追放聖女アリアンロッドは過去も未来もあきらめない! ~救国の乙女は願いを胸に時の河を超える~

松ノ木るな

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【 第十一章 】 選ばなかった道の先にある運命

⑫ むすばれるふたり

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『何もなくない!!』

 もの静かな、ふたりきりの空間。何にも阻まれることのないアリアンロッドは、全力で思いを叫んでいた。

『あなた自身が! あなたの培ってきたものが溢れるほどある! ……あなたじゃなきゃここまで来られなかった。それにたとえ、今は持ち物がなくても、そんなの全然構わない。ディオ様じゃなきゃ嫌! ずっとずっとそう、他の誰でもだめなの。私も頑張るからっ。一緒に食べ物を作って生きていきましょう!』

 彼の上に乗っかったまま、なおも必死にまくし立てる。

『わたし知ってる。真面目に励んでいれば、みんなちゃんとそれを見ていてくれる。一生懸命働く者を、人は無下にしたりしない。あなたがどんな時でも一緒にいてくれるなら、私、ちゃんと生きていけるように全身全霊で頑張る。だから、そんなふうに言わないで……んんっ?』

 彼は突然、下から両手で彼女の顔を寄せ、その唇に口づけた。



「えっ……ええええ~~~~!??」
 この一部始終をひやひやした心地で眺めていたアリアンロッド、プロポーズが成功したのを見届けたら、いろんな感情が混ざりに混ざった感動の嵐を起こし、泡を吹いて倒れた。

「おいっ!? ……夢の中だから……放っておいても問題ないよな」
 続きはルゥだけでみることになった。


◇◆

「はっ!」
「気が付いたか」
 起き上がったアリアンロッドの隣で、ルゥは胡坐をかいている。
「えっと、あれ?? 今まだ夢の中?」
 ルゥは何ともなしに頷く。

「え―っと、どうなった!? 夢の中の私はディオ様と……」
「あれからすぐ帰って、翌朝、家貸してくれてる人たちに、“実は兄妹ではなくて、一緒になることにしました~~”って話したら、“そうなんじゃないかと思ってたよ”と祝福されてた。んで、当面は借りてる小さな家でふたり暮らすことになった。ってところまでみたぞ」
「…………」
 頭の整理が追いつかない。

「で、今から夫婦で過ごす初めての夜」
 ルゥが下を指さしたら、みえてきた。小さな家屋の中、寝床の真ん中に腰を据えた彼と、ベッドの端で、もじもじと膝を抱え丸まっている彼女の姿が。

「~~~~~~!!」
 アリアンロッドはルゥの両肩を掴んで前後に振った。
「ねぇ! これ! 何が始まるの!? 何が始まっちゃうの!?」
「そんなの分かるだろ、大人なら……」
 冷めた目でルゥが見てくる。
「ちょっと黙って! 何か話してるっ」
 黙るのはそっちだ、とルゥは言いたかったが止めておいた。


『寝ないのか?』
 彼はそんな夜なのに、落ち着き払ったように見える。
『えっ……あなたは寝ちゃうの?』
 とても残念そうなアリアンロッドだ。自分の態度が原因だとか考える余裕はない。

『君がこちらを向いてくれなければ、私は寝るしか』
 彼はなんだか少し笑っている。そう言われてしまったアリアンロッドは、おずおずと彼のすぐ隣にきて、また膝を抱えた体勢に。したら彼は、膝を抱える彼女の腕を外し、そのまま彼女を押し倒した。

『ディオ様っ……!?』
『捕まえた。もう離さないよ』
 ディオニソスのアリアンロッドの両手首を掴む力は、アリアンロッドがかつて感じたことのない、男の力であった。
 しかし、アリアンロッドにはかすかに伝わり感じられた。

 ほんの小さな、彼の震えが。

『ディオ様……怖いの?』
 真顔で尋ねていた。

 彼は目を細めて、一度彼女の胸元からのぞかせる不死鳥の聖痕を見た。
『神から奪うんだ。神の愛する、天から降ってきた少女を、こんな、ただの人間が……』
 声もごくわずかだが震えているように聞こえる。

 アリアンロッドは、彼がやはり無理だと言い出したらどうしようと焦った。
『わ、私、一緒に神様に叱られるから! ……ううん、どんな罰でも私が引き受けるから、ディオ様は……んっ』
 彼が怖気づかないように説得しようとするアリアンロッドの口を、彼はまた唇で塞いだ。

『心外だな。君は、神の罰を恐れて私が逃げていくと心配してるんだ?』
『違っ……だ、だって、あなたがそんな罰を厭わないほど私のことを、なんて……』

 今度はゆっくりと口元に唇を寄せられたので、彼女はそれを受け止める意識を保てた。が、次のキスは、
『んん……~~~~!』
初めて口の中を舌で撫でられ、それが離れた後も、言葉を封じられたような非現実感であった。

『ずっとこんな時が来るのを待ち焦がれていたんだ……どんな責め苦を負おうとも、君と一つになれるのなら、一切の後悔はない』

『ほんと? 本当に? ディオ様……』
 アリアンロッドの目に映る彼の表情は、もう今にも理性が剥がれ落ちそうな、やはり彼女の知らない彼であった。

『君を抱きながら業火に焼かれてもいい』
『私もっ! 明日この身体が焼かれてもいいから今この時はっ……』
 アリアンロッドが彼の背中に両腕を回してしがみついた。

『君のすべては私のものだ。もう神にも天にも返さない』
 そして彼は、彼女の衣服を脱がしだしたのだった。



「あああああ~~~~っ!!」
 こちらのアリアンロッドは耳まで真っ赤で、実際、下のふたりの会話はほぼ聞こえていなかった。
「なんだよ、うるさいな。ここからなのに」
「こ、ここからぁ~~!??」
「ほらもうだいぶ脱が……」
 アリアンロッドはルゥの喋りを遮り、血眼で叫ぶ。
「私!! その辺、走り込み行ってくるから!!」
「お、おう……」
 夢の中でどれほど有効かは分からないが、目をつむり耳を塞ぎながら彼女はどこぞへ走っていってしまった。



 その後、がむしゃらに走り回ったアリアンロッドがルゥのところに戻ってくると、昼間であれば新婚のふたりは畑を耕していたり、町人らと協力して狩りをしていたり、汗だくな日常の風景を見せていた。新妻アリアンロッドはいつも、夜の来るのを待ち遠しい、といった雰囲気でいる。
 それが夜であると、ふたり常に仲良く寄り添っている。揃ってベッドにいる場面に遭遇すると、相変わらず赤面のアリアンロッドは走って逃げていくのだが、この時はルゥの目を塞いで騒いでいた。

「なんであなたそんな冷静に見てるの! 8つの子どもが!!」
「だって俺、父さまと母さまの、こっそり見てたし……」
「えええ~~!!?」
 両親の揃った家で育っていないアリアンロッドが知らないだけで、そんな大したことでもない。

「まぁ、俺が小さい時の話な。最近はないし」
 ああ、母君はもう調子が良くないのだっけ、とアリアンロッドも寂しそうな彼女を見て切なくなった。



 とにもかくにも、夫婦として常にふたりは共にあった。それはごくありふれた平民の姿で、アリアンロッドはまさに夢だと感じた。夢の日々が繰り返し繰り返し流れ、いつしか夢の中のアリアンロッドは身体に変調をきたす。

『どうしたんだ?』
『何を食べても味が変なの……。たまに、胸やけも……』

 病ではと彼も心配し、町の薬師に相談した。するとそこで、身ごもっている事実を告げられたのだった。
 もちろんふたりして、かつてないほどに大喜びする。
 アリアンロッドはそれから徐々に膨らむ自分の腹を眺めては、心躍る毎日を過ごしていた。


 妊婦のアリアンロッドが優しく腹を撫でるたび、それをみているアリアンロッドも、自身の平らな腹を撫でてみる。どういう感じなんだろうと想像せずにはいられないが、その高揚感まで真に受け取る術はないのであった。


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