チュートリアルと思ったらチートリアルだった件

へたまろ

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第5章:会長と勇者

第1話:勇者

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『武王ローレルにこのダンジョンの破壊指示が出たそうです』
「なんで?」

 石ころが唐突に変な事を言い出した。
 というか、なんでここ?

『チジョーン様に、マスターの行動がバレたようですね』
「おいっ! おいっ……おまっ! 同盟進めたのお前じゃねーか! それで、真っ先に情報漏れてここが狙われるとか、本末転倒!」
『いえ、狙い通りです』

 おお、眼鏡の端がキラリと光ったように見えた。
 なにやら、考えがあったようだ。

「ほうっ、勇者対策でもしてるのか?」
『正直、勇者がここに来たところでどうという事は無いのですよ!マスターのお力なら』

 完全に俺頼みだった。
 ふざけんな、マジで!

『勇者というのは、基本的に人類最強です。でもってダンジョン破壊率は異常です』
「ふむふむ……」
『マスター以外には手に余るということですよ』

 そうか……俺って、そんな強かったんだ。
 ってことは、チジョーンに情報漏らしたのって……
 ジトッとした目でセーブポイントを見つめる。

『冤罪ですね。相手は神ですよ? このダンジョン内ならともかく、黄泉のダンジョンくらいなら神眼である程度は情報を入手できますよ』
「なにそれ? 反則じゃね?」

 神の前に、隠し事は通用しないってことか?
 このダンジョン内ならともかく?
 
『ここは、情報の秘匿においては全ダンジョン中最高のセキュリティが張られてますからね』
「そうなの? 初めて聞いたけど?」
『言ってません』

 言えないからね?
 喋れないもんね。
 そういう事じゃないけどね。
 言えよ! おまっ!

『予定では、準備に1ヶ月といったところですね。現在のマスターの能力なら十中八九勝てるので、取りあえず放置しますか?』
「待ちの姿勢ってことね。なら、わざわざ報告するほどのことじゃなくない?」
『いえ、重要な進言はここからです。謁見の間……このままで良いと思いますか?』
「良いよ、別に」

 出た出た。
 どうせまた、ダンジョンマスターに相応しい部屋がとか言い出す気だろ?
 何したって、ここで戦ったらボロボロになるんだからまた戻せば良いじゃん。
 そんなポイント掛かるようなもんでも無いし。

『威厳的なものです』
「それ、ローレルを生かして返すって事?」

 死人に口無しだからね。
 どんなに、豪華絢爛に部屋を飾り立てたところで、それを見た者は全て死んでいるとか。
 誰にも伝わらないし。
 なんなら、廊下で戦っても良いくらいだ。

『いえ、殺したければ殺して貰って良いですが、もっと強い勇者が生まれる可能性も』
「ああ、勇者は一人だもんな。ローレルって強いの?」
『人間にしては……パーティレベルでいけばテューポーン様に傷を入れることが出来るくらいに』

 なんだ、雑魚か。
 30%で楽勝だな。

「手加減して追い返せって事かな?」
『そうですね。でもって何度も再戦させるべきです。その間に他のダンジョンの方々には力を蓄えて貰えれば』

 なるほど。
 時間稼ぎって事ね。
 そうだね、これ以上ダンジョン減らされるのも得策じゃ無いし。
 よしっ、じゃあ勇者も謁見の間も放置で。

『私の話聞いてました?』
「良いよ別に。なんだったら、1階層に迎えに行ってそこで追い返しても良いじゃん」
『はっ! そうすれば、ダンジョンの全貌も分かる事は無いですしね』
「そうそう、あたら無駄にこっちの戦力を減らすのもアホらしいし、勇者が来たら教えて? 一階層で最終決戦してあげるから」
『最終って殺してますよね? ちゃんと生かして返して下さいよ?』

 はいはい。
 まあ、うっかり殺しちゃったら俺も死んでやり直せば……あれっ? 勇者って経験値的には美味しかったり。

『経験値は破格ですよ』
「よしっ、そのうち1回は殺しとこうか」

――――――
「ば……ばけもの!」
「嘘でしょ!」
「なんで、一階層にこんな強い奴が」
「に……日本人?」

 オーソドックスな4人パーティ。
 勇者は武王ローレル。
 あとは剣聖のなんとかさんと、賢者のなんたらさんと、聖女のカオルちゃん。
 うん、カオルちゃんってトラベラーだった。
 高校生くらいかな?
 この子は、チジョーンにダーツで選ばれて頭がボーンしたのかな?

『それは、マスターだけです。彼女はチジョーン様に頼まれて来てますから。元々転生、転移願望が強かったみたいで』
「あー、若いのにこじらせちゃったのね。いや、普通に憧れるかも。チートが確実に貰えるなら……」

 俺もチート欲しかったわ。
 ここまで来るのに、どれだけ死んだ事だか。
 全魔法適正とか、全武器マスタリとか、身体強化EXとか……
 セーブってリアルだとチートだけどね。
 いやあ、一生分死んだわ。

『人は一度しか死ねませんよ?』
「ナイス突っ込み! セーブネタだよ!」

 あまりに死に過ぎて、死とはなんぞやがチープなテーマになってるし。
 まあ、良いや。
 でもって、今目の前には……ごめん間違えた、俺の足の下にはローレルが横たわっている。
 
「ローレルを離せ!」

 剣聖のナントカが斬りかかって来る。
 まあ、何もせずに敢えて斬られておこう。
 絶対切断も無い剣で斬られたところで、チャンバラのふにゃふにゃの剣くらいにしか感じないし。

「くっ! 俺の剣なんか避けるまでも無いってことか?」
「あっ? ああ、いま何かしたのか?」
「どけナントカ・・・・! くらえ【ジャッジメント正義の鉄槌】!」

 おお、賢者のなんたらが聖属性の魔法を放ってくる。
 残念、もはや吸収出来たりします。

「回復してくれるのか? 優しいな……こんなに元気になったら、つい足元にも力が入るな」
「グアッ!」
「ローレル!」

 ローレルを踏み付ける力を強めると、口から血を吐く。
 やばいやばい、このままじゃ殺しちゃいそうだ。

「弱すぎて興ざめだ……鍛え直して来い!」

 ローレルを3人の方に蹴り飛ばす。

「くそっ! 許さんぞお前!」
「下がれローレル! いったん引くぞ! 転移で離脱だナンタラ・・・・
「ああ、【エスケープ緊急退避】!」

 賢者のナンタラがスキルを発動させたが、魔力が霧散する。

「ああ、すまんな。ここでは転移系の魔法は使えないんだわ。というか、出直して来いって言ったよな? あと、出口すぐ後ろだし」
「あっ!」
 
 ナンタラが恥ずかしそうに、頬を染める。
 それからこっちを警戒したままゆっくりと、出口に近付いて行く。
 まあ、男だから頬染めて恥ずかしそうにした仕草なんかに興味無いけど。
 というか、イケメン死ね!

「カオルちゃんは残っても良いけど?」
「えっ?」
「行くぞカオル!」

 あっ!
 ローレルが手を引いて、慌てるように逃げ出してった。
 それにしても、ナントカ、ナンタラって名前としてどうなんだろうな?
 双子らしいし。
 彼等の故郷では、極めしナンタラ極めしナン魔法トカって意味らしい。
 でもって、剣聖になったのが極めしナン魔法トカ
 賢者になったのは極めしナンタラ
 色々と酷い二人だったわ。
 当分来ないと思うけどね。
 
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