サトリ

マスター

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第1章

11.ちょっとどうでもいい話part3

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「わたしもパーティーに出たいよー。美味しいご飯が食べたいよ」

 白が修羅のベッドの上でバタバタと暴れている。
 今日は一宮蘇芳の社長就任の祝いの席が設けられていて、茜や紫その他の親戚達もそれに出席している。

「…煩い」

 修羅が呆れたように言う。

「少しだけ覗きたいなー。少しぐらいならバレないかな?」

「あんまり駄々をこねると柱に括り付けるぞ」

 修羅に一喝されてから白は少し大人しくなったが、時折「見るだけならバレないかなー」と繰り返していた。

 駄々をこねているうちに疲れたのか、一時間もすると白は眠ってしまっていた。いつの間に移動してきたのかソファに座っている修羅の隣でだが。

 修羅は長い間ボーッと天井を仰いでいた。
 白が人目に触れないように見はっとかなければならないから、何処かに行く事も出来ない。
 そうして、どれくらいの時間が過ぎたのか分からないが、ドアをノックする音で修羅は我に帰った。
 時計を見ると二十三時近かった。パーティーももうお開きする頃だろうからドアをノックする人物には想像がついた。

「ヤッホー。差し入れだよ」

 ドアを開けるとそこには膝丈までのドレスを着た茜がいた。手には白い箱を持っている。

「…何の用だ」

「だーかーら、差し入れだって。お茶しに来たの。パーティー疲れちゃった。白は?」

 茜は部屋に入っていき白が寝ているのを見つけた。

「起きなさい。ケーキ持ってきてあげたわよ」

 茜は気持ち良さそうに寝ている白の両頬を引っ張った。

「…!痛い!痛い!」

 白はすぐに目を覚ました。

「おはよ」

「あれ?茜、どうしたの?」

「ほら、ケーキ」

 茜は白の目の前に白い箱を差し出した。

「わー、ありがとう!ねぇ、シュラ食べようよ」

 白は目を輝かせている。

「私は別にいらな-」

「たくさん持ってきてあげたんだから修羅も食べてよね」

 断ろうとした修羅を茜が遮った。

「コーヒーがいいよね」

 茜がコーヒーを淹れに行こうと立ち上がったが、修羅が「私がやるから」と言って台所に行った。

「何を持ってきたの?」

 ソファの前のテーブルに置かれた白い箱を見つめながら白が言った。

「えーとね。苺のショートケーキとオペラと梨のタルトと苺のタルトとクレームブリュレとマカロンが五つかな」

 箱を開けながら茜が説明する。

「おい、白。皿とフォークぐらい運べ」

 コーヒーを淹れている修羅に言われ白は急いで皿とフォークを運んだ。

「私は苺のやつがいいなー」

「ケーキとタルトどっちよ?」

「んー、ケーキ?」

 白と茜が話していると修羅がお盆にコーヒーと砂糖とミルクを持ってきた。

「修羅は何がいい?」

「何でもいい」

「じゃあ、オペラね」

 茜が皿にケーキを乗せていく。

「もう、パーティーは終わったのか?」

 ソファに座った修羅が訊いた。

「いや、私が抜けてきた時にはまだ終わってなかった。でも、もう終わったかな」

 茜は梨のタルトを食べている。

「ねぇ、茜。紫達はいつ戻るの?」

 白がケーキを頬張りながら不満そうに訊いてくる。

「明日にでも帰るんじゃないかな?今回の為だけに帰ってきてるから」

「そうなんだ」

「でも、後一年ちょっとでこっちに帰ってくると思うよ。留学してるだけだから」

「え…」

 少しホッとしたのもつかの間、白は凄く嫌そうな顔をする。

「別に帰ってきたってここに住むわけじゃないんだから気にすることもないだろ」

 半分程食べたケーキの皿を白の方にやりながら修羅が言った。

「そっか…そっか、じゃあ、大丈夫かな?」

 白は自分に言い聞かせるように呟いて、修羅が残したケーキを食べ始める。

「ねぇ、茜。そのさ、一つ訊きたいんだけど…」

 白が言いにくそうに茜に話しかける。
 白の隣で修羅が複雑そうな顔をしているのを見て、茜は白が言わんとしている事はだいたい分かった。

「パーティーにさ、私の…私のお母さんとお父さんは来てた?」

「…来てたわよ。両方、後は…あんたの妹も」

「そっか…元気そうだった?」

「元気だと思うわよ」

 白は安心した様な疲れた様な顔をしていた。

「…そっか」

 白は小さく呟いた。


      ************


 静かな部屋にキーボードをカタカタと叩く音だけが響く。

 -最近、首斬りの殺人鬼が議員を殺害したのを最後に影を潜めて代わりに通り魔がテレビを賑わせている。無差別で場所もバラバラ。「首斬りが手口を変えたのでは」と言う意見も出ている。後は首斬りは複数犯だったが、仲間割れを起こしてその一人が通り魔になったとか。それというのが、死者が出たからだ。傷つけるだけにしていたが、我慢できなくなって殺したという考えらしい。
 近々、通り魔から殺人鬼に変わるのではないかと自分は思っている。
 今回の通り魔は首斬りの殺人鬼とは違って目撃情報がある。

性別…男
身長…一六〇~一六〇センチ後半
年齢…十代後半~二十代前半
服装…黒い帽子にサングラス・深緑色のジャンパー

 犯行時刻は決まって夜遅くでハッキリとは見えていないらしく顔までは分からないらしい。
 警察は夜の人気のないところを一人で歩かないように呼びかけている。

「何をそんなに一人でブツブツ言ってるの?孝幸たかゆき

 突然、背後で声がした。

「…姉さん。ノックはしたんですか?」

 孝幸と呼ばれた少年は振り返らずに言った。

「したけど、聞こえてなかったでしょう」

「…そうですか。日記をつけていたんですよ。そして、殺人鬼は本当に殺人鬼ではないかと最近考えているんです」

「…どういうこと?」

 そう言いながら孝幸の机の上にお菓子の包みを置いたのは茜だった。

「文字通りです。殺人鬼は人ではない何かではないかと思っているんです。通り魔の件も含めて。姉さんはどう思いますか?」」

 孝幸はその包みを取って眺めた。

「…さぁね、興味ないわね」

 茜は素っ気なく答えた。

「そうですか」

「じゃあ、お休み」

 茜は内心苦笑しながら弟の部屋を後にした。
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