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魔王編

人間に嫌われ過ぎて辛いPART2

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「魔王様! 勇者が来ました!」

 またか……
 最近勇者とかいう奴がしょっちゅう来る。

「でっ? 今回の勇者は?」
「筋肉ムキムキのいかにも強そうな、見掛け倒しです。」

 また男か……
 まぁ、現実はそうだよな……
 女勇者なんて居る訳ないか……
 というくらいに、野郎に襲われまくっている。

 定期的に、女勇者でも来てくれたらテンション上がるのに。
 いや、ゴリゴリの肉体派女勇者とかはあれだけど。
 ゴリマッチョの可能性はあるかもしれないけど、細身の男勇者もそれなりにいるから大丈夫だろう。
 逆に、お前らもっと鍛えてこいやとい言いたくなるような、ガリマッチョもいる。
 ガリマッチョって脂肪が無いから筋肉あるように見えるだけで、実際は筋力は標準以下の事の方が多いからな?
 そんな細腕で剣とか振り回せるのか?
 
 と色々な勇者を見て来て、最近はちょっと勇者観察が暇つぶしになってたりもする。
 さてと……重い腰をあげて、エリーに頷く。

「まぁ、言うなれば俺を訪ねて来た客だからな……会おう」

 俺はそう言って玉座の間に転移する。
 最初は俺が勇者に会うことに、苦言を呈していたが。

「あのような下賤な輩、魔王様が自ら対応されずとも」

 とか、

「何のための警備だと思っておられるのですか? 部下の仕事の機会を奪わないでください」

 とか言われてたけど。
 正直、デスクワークばっかりってのもしんどいんだよね。
 一応町もあって、魔王領内には他にも村やら町がいくつかあったり。
 だから、書類仕事もそれなりにある。
 もめ事やらトラブルも多いけど、ほら……魔族って割と腕力一辺倒なところがあるから。
 なかなか問題の根本的な解決ができないというか。
 だから、結果として俺が割とそういった雑務をやらされることが多い。
 適材適所だな……俺の負担が圧倒的に多いけど。

 だから、こうやって勇者をからかうのは、割と良い息抜きだったりするわけで。
 あれこれ考えながら、玉座の間でぼやっと待つ。
 時間かかってるなー。
 遠くから剣戟の音がするけど、まだまだここまで辿り着きそうにないな。
 部下からすれば、勇者との戦いはチャンバラごっこの延長戦でしかない。
 なんせ、ここは魔王城。
 そうラスダンだ。
 部下たちも、それなり以上の腕利き揃い。
 まともに相手したら、城下町を歩くことすらできないだろうからな。

 一応幹部には、勇者は漏らさず俺に通せと言ってある。
 だから適当に戦ってもらって、負けたフリしてもらってる。
 なんでそんな事するかって?
 だって、魔王暇なんだもん!

「はぁはぁ、ついに辿り着いた」

 扉の前で声がする。
 こいつらは、隠密行動を取ることが無い。
 俺が勇者の立場なら、不意打ち、暗殺、その他もろもろとにかく楽な方法を選ぶ。
 魔法のある世界とはいえ敵城に僅か、4~6人で挑むとか。
 しかも、相手は魔法に長けた魔族だというのに。
 竹中半兵衛が稲葉山城を17人で乗っ取ったのだって、あれこれ工作をして運も味方につけての事。
 しかも部下であるうえに、弟を人質に取られている状況を逆手にとっての事。

 それをたったの4~6人で、しかも精鋭揃いの魔王城を落とそうとか。
 ばかじゃないの?
 下手したら、城下町ですら敵だらけなのに。
 武装した人間なんて、敵以外の何者でもないのに。

「僧侶回復を頼む」

 出た! 
 いつものやつ!
 回復も、黙ってやれというか……わざわざ、ここまで来てやらなくても。
 廊下の途中とかで、済ませとけよ。
 これ、人によっては、ここで飯食いだすやつとかもいる。
 ゲーム脳って可能性があれば、転生者としか思えないな。
 今のところ、欧米人系の容姿が多いけど。
 たまに、南米や東南アジア系の勇者も。

 フフフ……それにしても、魔王の部屋の扉の前で回復とか……呑気だよな勇者達って……
 毎回このパターンだから、前回は玉座から魔法を封じてやった。
 メッチャ焦ってた。
 こっちの皆はメッチャ笑ってた。

 で、一応入ってきたんだけど、戦う前からすでに死んだ目してた。
 爆笑したら、女僧侶が泣きだした。
 今度はコッチがメッチャ焦ったわ。
 流石に罪悪感感じたから、10年早いつって転移で近くの町に飛ばしてあげた。
 だから、回復の邪魔はしない事にしたよ。

「お前が魔王だな!」

 馬鹿だよなー勇者って……
 扉開けた瞬間に全力攻撃かませば良いのに。
 いっつも聞いてくる。
 正義って辛いよねー……

 何回か前に、扉開けた瞬間にギリギリ死なない程度の魔法ぶつけてみた。
 めっちゃビックリしてた。
 皆で大爆笑した。
 てか、普通警戒くらいしとけよ。
 魔王が正々堂々とか、普通ありえないよ?
 そんな良い奴なら、友好関係簡単に築けるっしょ?

 まぁ、俺も最初の頃は勇者様御一行歓迎の垂れ幕作って、美味しい料理用意したり、良い部屋用意したり、土産まで用意してたけど、何故かこいつら怒り出すんだよなぁ。
 まさか勇者ご一行がそんなに弱いと思ってなかったから、部下に接待手加減させてなかったのも悪かったんだけど。
 開口一番から怒号が響き渡ったわ。

「お前ふざけてんのか!」

 って。

「こっちは命がけで来たのに……戦士が死んだ! 魔法使いも死んだ! 僧侶は石にされた! それでも頑張って辿りついたのに、お前は遊び気分で死者を冒涜するのかぁ!」

 とかマジ八つ当たり。
 あと話通じない。
 正義の味方なのに話し合い出来ない脳筋ばっか……

 しょうがないから、楽しんで殺さない程度にして近くの町に飛ばし続けてる。

 ヤバいヤバい、ボーっとしてたら今現在対峙している、筋肉勇者が喚き始めたわ。

「おいっ、無視すんなっ! お前が魔王かって聞いてるんだ!」

 こいつ筋肉に物言わせて今まで来たんだろうな……
 って事で、筋肉奪ったらどんな顔するかな?

「【激太リバウンド】」

 これ、筋肉を脂肪に変える魔法ね?
 今作った!
 本日のビックリドッキリチートマジック!

「なんだ急に体が重く……」
「勇者お前!」

 戦士が驚いてる。

「おいっ、エリー! 鏡を見せて差し上げろ!」

 俺がエリーに言うと、エリーが姿見を作り出す。
 鏡に映った自分を見て、唖然とする勇者。
 てか、デブ……マジデブ……どんだけ筋肉付けてたんだよ。

「フッフッフ、そのような肥え太った姿で戦えるのか?」

 勇者がガタガタと震え始める。

「俺の……俺の正義が……」

 お前の正義って筋肉かよ!
 思ったより面白くなかった……
 まぁいいや、サヨナラー

「なっ……体が……」
「俺も……」
「何この光……」

 ただの転移魔法だよ……

 そして、勇者一行が光の中に消えてった。
 てか、この近くの町ってどんな気分なんだろうな。
 希望の町って名前だったっけ?
 毎回勇者が最後に寄る場所だけど、毎回勇者がいきなり送り返されるわけだし。
 しかも心折れた状態で……
 もしかして絶望の町とか呼ばれてたりして……

 それからしばらくして……ついについに来ました!
 念願の女勇者!

「魔王様勇者です!」
「またぁ? 今度はどんな奴なの?」

 エリーとのこのやり取り何回目だろう。

「驚かないで聞いてください!女の子です!」

 キターーーーーーーーー

「うむっ! すぐに参る!」
「えっ? 魔王様?」

 エリーがジト目をこっちを向けてくる。
 有難うございます。
 本当にね。
 そういった表情も可愛いから、サキュバスずるいわー。

 とりあえず、転移で玉座の間に移動する。

 遠くで剣戟が聞こえる。
 すぐに俺は部下全員にテレパシーを飛ばす。

 勇者に、一切傷を付ける事を許さん!

 部下全員が動揺するのを感じるが、別に気にしない。
 めっちゃ、回復魔法使ってる波動感じてるけど気にしない。

「おい、やべーぞ! このおっちゃん、腕取れかけてる!」
「強力粘着液芋虫連れてこい!」
「癒せ癒せ!」

 ……いや、おっちゃんはどうなってても良いけど。

「勇者、骨見えてる」
「やべー! 治せ治せ!」
「記憶消せ! 怪我した記憶消せ!」
「絶倫様呼んでこい!」

 ……いや、『女勇者と絶倫悪魔』ってなんか安っぽい18禁ラノベのタイトルっぽい。
 呼ぶな! 呼ぶな!

 暫くして、ようやく喧騒がおさまる。

 それからすぐに、玉座の間の前に来る気配がする。
 玉座の間の前で、一旦間を置いてから扉が一気に開かれる。
 まぁ、今回は怪我させるなって命令だったしね。
 回復要らないよねー。

「お前が魔王か?」
「うん、そうだよー!」
「そっ……そうか……」

 あっけらかんと答えてやったら、なんか唖然としてた。
 まぁいいや。
 若いなー……10代半ばくらいかなー?
 こんな子に魔王討伐とか、王様酷くね?
 女神の啓示で決まるんだっけ?
 女神とか居るのかな? 俺とどっちが強いかな?

「勇者様ここは私が……」

 うわっ、むっさいオッサン戦士だ。
 邪魔!

「【強制送還リパトレイション】」

 はいっ、さよーならー!

「おっ、お父さん?」

 あっ、お父さんだったの?
 てか父親に様呼ばわりされるとか、微妙だよねー。
 本当に酷な事するわ、王様は。

「くっ、勇者様これはヤバいかもしれません。私がおとりに」

 むさいオッサン魔法使いだ……
 これも身内とか言わないよね?

「魔法使い、無理するな。」

 違うみたいですね……ならさよーならー!

「【強制送還リパトレイション】」

「叔父さん!」

 あと二人……あぁ、もう一人も男か……男僧侶ね?
 サヨーナラー

「【強制送還リパトレイション】」
「そうりょーーーーーー」

 僧侶は身内じゃないのかな?
 まあ、親戚のおっさん連中と魔王退治とか、どんな罰ゲームって感じだしね。
 とりあえず、邪魔者は排除しちゃったことだし。

「これで二人っきりだね」
「ゴホン……」

 あれっ? エリーもう来たの?
 早すぎじゃね?
 しまったなー。
 エリーの足止めを、頼んどくべきだったか。

「魔王様?」
「ごめんなさい……調子乗っちゃいました……」

 エリーに睨まれたら謝るしかないよねー。
 やや、本気のおこだし。

「卑怯な真似を、皆をどこにやった!」

 勇者ちゃん怒っちゃやーよ
 てかメッチャ足震えてる。
 可愛いー。

「魔王様?」

 あっ、色々と勘繰られてる。
 なんだろう、下心がバレてる感じかな?

 側近が優秀過ぎて辛い……
 辛くなんてないやーい! 念願の女勇者だし!
 俺殺しに来てるんだから、何してもいいよね? ほらっ、俺魔王だし。

「魔王様!」

***
「ごめんなさい……」

 今俺はエリーの前で正座している。
 女勇者? とっくに帰ったよ……
 エリーが送り返したよ……

 足が痛くて辛い……

「ちょっと可愛い子が勇者だからって、デレデレしてみっともないです!」

 あれっ? 嫉妬してるの? 嫉妬してるのかな? ウリウリー!

「今日は、晩御飯無しです!」

 なにその罰、可愛い!

***
 深夜2時……腹減った。

 晩飯抜き嘗めてたわ。
 食べ物一切出てこない。

 食糧庫開けようとしたら、アラームなってエリーが即行来た。

 無理……

 眠いけど、腹減り過ぎて寝れない……

 ……辛い。

***
次の日

「魔王、昨日はよくもやってくれたな!」

 女勇者キタ――――――!

「昨日は何もやってないよ?」
「せっかくここまで来たのに、速攻で町に送り飛ばしたじゃないか!」

 確かに……
 ある意味では酷いかもね。
 あっちもなんも出来てないし、これじゃ勇者も何のために頑張って来たのからわからんね……
 つーか、僧侶と魔法使い居ない……どした?

「てか今日は二人?」
「くっ……魔法使いと僧侶は……死んだ」

 はっ? えっ?転移させただけだよね? 場所が悪かったとか?
 いや、あそこ平野部だし!
 たまたまキャンプファイアーでもしてたとか?
 俺の質問に、勇者が顔を伏せながら答えたけどやっちまった? 俺?

「魔王という言葉を聞いただけで、震えて動けなくなった……勇者の仲間として死んだも同然だ!」

 あぁ、そういうことね。
 紛らわしいよ?
 でも、わざわざ説明してくれてサンクス! このままじゃ死因が気になって寝れやしない。
 優しいね、流石勇者様!
 正直、焦ったわ。

「それは、なんかゴメン……」
「私は何があっても勇者様に付いていきます。」

 父親が、うつむいて拳を握る勇者の肩を叩きながら慰める。
 まぁ、貴方は保護者だしね……
 麗しき親子愛!
 でも今は邪魔!

「【強制送還リパトレイション】」
「またぁ? おとうさーん!」

 勇者が超ビックリした顔してる可愛い!

「魔王様?」

 うっ、エリーたんに睨まれた。
 はいはい、分かってますよ。
 ちょっと真面目になろう!

「勇者、お前なんで俺殺したいの?」

 取りあえず、気になったし聞いてみよっと。

「お前が嫌いだからだ!」

 はっ? えっ?

「聞こえなったか? お前が嫌いだからだ!」

 なんで二回いったし……
 大事な事だから?
 酷い……
 魔王でごめんなさい……
 辛い……

 あれっ? なんか急に後ろか寒気が……

「魔王様がお嫌いですって?」

 うわあ、エリーがメッチャ怒ってる。
 俺の為に?
 魔王で良かった……
 嬉しい。

「当たり前だ! 魔王が嫌いじゃない人間なんていない!」

 うぉぉぉい!
 それは、流石に何がなんでも言い過ぎでしょ! そんなわけあるかーい!
 えー……てかなんで魔王ってそんなに嫌われてるんだろ……

「貴女……生まれてきた事を後悔させてあげるわ……」

 やべっ、エリーたんキレちゃった……
 これ、あかんわ……

「くっ、なんて魔力……こっちは一人なのに、魔王の他にこんなに強い魔物が居たなんて……」

 メッチャ震えてるよ……
 ついでに、エリーたんの怒りで大気も震えてるよ……
 って事で……

「【強制送還リパトレイション】」

 はいっ、サヨーナラー

「魔王様?」
「あっ、なんかムカついたからつい飛ばしちゃった。テヘッ」

 ぶつけようのない怒りで、エリーたんおかしくなりそうです。
 しょうがない……このままじゃ女勇者ちゃん死んじゃうし……
 そうそう、ついでにエリーたんの機嫌もとっとこっと。

「まあ、我の為に怒ってくれるのは嬉しいが、わしは笑っている方が好きじゃぞ」

 そして、ここでキリッ!
 みるみる顔が赤くなるエリー……チョロいぜ!
 てか魔王城なら、かなりモテモテなんだぜ俺!
 種族問わず……辛い……

「まっ……そんな言葉では誤魔化されませんからね!」

 エリーたん、めっちゃ動揺してる。
 顔真っ赤っか……効果覿面過ぎ、チョロ過ぎて笑える。
 てか、こんなじじいのどこが良いんだろう。

***
「魔王様、また勇者です……またあの女勇者です! にっくきアイツがまた来ました!」

 エリーたん、恨みこもってるねー……

「うっ、うむ参ろうか……」
「もう、殺しても良いですか?」

 物騒な事言うなよ……
 てか、彼女もめげないなー。

 玉座の間で待つと、今日も二人で来てた。
 お父さん若干、面倒くさそうになってる。
 なんでかって?

「【強制送還リパトレイション】」

 はいっ、サヨーナラー!
 って、すぐに送り返すからね。

「お父さーーーーん!」

 お決まりの流れです。

「では、昨日の続きねー! なんでお前ら俺が嫌いなの?」
「お前が魔王だからだ!」

 身も蓋もない……
 エリーたんのこめかみがヒクヒクしてる。
 女の子のこういう姿って苦手……
 一生懸命な女の子ってか、力んでる女の子苦手とかって分かってもらえるかな?
 分からないかな?
 まぁ、どうでもいいや!

「うむ、質問を変えよう。なんで魔王が嫌いなんだ?」
「知らん! 嫌いだからだ!」

 なんじゃそりゃー!
 おかしいだろ!
 なんか理由の一つくらいあってもいいよね?
 てか、これあれか? 転生チートの中でもちょいちょい見かける女神陰謀説出てきたでおいっ!
 実は神が黒幕で裏で糸引いてました的な?
 まぁ、どうでもいいや……
 とりあえず、こっち優先やね。

「そんなわけあるか! 理由くらいあるだろう?」
「無い! 人間は産まれた時から、魔物を嫌い、魔族を嫌い、魔王を一番嫌うものじゃないのか?」

 酷いぞこの世界!
 これ、人間と友好はかるの無理ゲーじゃん……

「ほうっ、魔王様? 流石にこれはもう人間滅ぼしてもいいですよね?」

 エリーたんの顔が喜色に溢れてる。
 なんか、人間討伐の大義名分を得たみたいになってるね……あの顔は……
 アカンでー!

 それと不思議な事に、魔族は先天的に人が嫌いじゃなくて、人が攻めてくるから嫌いなんだよねー。
 なんとなく、分かってきたような、分からないような……
 とりあえず、女勇者危険だから帰すか。

「【強制送還リパトレイション】」
「もー、また魔王様は!」

 エリーたんが怒ってる。
 けどまぁいいや……

 てか、人間に嫌われ過ぎて辛い……
 おれ元人間なのに……フフフ……はぁ……魔王辞めていいですか?
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