月の神に人々が祈りを捧げる聖地のようですよ」
ローズはまだ釈然としないようだが、人の信心の集った処だということで納得はした。そして彼女は小走りで、どこかへ向かった。
あれから3日たったが、アンヴァルがマリルに要請したことはまだ聞き入れられていない。
『気長にいくのじゃ。そなたも下の者らと共に、海で遊んでおれば良かろう』
「色よい返事をもらえるかどうかも分からないのに、遊んでなどいられますか! まだ毎晩亡霊が襲ってくるし……。あなたは俺の夢に出てくるだけで、あれを追い払ってくれたりしないのですか」
『私は除霊師ではない! 私はこれでも国の元大聖女じゃぞ! まったく、霊体になった途端、これほど無下に扱われるとは』
憤慨しているように見せながらも、彼女はそれほど不機嫌ではなかったりする。
『のう、アンヴァル。せっかく此度はこの夢でアリアンロッドの姿を見せてやろうと思うておったのじゃが。そなたが態度を改めぬとなるとなぁ?』
「夢??」
『ふふん。実に有力な聖女は他者に夢で映像を見せることもできるのじゃ。真に熟練した聖女のみ、使える秘技ぞ。アリアンロッドには逆立ちしたってどだい無理じゃ』
実は彼女、現在霊魂なので力が鞘に収まっていない状態である。生者の頃より底抜けの力を発揮する存在なのだ。
「へえ……。いや、そんなことありえるのか?」
『なんじゃそなた、信じとらぬな!?』
「だって俺は凡人ですから、そんなの信じられませんね」
『よし、ならば見せてやろう。額を合わせるぞ』
などと言いながら突進してくるその顔に、アンヴァルはたじろいだ。
「ひっ……」
『照れずともよい。私はただの霊体じゃ。それ!』
「……アリア?」
早速アンヴァルの視界にアリアンロッドが映った。彼の視える映像では、彼女は野外にいて、素肌の出ない衣服をまとっている。周囲には人だかりだ。
(忍んでどこかに出かけているのか)
今、彼女は膝を折って座り込んで、何かをじっと眺めている。
『これが今現在のアリアンロッドじゃ。城下街の……どうやら何かの市におるのう』
アンヴァルは黙ってしまったので、久しぶりにアリアンロッドの顔を見て感激しているのだと、彼女は満足げだ。
そこで夢の中のアリアンロッドは何かを手にする。それを目を大きく開けて見つめ、彼女は微笑んだ。
「あれは、首飾り?」
『おお、そこは装飾品の市じゃな。手にしておるのは、紫水晶の首飾りかの』
次にアリアンロッドは、顔を違う方に向けた。
『あ』
霊体の彼女は手を叩き、ばちっとその夢の像を止めた。アンヴァルはその拍子で我に返った。
『こ、ここまでじゃ。そなた、これで私の力を信じたじゃろう!』
「ああ……」
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