【2章完結】これは暴走愛あふれる王子が私を呪縛から解き放つ幸せな結婚でした。~王子妃は副業で多忙につき夫の分かりやすい溺愛に気付かない~

松ノ木るな

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メテオの章

⑬ 旅行とくればプロポーズ大作戦?

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 私をお妃さまと呼んだロイエは少々得意げな表情かおをしている。

『私の彼、うかつなんですよ。先生がお妃さまだという秘密は、気を付けていたようですが、あちらのお方のことを“殿下”と、ぽろっと』

 そう話し、今は部室の隅で黙々と割り当てをこなすダイン様のほうへと視線を流した。

 あらら……。でもそれなら、ダイン様について知れるだけでは? 彼と私の関係は……

 ピクニックの日の雰囲気でバレてしまったのかしら? 彼女の前ではただの教師と生徒であるよう、注意を怠らなかったつもりよ。

『恋人とのデート中にも関わらず、ずいぶん目ざといのね、あなた』

『いいえ。あの日より前から……』
『?』

『私、あちらのお方の、隣の席じゃないですか。以前から、“この人、授業中も休み時間も、すっごく先生を見てるなぁ”って気付いてしまったんです』

 見て……る?

『全力で先生を追っかけていた』

 追っかけ……?

『まぁこれは比喩表現ですが、実際、話しかけようとしたら他の生徒に取られちゃった、なんてことも何度か』

 そうなの? 気付かなかったわ……。

『最初はよくある思春期の欲望っていうのかな? 優しくてセクシーな年上の女性が好みなのね、って思いましたが』

 思春期の欲望……。

『まさか第三王子殿下だったなんて。そして思い出しました。殿下はたしか新婚さまです。つまり、先生の正体は』
『ああ、それ以上言わないで!』

 慌てて彼女の口を手で押さえてしまった。シアルヴィたちに聞こえたらマズいというのもあるけれど、なによりもう、恥ずかしくて居たたまれない!

『ええと、私はこれでもまじめに教員の職務に向き合っているつもりで』

 えこひいきなんてしないと固く誓っているけれど、信じてもらえるかしら……。

『分かっています。先生は分け隔てなく、生徒ひとりひとりに親身に対応くださる頼もしい先生です!』

『…………』

 ああ、他者ひとにちゃんと気を配れるしっかりした子だな。その誉め言葉に単純な私は浮かれてしまう。

 生徒の手前、落ち着かないと。何食わぬ顔で窓際に寄り、深呼吸をして目に映る学院の風景を眺める。すると辺りはなんだかいつもよりきらめいて見える。ほんとうに単純ね。

 私、この子たちの成長をできるだけ取りこぼさず、心ゆくまで見届けたい──。
 
『さぁ帰ろう!』
 ガタガタッと椅子の音を鳴らして声を上げたのは、もちろんダイン様。

『レイ君、仕事が早くて助かるよ』
『レイ=ヒルド。次はこの星図の複写を、1時間以内にお願いしますわね』
『また雑用か!』
『私もそれやります!』

 ほら、なんてキラキラ眩しい風景。守りたいわ、この日常を。

 1ヶ月以内に、部員あとひとり……なんとしてでも!!



***

 夕焼け空を橙の雲がたなびく金曜日。
 あっという間にウィークデイは過ぎ去る。

 私は今日も寄り道せず、まっすぐに帰宅。
 こちらの王族は金曜夜にしばしばパーティを開き、朝まで歓談に興じるとの話も聞いたけど、ダイン様がそういうのには参加しなくても良いと言った。業務で慌ただしい私を気遣ってくれたようだ。

 ダイン様はあれからまたぱったり学校に来なくなり、更に邸宅にも帰ってきていない。……ちょっとさみしい、なんて彼の重荷になることは口にできない……。

「おかえりなさいませ、ユニ様」
 早速アンジュが出迎えてくれた。隣の下男が私のコートと鞄をさっと受け取り、部屋に運んでくれる。

「お食事になさいますか? それともお風呂に」
「ユニ様!」
 ここでアンジュの労りを遮ったのは、慌ててやってきたラス。

「だたいま帰ったわ」
「おかえりなさいませ」
 一礼をしたらラスは、私を玄関のほうに向き直させる。

「ただいま殿下より使者が参りまして」
「ん?」
「これから別荘に向かうように。週末はそちらで共に過ごそう、とのこと」

 ? ダイン様は今どちらに?

「あ、温泉旅行という話でしたね! 今日あたりだろうなと、ユニ様の支度はすべて整っております!」

 温泉旅行?? 私は聞いていないけど?
 戸惑っている間にも速やかに、馬車内へ押し込められた私であった。



 ガラガラと車輪の音を響かせ、馬車は王都を囲む外壁の西門へ向かう。目的地はそこを出てしばらく行った先に建つ、ダイン様所有のマナー・ハウスだそうだ。

「別荘を囲む森の脇に、温泉が湧いているそうですよ。この2泊のあいだはおふたりでゆっくりお過ごしになれますね!」

「ダイン様も今、そちらに向かわれているの? どちらから?」

 私の問いに、ラスとアンジュが目を合わせた。

「これは話していいのでしょうか」
「俺は責任を持たないぞ」
「もう黙っているのがつらいです~~」

 ん? なに、ふたりとも。

「あのですね!」
 私の真ん前に座るアンジュが、荒い鼻息と共に顔を突き出す。

「3日前から殿下は別荘そちらに泊まり込まれて、ユニ様を迎える準備をなされているのです!」
「3日前?」
 確かにこの3日間、見かけていないわ。

「きっとユニ様にプレゼントをご用意されておられるのですよ!」
「おい、話し過ぎだぞ」
「はわわわ話し過ぎました~~」

 プレゼント……?

「この頃、何も特別な日はないわよね? それに自宅ではだめなの?」

「ユニ様、鈍いですね~~。気分を盛り上げたいじゃないですか!」
「?」

「森に囲まれた静かな別荘、湧き出る温泉。そこでプレゼントを渡すとなればそれは」
「それは?」

「ダインスレイヴ様のプロポーズ大作戦ですよ! 特別な日は各自で作るものです!」

「!!」
 そんな、特別な何かが起こるのかしら!?

「妄想を繰り広げ過ぎだアンジュ」
「繰り広げ過ぎました、えへ」
「えへじゃない、到着する前から期待値を上げるな」
「ラスさん、殿下を心から応援しているんですね!」
「ユニ様が期待はずれで落胆されたらと心配なだけだ!」

 本当に? 今からプロポーズしていただけるの??

 ふたりが相変わらず賑やかで明るく楽しい馬車の旅であったが、私はずっとふんわり上の空だった。

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